【完結】 時戻りをしたΩ王子は、時間がないのでαの愛はいらない。

Shizukuru

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時戻り後の世界

21.Ωの王女様 side ジェシカ

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 王女は、どす黒い感情を押さえ微笑みを絶やさない。

 (どうして? あんな男のΩがいいの?)

 他の令息が、見惚れているのも理解が出来ずに苛立ちだけが増していく。令息がダンスに誘ってきたが、断って皇太子殿下のダンスが終わるのを待っている。アレクとレオンは別の令嬢と歓談中だ。

 (薔薇姫と呼ばれている私を待たせるなんて許せない)

 ローズレッドの緩やかに波打つ髪は、腰の辺りまで流している。サイドを三つ編みにして濃紺のリボンと薔薇石が飾られていた。
    濃紺のドレスはアベリア帝国をイメージしてデザインさせたものだった。大きなローズレッド色の瞳も、皆を魅了するには十分に魅力のあるものだと、ジェシカ・ダンテは自負している。

 サフィラがスノーリル王国の宝石なら、ジェシカはダンテ王国の薔薇姫だ。
    扇で顔を隠し、二人のダンスを憎らしげに見つめていると一曲目が終わった。次こそは、ジェシカが相手になるつもりでいた。

 
    それなのに、あろうことか二人は何かを話してそのまま次のダンスを始めてしまう。
「嘘。二度続けてダンスなんて……男のΩと本当に婚約する気?」
付添人も眉をひそめて二人を見ている。


 アレクもレオンも人気の王子であるが、の皇太子は別格なのだ。
     誰もが憧れる帝国の皇妃という立場。いずれ大国の皇帝になる人に相応しいのは誰か、皆分かっているはず。
 ──その位置に似合うのは、ジェシカしかいない。


 (男に負けるなんて……違うわ。スノーリルの貴重な輝石に薬草、魔導具を手に入れたいだけよ)

 帝国は、大陸の中で武力で隣国を略奪して来た国だ。
    スノーリル王国との和平など、簡単に破ればいい。ダンテ王国も武力には自信があり、帝国とは不可侵条約を結んでいるくらいだ。


 ジェシカのそばに、一人の青年が近づいて来た。
「ねぇ。邪魔よね……あれ」
「姫が、気に入らないのなら後で消しますよ」
「後で?」
「輝石にかなりの、魔法付与をしています。ここだと……跳ね返って目立ちますね」

「そうなのね……じゃあ、邪魔なΩを発情させて、貴族……じゃもったいないわね。平民とかにかませちゃう? エリオス様とダンスとか、本当に許せない」


 ジェシカがイライラしながら、ダンスが終わるのを待っていると一人の近衛騎士が目にはいった。

 (へぇ、綺麗な人ね。私の護衛にしたいくらい。欲しいと頼んでみようかしら)

 騎士の視線の先にいるのは、Ωの王子だった。
    スタスタと歩み寄り、何かを話した後に騎士が手を差し伸べると王子はその手をとった。

(嘘でしょう?エリオス様を置いていくの?)

 一人になったエリオスの所へ、アレク達が合流し何やら楽しげに話をしている。皆、近くに行きたいが、離れて三人の歓談が終わるのを待ち構えているのが分かった。

 ジェシカは、付添人と従者を後ろに付けてその輪に入る為に近づいた時、ガタイのいい顔に傷がある近衛騎士に阻まれ足を止める。

「何かしら? 無礼ではなくて?」
「王女殿下、ダンテの関係者に禁止薬剤の持ち込みの報告がありました。他にも条約違反の可能性がある為、別室で調査を受けて頂くようにと指示を受けています」

「そんなはずは、ありませんわ」
「確認の為です。静かに指示に従うようにと」

「なっ、無礼ですわ。こんな横暴が許されるとでも」
「──ここだと目立つ、との配慮がわかりませんか?」

「この様な扱い、ダンテ王国から正式に抗議させてもらいます」



「──構わない」
    騎士とは別の酷く冷たい口調にジェシカは、その声がする方を振り向き睨み付けた。

 その言葉を発したのはエリオスだと気がつき、慌てて困った様な庇護欲をそそるように上目使いで見上げる。

「エリオス様。誤解ですわ。この騎士が勝手に」
「名を呼ぶ許可は与えていない」
 さらに冷たい言い方に、ビクリとジェシカは身体を震わせる。
「も、申し訳ありません。ですが!」
「ダンテの王女の噂は聞いている」

    薔薇姫のデビュタントのことだと思い、ジェシカは美しく見えるように微笑んだ。
「それなら、初めてのダンスを踊ってもらえますか?」
「──俺には大切なパートナーがいるんだ。それにデビュタントは終わっているのでは? 婚約者がいる者の仲を壊すと有名な薔薇姫殿」


  表情が一瞬歪みかけたが、ジェシカは潤んだ瞳で悲しそうに振る舞い続ける。

「ひどい。そんな悪意のある噂を信じるのですか?」
「噂は信じない」
「なら!」
「その話は調べた結果真実だと報告を受けている。禁止薬剤のことをここで調べる方がいいのか?」

「ジェシカ様、一度別室へ案内していただきましょう」
付添人の言葉にジェシカが頷くのを見たせいか、レオンまで同席を求めてきた。

「アレク、サフィラを頼む。陛下たちと一緒に行動して離れないようにしてくれ」
「分かったよ」

    あのΩの心配ばかりで腹が立つが、表情は悲しげな振りをつづけている。レオンと近衛騎士に、他にも護衛が少しづつ合流してくるのが分かった。

    なぜこんなことになったのか、上手く取りいる算段をジェシカは始めた。






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