上 下
54 / 100
時戻り後の世界

23.違和感②

しおりを挟む
    「夜遅くまで引き留めてごめんなさい。リナリル茶を飲んだらよく眠れるみたいだよ」

 このままいたら、きっと嫌な顔をしてしまう。早くエリオスを帰らせようと勧めたお茶で、サフィラの方が眠くなり、うとうとしてきた。

(眠い……リナリル茶を久しぶりに飲んだから効いてる?)
 
 今寝てもきっとまたすぐに目が覚めてしまう。寝るのが怖い。必死に眠気と戦っていると向かい合わせから隣に移動してきたエリオスに自然に抱きかかえられて、膝の上に横抱きにされてしまう。あわあわしていると、さらに密着するように抱き込まれ良い香りに包まれた。

(エリオス様の香りって、何の香水なんだろう。真似してみたけど、やっぱり違う。本当に香水じゃないのかな?)

 妙に安心する体温に脱力した体を預けてしまえば、まぶたを開けておく力も残っていなかった。

「おやすみ。サフィ」

 ──心地よい声が聞こえたのに、返事一つ返せない。
 エリオスの体温と心臓の音。落ち着く香りに包まれて、静かに意識が沈み始める。発情した時、もしかしたら奪い取ったかもしれないエリオス様の服からも同じ香りがした。

(落ち着く、気持ちいい。今日は……悪夢を見なくて済むかもしれない)

 眠りに落ちていく中で、色んな気持ちが巡る。幼なじみで何かと構われて来た。一度は、和平の為と婚約を受け入れた人。側妃は作らない。皇妃は一人だけだと言ってくれたのは本当に嬉しかった。隣に立つ為に、少しでもふさわしくなるようにと、必死で努力をした日々を思い出す。

 時戻りをした為に、今世ではまだ経験してないことも体に染み込んでいる。特に女性側のダンスは、エリオスの恥にならない様に必死で覚えたから、身についたままなのかも知れない。

 あの時。運命の二人が結ばれただけ。それを応援するつもりが、身を守るアイテムならばと理由をつけてエリオスの用意したネックレスを身につけた。

僕が身につけるべきじゃないのに。

それでも綺麗なアベリアブルー色を皆に見せてしまったら、王女に取られてしまいそうで隠すようにしてたんだ。まさか輝石にキスを落とすなど想像するわけがない。王女の付添人も、もしかしたらそれを見て行動を起こそうとしたのかも知れない。

 (でも二人は、運命じゃないの? )

 過去まえと違う。その違和感にどうしたらいいのか分からなくて、戸惑うばかりだ。サフィラの行動が違うから周りも違ってきているのなら……何が正しいのだろう。

 今を変える行動は必要である。変えてはいけない行動があるとしたなら、エリオスとの婚約を素直に受け入れた方がいいのだろうか? 同じ婚約内容を受けいれて、王女とエリオスの中を割くになる方が、かえって盛り上がり二人は結び付くのかもしれない。

 (だとしても嫌だな。あんな思い……二度もしたくないのに)

 なら……いっそサフィラが運命の人を見つけたことにしたらどうだろう? 頭の中に過るのは、ライナとノエルだった。

 (──ライナは駄目。今でも、エリオス様を尊敬しているのが分かるもの)

 双子の兄の亡骸を、陛下と皇后の姿を朱に染まったあの場を……変えるためにここにいるのだ。あの最悪の誕生日を無事にこえたら運命が変わる。

運命の日までに、信頼できる者を味方に付けたい。

 (巻き込んでも……いいのかな?多分ノエルは、事情を組んでくれそう)

 Ωの王子であるサフィラにも王位継承権を平等に与えた陛下にも、それを反対することなく見守って支えてくれた皇后にも感謝している。
兄たちと共にスノーリル王国と国民を守り発展させて行くのは、生まれた時からの使命だ。

 だから王国の為なら政略結婚でも構わない。それでも、エリオスなら同じ様に王国を愛してくれて、サフィラをΩの道具として扱わないでいてくれると婚姻に期待をしてしまった。

 αとΩは本物の運命には逆らえないのに。

「──エリオス様が、運命の人と未来で幸せになれますように」

 声になったのか、夢の中なのか……ぼんやりとした時間だった。ギュッと抱きしめられていて、エリオスの香りを感じてしまう都合のいい夢の中。

 サフィラはもう何も考えられないくらい、幸せな香りに包まれて身を委ねる。



「俺の運命は、サフィラなんだ」
その声は、サフィラには届かなかった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

処理中です...