61 / 100
時戻り後の世界
30.強制発情薬①
しおりを挟む
薬を調合しながらカーティスの言葉を考えてしまう。集中出来なくて、何度となくため息をついた。
「サフィラ様、今日は調剤はやめた方がいいのではないですか?」
「え?何? 」
ライナに持っていた瓶を奪われ、戸棚に戻すように片付けが始まってしまった。
「まだ、もう少しだけ」
慌ててライナの手から奪い返そうと手を伸ばすと、奥の布に包んでいた瓶が傾いた。
「ああっ。駄目!!」
両手で押えたので、それは倒れなかった。ただ近くの瓶を数個倒してしまう。ホッとしたのも束の間、その慌てぶりにライナにそれを奪われてしまう。
「サフィラ様。中身は何ですか?」
「あ……うん。ええっとね。王女の付添人が持っていた薬の一つでね。その研究したくて。これを抑える抑制剤が出来たら……救われるΩが増えると思うんだ」
「まさかサフィラ様が盗みに行ってませんよね? 一体誰に頼んだのですか?」
「──ノエル団長」
「ああ、くそ。暗部出身でしたね……で、サフィラ様は団長を信じたのですか?」
珍しくチッと舌打ちされて、怒っている感じがするので、じわじわと後ろに下がると同じ様に距離を詰められて壁にぶつかった。
「まだ完全にではないけど。エリオス様にお願いしても断られたから。どうにか廃棄される前にと、こっそり侵入しようと思っていたら……ノエル団長に見つかって止められたから」
「それはそうです。そこで、説得して諦めさせるのが大人でしょう!よりによって代わりに手に入れて来るとか。俺以外に頼るとか……」
「まあ、そういうこと……です」
「はああああああ。本当にこれだけですよね? これは禁止薬物なのですよ? 盗まれて悪用されたら大事で。減ったり、他の誰にも知られてませんよね?」
慌てて、天秤にかけて分量を確認する。記録していた通りで量は減っていない。大体ここには、許可なく人は入れない仕組みになっている。以前突破して侵入してきたのは、目の前にいるライナとエリオスだけ。あれから更に強化したセキュリティは、えげつないと言われたほどの過剰防衛魔法が付与している。
サフィラの許可無しで侵入出来ると思えなかった。
「大丈夫だよ」
「仮にも辺境伯の子息でαなんですよ? まちがいが起きて傷付くのサフィラ様だ。お願いですから、二人だけでこっそり会ったりしないで下さい」
「だから、それこそないって。ノエル団長には子供扱いされてるし、エリオス様ごとからかって面白がってるみたいだもの」
とにかく、この薬を分析しつつ、サフィラが使っている抑制剤が効果があるのか? それとももっと成分を強く配合するべきか考えなければ。なるべく副作用が少なくて短時間で効果が出てくれたなら。
成功すれば、発情薬に怯えなくて済む。
「お願いライナ!これを捨てたり報告したりしないで」
必死に頼み込むと、机に抑制剤を並べられてしまった。
「禁忌の発情薬でしたよね? サフィラ様はまだ未成年です。調べるだけとはいえ、体にどんな影響があるか分かりません。摂取しなくても、触れたり匂いで変化が起きることだってあります」
「素手では触らない。鼻と口の所は浄化布を当てるから……もしもの時は、僕の持ってる一番強い抑制剤を飲ませて下さい」
必死に頼み込むと、ライナが手で顔を覆い動かなくなった。このまま怒りに任せて薬を捨てられたり、双子兄に報告されたらと不安で仕方がない。
「ああ、もう。そんな風に強請られたら……。どれだけ心配されているか分かっているんですか?」
「そう……だね。まさか、あのカーティスにまで心配されてるとか思わなかった」
グッとライナの拳に力が入ったのが分かった。
専属で授業を受けていた頃、とても尊敬していたのだ。優しくて、王国のことをずっと考えていて……。それが、陛下たちを殺すとか兄を拷問する側になるとか。
「──いけない。政治や権力に関係する人は簡単に信じない。王位継承権放棄をもったいないと思われただけ。こんな簡単に絆されては駄目。Ωは彼らにとって道具の一つ」
バシンバシンとサフィラは頬を強めに数回両手で叩いた。
「サフィラ、もうよせ!分かったから」
指先が赤くなっているので、頬も多分赤くなっているはず。それでも構わない、忘れてはいけないのだから。本当に慌てるとライナの口調が変わる。実はこっちの素のライナの方が好きだ。
「ごめん、反省しただけ。念の為ネックガードは身に付けるから、研究させて」
誰にも侵入されないように、結界は魔導具も用いる。
発情薬さえも抑える薬が出来たなら、Ω性を気にせず生きていける。一筋の光に見えてサフィラは袋から小瓶を取りだした。
「サフィラ様、今日は調剤はやめた方がいいのではないですか?」
「え?何? 」
ライナに持っていた瓶を奪われ、戸棚に戻すように片付けが始まってしまった。
「まだ、もう少しだけ」
慌ててライナの手から奪い返そうと手を伸ばすと、奥の布に包んでいた瓶が傾いた。
「ああっ。駄目!!」
両手で押えたので、それは倒れなかった。ただ近くの瓶を数個倒してしまう。ホッとしたのも束の間、その慌てぶりにライナにそれを奪われてしまう。
「サフィラ様。中身は何ですか?」
「あ……うん。ええっとね。王女の付添人が持っていた薬の一つでね。その研究したくて。これを抑える抑制剤が出来たら……救われるΩが増えると思うんだ」
「まさかサフィラ様が盗みに行ってませんよね? 一体誰に頼んだのですか?」
「──ノエル団長」
「ああ、くそ。暗部出身でしたね……で、サフィラ様は団長を信じたのですか?」
珍しくチッと舌打ちされて、怒っている感じがするので、じわじわと後ろに下がると同じ様に距離を詰められて壁にぶつかった。
「まだ完全にではないけど。エリオス様にお願いしても断られたから。どうにか廃棄される前にと、こっそり侵入しようと思っていたら……ノエル団長に見つかって止められたから」
「それはそうです。そこで、説得して諦めさせるのが大人でしょう!よりによって代わりに手に入れて来るとか。俺以外に頼るとか……」
「まあ、そういうこと……です」
「はああああああ。本当にこれだけですよね? これは禁止薬物なのですよ? 盗まれて悪用されたら大事で。減ったり、他の誰にも知られてませんよね?」
慌てて、天秤にかけて分量を確認する。記録していた通りで量は減っていない。大体ここには、許可なく人は入れない仕組みになっている。以前突破して侵入してきたのは、目の前にいるライナとエリオスだけ。あれから更に強化したセキュリティは、えげつないと言われたほどの過剰防衛魔法が付与している。
サフィラの許可無しで侵入出来ると思えなかった。
「大丈夫だよ」
「仮にも辺境伯の子息でαなんですよ? まちがいが起きて傷付くのサフィラ様だ。お願いですから、二人だけでこっそり会ったりしないで下さい」
「だから、それこそないって。ノエル団長には子供扱いされてるし、エリオス様ごとからかって面白がってるみたいだもの」
とにかく、この薬を分析しつつ、サフィラが使っている抑制剤が効果があるのか? それとももっと成分を強く配合するべきか考えなければ。なるべく副作用が少なくて短時間で効果が出てくれたなら。
成功すれば、発情薬に怯えなくて済む。
「お願いライナ!これを捨てたり報告したりしないで」
必死に頼み込むと、机に抑制剤を並べられてしまった。
「禁忌の発情薬でしたよね? サフィラ様はまだ未成年です。調べるだけとはいえ、体にどんな影響があるか分かりません。摂取しなくても、触れたり匂いで変化が起きることだってあります」
「素手では触らない。鼻と口の所は浄化布を当てるから……もしもの時は、僕の持ってる一番強い抑制剤を飲ませて下さい」
必死に頼み込むと、ライナが手で顔を覆い動かなくなった。このまま怒りに任せて薬を捨てられたり、双子兄に報告されたらと不安で仕方がない。
「ああ、もう。そんな風に強請られたら……。どれだけ心配されているか分かっているんですか?」
「そう……だね。まさか、あのカーティスにまで心配されてるとか思わなかった」
グッとライナの拳に力が入ったのが分かった。
専属で授業を受けていた頃、とても尊敬していたのだ。優しくて、王国のことをずっと考えていて……。それが、陛下たちを殺すとか兄を拷問する側になるとか。
「──いけない。政治や権力に関係する人は簡単に信じない。王位継承権放棄をもったいないと思われただけ。こんな簡単に絆されては駄目。Ωは彼らにとって道具の一つ」
バシンバシンとサフィラは頬を強めに数回両手で叩いた。
「サフィラ、もうよせ!分かったから」
指先が赤くなっているので、頬も多分赤くなっているはず。それでも構わない、忘れてはいけないのだから。本当に慌てるとライナの口調が変わる。実はこっちの素のライナの方が好きだ。
「ごめん、反省しただけ。念の為ネックガードは身に付けるから、研究させて」
誰にも侵入されないように、結界は魔導具も用いる。
発情薬さえも抑える薬が出来たなら、Ω性を気にせず生きていける。一筋の光に見えてサフィラは袋から小瓶を取りだした。
388
お気に入りに追加
1,039
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる