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時戻り後の世界

17.婚約の条件

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 和平条約の話し合いの前にサフィラは、エリオスと二人だけで会う時間を今回は作ってもらっていた。
    念の為に抑制剤も飲んでいる。この薬を増やせばかなり発情は抑えられるが、副作用として吐き気と頭痛がすることが分かってきた。とりあえず今は我慢出来る量を服用している。

「申し訳ありません」
「──いや、構わないが」

  今この部屋には、サフィラとエリオスの二人だけだ。ライナも扉の外で待機している。

「お願いしたいことがあります」
「サフィラ?」

「今回の和平条約の件。婚約式について……僕からの条件も追加して頂きたいのです」
「条件? 聞かせて欲しいが、もう少し気楽に話してくれないか?」

「分かりました。エリオス様……Ωの僕を心配してくれてありがとう。婚約も無理しなくて大丈夫です」
「心配? 無理? サフィラ……それはどう言う意味なんだ?」
「帝国の皇太子殿下が、男のΩを皇妃にする必要はないと思うんです」

  エリオスは、目を見開き固まってしまう。そのままサフィラは淡々と話を進めていく。

「優秀なαの王女が隣国にいます。Ωの王女も数は少ないようですが……王国でも把握しているんです。Ωの貴族令嬢でしたらもう少し増えます」

 サフィラは、αにしてもΩにしても、エリオスの相手にを薦めようとしている。帝国の皇太子に伴侶にわざわざ男を選ぶ必要などない。

「俺はスノーリル王国との恒久的な和平条約の為だけで、婚約する訳じゃない。サフィラのこともちゃんと考えてる」

「ですから、その犠牲になる必要などないのです!兄たちもいずれ、王国の為に婚姻します。ですがそこにΩの男は含まれてません。それが普通なんです」

「サフィラ!俺は」

「分かってます。命の恩人みたいに思っているのでしょう? 責任感からですよね。王国の資源を狙った者たちからの求婚が、今後増えるのは否定出来ません。そこから護ろうとしてくれてるのも分かります。ですから、婚約前に王位継承権の放棄を発表します」

「違う。そうじゃない。俺は、責任感とかそう言う理由で、サフィラと婚姻をするつもりはない」

 エリオスがソファから立ち上がり、サフィラの前で膝まづく。サフィラの手を握り締めた。エリオスが真っ直ぐに見つめてくるので、思わず信じてしまいそうになる心を抑えつけた。

(エリオス様は、これから運命のΩに出会ってしまうのだから邪魔したくない)

必死で笑顔を作る。

「──それなら、五年ほどの婚約期間を下さい。Ωのための薬を作る時間を下さい。王族としてをしたいから。それと、運命の番が後で現れて捨てられるとか……嫌なんです。お互いに運命の人を探しませんか?」

「運命の番を探す?」

「お互い運命と逢えたなら……婚約を解消しましょう。もしも五年経っても、運命がお互いに見つからない時は、婚姻を承諾します。せめて探す時間が欲しいので」

 サフィラの寿命は長くて五年、ライナを巻き込まないで欲しかったからだ。五年生きられるか分からない体で、家族を守らなければいけない。サフィラはエリオスとの約束を守ることはない。

「俺の運命は、サフィラだ」
「──他のΩの人に会ってないだけです。運命と気づくと思います。それに僕も……運命に気づくかもしれません」

 胸が苦しくなる理由は、きっとあの絶望的な状況で婚約破棄の書類を見たからだと思っている。

「サフィラ。俺がちゃんと伝えて来なかったせいで信じられないのは分かる。俺はサフィラのことが……」

「それが、勘違いかも知れません。あの時、毒を確認する為にキスをしたせいで誤解を生んだんです。本当にごめんなさい」
「誤解なんかじゃない」

「もうそろそろ、会議の時間ですね。では五年……。この婚約期間だけは譲れません。夜会や交流もして行きましょう。そうすればきっと分かるから」

 呼び出しがかかり、エリオスの迎えがやって来た。

「エリオス様……陛下にも兄たちにもは伝えています。スノーリル王国の王族としての意見を取り入れて下さいました。ご不満がある時も、婚約は解消してもらって大丈夫です」

「俺の運命がサフィラだと証明する」
「今度……兄の為に夜会が開かれます。隣国からも貴族令嬢及び王家の方達も招待します。ぜひ、参加して下さい」

「──分かった。パートナーとして参加する」
「婚約式をしていません。パートナーとして紹介する必要はないですよ」

    エリオスの苦しそうな表情に、帝国を怒らせる可能性がぎる。その為の王位継承権の放棄でもあった。何の得にもならない婚姻。

「サフィラに信じてもらえるように傍にいる。それだけは譲らない」

 そう言って手の甲にキスが落とされた。

「好きだサフィラ。これからはちゃんと気持ちを伝える。また会議の後で」

 エリオスがそのまま部屋を出て行くのを見送った。
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