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時戻り後の世界
22.違和感①
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情報共有の為に団長のダンスの誘いを受け、手を差し出した。何か異変を感じたのかも知れない。
「お誘い断られると思ったんですけどね。良かったんですか? 三回目のダンスをしたら決定的なアピールだったのに」
「えっ──まだ正式に婚約してないから。二回目も本当は、ダンテの王女と交代しようと……って、待って、何かあったから誘いに来たんじゃ?」
背中に当てた手が、体をグッと引き寄せる。抱き締められたような姿勢になって顔も近い。
「なっ」
「ほら、こうすると……皇太子殿下からの殺気を感じます」
クルッと回転させられて、双子と共にエリオスがいるのが見えた。嫉妬したり怒ったりしている様子はない。
(からかってるだけ? )
「あの、ロスクーノ団長」
「ノエルと呼んで下さい」
「からかってますか?」
「どうでしょう?」
ダンテの王女がエリオスの方に近づいていくのも見えた。元々積極的だったことを思い出して、サフィラはホッとした。
(運命なら……ほっといても勝手にくっつくのかな?)
「ダンテの王女様のことが、気になるのですか?」
「王女は皇妃候補だと聞いたのです。それならエリオス様もダンスなど誘ったら良い関係になるかと……バース性もΩみたいなので」
出会うきっかけさえ作れば、変な揉めごとで惨めにならずに済む、そんな小さな理由。
「王女はやはりΩでしたか。αが多く集まる夜会に、ネックガードなしとは。やはり何か企んでいそうですね」
過去は、ガードなしで参加している王女はαだと思っていた。首に付けるのは、正直サフィラも嫌なのだ。
Ωだと認めることになるのだから。
「──何か、企むとかは……分かりませんが、つけたくない気持ちは分かります」
「まあ、でも何かあったみたいですね……しかし第一の団長に近衛騎士の礼服は似合いませんね」
(何かあったって、何?)
思わず振り向こうとして、団長の足を踏んでしまった。
「ああ、ごめんなさい! でも、あの、第一の団長がどうして」
「落ち着いて、私も大丈夫ですから。そうですね近衛騎士は魔法師が多いから、剣の腕で選ばれたのかも知れません。物理的な方向で」
いやな予感がした。
(まさか封魔具……を持ってる?)
思わず団長の手を離し、彼らの所へ行こうとすると直ぐに掴まってしまう。
「──ダメです。二人を親密にさせたいのなら、行かない方がいい」
その一言で我に返る。それが目的だった。でも、封魔具はだめだ。
「そんな顔をして、本当に仕方ないですね。その代わりノエルと呼んで下さいね」
焦りが伝わったのか、皆が集まっている方へ不自然にならないように移動してくれる。もう少しというところで、王女とレオンは数名伴って退出してしまった。
エリオスが説明の為に待ってくれていたのかと思ったのに、ノエルから引き離されてサフィラは強く抱き締められた。
「な、ちょっと、待って」
「ああ。夜に部屋にいく。二人で話がしたいから待ってて」
そう耳打ちして彼らを追ってエリオスが退出してしまう。
レオンとエリオスが戻る頃には、かなり夜も更けていて、本日の夜会は静かに終了した。夜も遅いのに本当に自室にエリオスが訪ねて来て、ライナとノエルが扉の外で護衛をしている。
軽食とお茶が用意され、黙ったまま向かい合わせでソファに座っているのが居心地が悪い。先に沈黙を破ったのは、サフィラだった。
「エリオス様。問題は解決……したのですか?」
「ああ。明日早くに彼らには帰ってもらう」
「あの。もう一度、会って来てはどうですか?」
「なぜ?」
「──なぜって」
(過去に番になった人だからって言えたらいいのに)
「サフィ。実は王女の付添人が、禁止薬剤の発情促進剤を隠し持っていたんだ」
──禁止薬剤。
「それ……サンプルもらえたりする?」
「駄目だ」
「かなり効果が高い抑制剤を作れるようになってて、それが効果があるのか試したい。禁止薬剤って秘密裏に開発されているのなら普通は手に入らないよね? お願い研究させて」
「俺はサフィの身体で実験をして欲しくない」
サフィラは、貴重な研究の為に頭を下げ続けた。
「発情しても他の人に迷惑かけないように何十も結界張るし、ライナに見ててもらう。令嬢でも平民でも……女性で試すより男の僕がいい。体力がある方が試すべきだと思う。促進剤を抑えられるのなら……望まぬ番にならなくて済むのってすごいことだからお願いします」
「すまない──」
エリオスの立場なら仕方がないのかも知れない。近くでサフィラが発情したら、きっと迷惑でしかないのだから。
「お誘い断られると思ったんですけどね。良かったんですか? 三回目のダンスをしたら決定的なアピールだったのに」
「えっ──まだ正式に婚約してないから。二回目も本当は、ダンテの王女と交代しようと……って、待って、何かあったから誘いに来たんじゃ?」
背中に当てた手が、体をグッと引き寄せる。抱き締められたような姿勢になって顔も近い。
「なっ」
「ほら、こうすると……皇太子殿下からの殺気を感じます」
クルッと回転させられて、双子と共にエリオスがいるのが見えた。嫉妬したり怒ったりしている様子はない。
(からかってるだけ? )
「あの、ロスクーノ団長」
「ノエルと呼んで下さい」
「からかってますか?」
「どうでしょう?」
ダンテの王女がエリオスの方に近づいていくのも見えた。元々積極的だったことを思い出して、サフィラはホッとした。
(運命なら……ほっといても勝手にくっつくのかな?)
「ダンテの王女様のことが、気になるのですか?」
「王女は皇妃候補だと聞いたのです。それならエリオス様もダンスなど誘ったら良い関係になるかと……バース性もΩみたいなので」
出会うきっかけさえ作れば、変な揉めごとで惨めにならずに済む、そんな小さな理由。
「王女はやはりΩでしたか。αが多く集まる夜会に、ネックガードなしとは。やはり何か企んでいそうですね」
過去は、ガードなしで参加している王女はαだと思っていた。首に付けるのは、正直サフィラも嫌なのだ。
Ωだと認めることになるのだから。
「──何か、企むとかは……分かりませんが、つけたくない気持ちは分かります」
「まあ、でも何かあったみたいですね……しかし第一の団長に近衛騎士の礼服は似合いませんね」
(何かあったって、何?)
思わず振り向こうとして、団長の足を踏んでしまった。
「ああ、ごめんなさい! でも、あの、第一の団長がどうして」
「落ち着いて、私も大丈夫ですから。そうですね近衛騎士は魔法師が多いから、剣の腕で選ばれたのかも知れません。物理的な方向で」
いやな予感がした。
(まさか封魔具……を持ってる?)
思わず団長の手を離し、彼らの所へ行こうとすると直ぐに掴まってしまう。
「──ダメです。二人を親密にさせたいのなら、行かない方がいい」
その一言で我に返る。それが目的だった。でも、封魔具はだめだ。
「そんな顔をして、本当に仕方ないですね。その代わりノエルと呼んで下さいね」
焦りが伝わったのか、皆が集まっている方へ不自然にならないように移動してくれる。もう少しというところで、王女とレオンは数名伴って退出してしまった。
エリオスが説明の為に待ってくれていたのかと思ったのに、ノエルから引き離されてサフィラは強く抱き締められた。
「な、ちょっと、待って」
「ああ。夜に部屋にいく。二人で話がしたいから待ってて」
そう耳打ちして彼らを追ってエリオスが退出してしまう。
レオンとエリオスが戻る頃には、かなり夜も更けていて、本日の夜会は静かに終了した。夜も遅いのに本当に自室にエリオスが訪ねて来て、ライナとノエルが扉の外で護衛をしている。
軽食とお茶が用意され、黙ったまま向かい合わせでソファに座っているのが居心地が悪い。先に沈黙を破ったのは、サフィラだった。
「エリオス様。問題は解決……したのですか?」
「ああ。明日早くに彼らには帰ってもらう」
「あの。もう一度、会って来てはどうですか?」
「なぜ?」
「──なぜって」
(過去に番になった人だからって言えたらいいのに)
「サフィ。実は王女の付添人が、禁止薬剤の発情促進剤を隠し持っていたんだ」
──禁止薬剤。
「それ……サンプルもらえたりする?」
「駄目だ」
「かなり効果が高い抑制剤を作れるようになってて、それが効果があるのか試したい。禁止薬剤って秘密裏に開発されているのなら普通は手に入らないよね? お願い研究させて」
「俺はサフィの身体で実験をして欲しくない」
サフィラは、貴重な研究の為に頭を下げ続けた。
「発情しても他の人に迷惑かけないように何十も結界張るし、ライナに見ててもらう。令嬢でも平民でも……女性で試すより男の僕がいい。体力がある方が試すべきだと思う。促進剤を抑えられるのなら……望まぬ番にならなくて済むのってすごいことだからお願いします」
「すまない──」
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