52 / 100
時戻り後の世界
21.Ωの王女様 side ジェシカ
しおりを挟む
王女は、どす黒い感情を押さえ微笑みを絶やさない。
(どうして? あんな男のΩがいいの?)
他の令息が、見惚れているのも理解が出来ずに苛立ちだけが増していく。令息がダンスに誘ってきたが、断って皇太子殿下のダンスが終わるのを待っている。アレクとレオンは別の令嬢と歓談中だ。
(薔薇姫と呼ばれている私を待たせるなんて許せない)
ローズレッドの緩やかに波打つ髪は、腰の辺りまで流している。サイドを三つ編みにして濃紺のリボンと薔薇石が飾られていた。
濃紺のドレスはアベリア帝国をイメージしてデザインさせたものだった。大きなローズレッド色の瞳も、皆を魅了するには十分に魅力のあるものだと、ジェシカ・ダンテは自負している。
サフィラがスノーリル王国の宝石なら、ジェシカはダンテ王国の薔薇姫だ。
扇で顔を隠し、二人のダンスを憎らしげに見つめていると一曲目が終わった。次こそは、ジェシカが相手になるつもりでいた。
それなのに、あろうことか二人は何かを話してそのまま次のダンスを始めてしまう。
「嘘。二度続けてダンスなんて……男のΩと本当に婚約する気?」
付添人も眉をひそめて二人を見ている。
アレクもレオンも人気の王子であるが、帝国の皇太子は別格なのだ。
誰もが憧れる帝国の皇妃という立場。いずれ大国の皇帝になる人に相応しいのは誰か、皆分かっているはず。
──その位置に似合うのは、ジェシカしかいない。
(男に負けるなんて……違うわ。スノーリルの貴重な輝石に薬草、魔導具を手に入れたいだけよ)
帝国は、大陸の中で武力で隣国を略奪して来た国だ。
スノーリル王国との和平など、簡単に破ればいい。ダンテ王国も武力には自信があり、帝国とは不可侵条約を結んでいるくらいだ。
ジェシカのそばに、一人の青年が近づいて来た。
「ねぇ。邪魔よね……あれ」
「姫が、気に入らないのなら後で消しますよ」
「後で?」
「輝石にかなりの、魔法付与をしています。ここだと……跳ね返って目立ちますね」
「そうなのね……じゃあ、邪魔なΩを発情させて、貴族……じゃもったいないわね。平民とかにかませちゃう? エリオス様とダンスとか、本当に許せない」
ジェシカがイライラしながら、ダンスが終わるのを待っていると一人の近衛騎士が目にはいった。
(へぇ、綺麗な人ね。私の護衛にしたいくらい。欲しいと頼んでみようかしら)
騎士の視線の先にいるのは、Ωの王子だった。
スタスタと歩み寄り、何かを話した後に騎士が手を差し伸べると王子はその手をとった。
(嘘でしょう?エリオス様を置いていくの?)
一人になったエリオスの所へ、アレク達が合流し何やら楽しげに話をしている。皆、近くに行きたいが、離れて三人の歓談が終わるのを待ち構えているのが分かった。
ジェシカは、付添人と従者を後ろに付けてその輪に入る為に近づいた時、ガタイのいい顔に傷がある近衛騎士に阻まれ足を止める。
「何かしら? 無礼ではなくて?」
「王女殿下、ダンテの関係者に禁止薬剤の持ち込みの報告がありました。他にも条約違反の可能性がある為、別室で調査を受けて頂くようにと指示を受けています」
「そんなはずは、ありませんわ」
「確認の為です。静かに指示に従うようにと」
「なっ、無礼ですわ。こんな横暴が許されるとでも」
「──ここだと目立つ、との配慮がわかりませんか?」
「この様な扱い、ダンテ王国から正式に抗議させてもらいます」
「──構わない」
騎士とは別の酷く冷たい口調にジェシカは、その声がする方を振り向き睨み付けた。
その言葉を発したのはエリオスだと気がつき、慌てて困った様な庇護欲をそそるように上目使いで見上げる。
「エリオス様。誤解ですわ。この騎士が勝手に」
「名を呼ぶ許可は与えていない」
さらに冷たい言い方に、ビクリとジェシカは身体を震わせる。
「も、申し訳ありません。ですが!」
「ダンテの王女の噂は聞いている」
薔薇姫のデビュタントのことだと思い、ジェシカは美しく見えるように微笑んだ。
「それなら、初めてのダンスを踊ってもらえますか?」
「──俺には大切なパートナーがいるんだ。それにデビュタントは終わっているのでは? 婚約者がいる者の仲を壊すと有名な薔薇姫殿」
表情が一瞬歪みかけたが、ジェシカは潤んだ瞳で悲しそうに振る舞い続ける。
「ひどい。そんな悪意のある噂を信じるのですか?」
「噂は信じない」
「なら!」
「その話は調べた結果真実だと報告を受けている。禁止薬剤のことをここで調べる方がいいのか?」
「ジェシカ様、一度別室へ案内していただきましょう」
付添人の言葉にジェシカが頷くのを見たせいか、レオンまで同席を求めてきた。
「アレク、サフィラを頼む。陛下たちと一緒に行動して離れないようにしてくれ」
「分かったよ」
あのΩの心配ばかりで腹が立つが、表情は悲しげな振りをつづけている。レオンと近衛騎士に、他にも護衛が少しづつ合流してくるのが分かった。
なぜこんなことになったのか、上手く取りいる算段をジェシカは始めた。
(どうして? あんな男のΩがいいの?)
他の令息が、見惚れているのも理解が出来ずに苛立ちだけが増していく。令息がダンスに誘ってきたが、断って皇太子殿下のダンスが終わるのを待っている。アレクとレオンは別の令嬢と歓談中だ。
(薔薇姫と呼ばれている私を待たせるなんて許せない)
ローズレッドの緩やかに波打つ髪は、腰の辺りまで流している。サイドを三つ編みにして濃紺のリボンと薔薇石が飾られていた。
濃紺のドレスはアベリア帝国をイメージしてデザインさせたものだった。大きなローズレッド色の瞳も、皆を魅了するには十分に魅力のあるものだと、ジェシカ・ダンテは自負している。
サフィラがスノーリル王国の宝石なら、ジェシカはダンテ王国の薔薇姫だ。
扇で顔を隠し、二人のダンスを憎らしげに見つめていると一曲目が終わった。次こそは、ジェシカが相手になるつもりでいた。
それなのに、あろうことか二人は何かを話してそのまま次のダンスを始めてしまう。
「嘘。二度続けてダンスなんて……男のΩと本当に婚約する気?」
付添人も眉をひそめて二人を見ている。
アレクもレオンも人気の王子であるが、帝国の皇太子は別格なのだ。
誰もが憧れる帝国の皇妃という立場。いずれ大国の皇帝になる人に相応しいのは誰か、皆分かっているはず。
──その位置に似合うのは、ジェシカしかいない。
(男に負けるなんて……違うわ。スノーリルの貴重な輝石に薬草、魔導具を手に入れたいだけよ)
帝国は、大陸の中で武力で隣国を略奪して来た国だ。
スノーリル王国との和平など、簡単に破ればいい。ダンテ王国も武力には自信があり、帝国とは不可侵条約を結んでいるくらいだ。
ジェシカのそばに、一人の青年が近づいて来た。
「ねぇ。邪魔よね……あれ」
「姫が、気に入らないのなら後で消しますよ」
「後で?」
「輝石にかなりの、魔法付与をしています。ここだと……跳ね返って目立ちますね」
「そうなのね……じゃあ、邪魔なΩを発情させて、貴族……じゃもったいないわね。平民とかにかませちゃう? エリオス様とダンスとか、本当に許せない」
ジェシカがイライラしながら、ダンスが終わるのを待っていると一人の近衛騎士が目にはいった。
(へぇ、綺麗な人ね。私の護衛にしたいくらい。欲しいと頼んでみようかしら)
騎士の視線の先にいるのは、Ωの王子だった。
スタスタと歩み寄り、何かを話した後に騎士が手を差し伸べると王子はその手をとった。
(嘘でしょう?エリオス様を置いていくの?)
一人になったエリオスの所へ、アレク達が合流し何やら楽しげに話をしている。皆、近くに行きたいが、離れて三人の歓談が終わるのを待ち構えているのが分かった。
ジェシカは、付添人と従者を後ろに付けてその輪に入る為に近づいた時、ガタイのいい顔に傷がある近衛騎士に阻まれ足を止める。
「何かしら? 無礼ではなくて?」
「王女殿下、ダンテの関係者に禁止薬剤の持ち込みの報告がありました。他にも条約違反の可能性がある為、別室で調査を受けて頂くようにと指示を受けています」
「そんなはずは、ありませんわ」
「確認の為です。静かに指示に従うようにと」
「なっ、無礼ですわ。こんな横暴が許されるとでも」
「──ここだと目立つ、との配慮がわかりませんか?」
「この様な扱い、ダンテ王国から正式に抗議させてもらいます」
「──構わない」
騎士とは別の酷く冷たい口調にジェシカは、その声がする方を振り向き睨み付けた。
その言葉を発したのはエリオスだと気がつき、慌てて困った様な庇護欲をそそるように上目使いで見上げる。
「エリオス様。誤解ですわ。この騎士が勝手に」
「名を呼ぶ許可は与えていない」
さらに冷たい言い方に、ビクリとジェシカは身体を震わせる。
「も、申し訳ありません。ですが!」
「ダンテの王女の噂は聞いている」
薔薇姫のデビュタントのことだと思い、ジェシカは美しく見えるように微笑んだ。
「それなら、初めてのダンスを踊ってもらえますか?」
「──俺には大切なパートナーがいるんだ。それにデビュタントは終わっているのでは? 婚約者がいる者の仲を壊すと有名な薔薇姫殿」
表情が一瞬歪みかけたが、ジェシカは潤んだ瞳で悲しそうに振る舞い続ける。
「ひどい。そんな悪意のある噂を信じるのですか?」
「噂は信じない」
「なら!」
「その話は調べた結果真実だと報告を受けている。禁止薬剤のことをここで調べる方がいいのか?」
「ジェシカ様、一度別室へ案内していただきましょう」
付添人の言葉にジェシカが頷くのを見たせいか、レオンまで同席を求めてきた。
「アレク、サフィラを頼む。陛下たちと一緒に行動して離れないようにしてくれ」
「分かったよ」
あのΩの心配ばかりで腹が立つが、表情は悲しげな振りをつづけている。レオンと近衛騎士に、他にも護衛が少しづつ合流してくるのが分かった。
なぜこんなことになったのか、上手く取りいる算段をジェシカは始めた。
411
お気に入りに追加
1,125
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?
りーさん
恋愛
気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?
こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。
他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。
もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!
そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……?
※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。
1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる