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時戻り後の世界

19.初めての夜会②

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 酷く冷たい視線が、サフィラに向けられていることに気が付いた。
 一緒に入場するのは、帝国との関係上仕方がない。婚約式でもないので、あの独占欲を見せつけるような衣装も着ていない。エスコートと言っても、令嬢のように手を差し出されている訳でもなく横に並んでいるだけで、睨まれてもサフィラにはどうすることもできない。

「僕には分からないけど、運命を感じて睨まれてるのかな?」
「誰が誰に運命を感じてるって?」

「ご令嬢です。エリオス様への熱視線が強くて……せっかくですから、交流してみたらどうかなって」

 袖が触れそうな距離に並んでいるだけだったのに、エリオスの腕がサフィラの腰に回された。サフィラは引き寄せられて、そのままくっついて歩くことになった。

 (何この距離感?)

「この夜会は、アレクやレオンの相手探しだから。俺もサフィラも混ざる必要はない。それにサフィラから離れる気はない」

「でも僕は交流しようかと。交流が嫌なら陛下のそばで待ってもらってもいいですよ?ノエル・ロスクーノ団長がついてくれるので護衛もバッチリです」

「一緒にいく……」

 令嬢たち全員が、エリオスやアレクを狙って参加している訳ではないので、所々で交流を持っている姿を目にする。サフィラもαらしい貴族からの視線が、気にならない訳ではない。

 (嫌だけど、参加しないと……エリオス様との婚約を解消する為だもの)

 それに野心のある者が参加するならば、カーティスが誰かと接触する可能性がある。もしくは、国内の裏切り者も分かるかもしれない。

 ライナとは、ここに入場後別行動をとっている。カーティスの行動を追ってもらう為だ。ふと別の強い視線を感じその視線の相手を見ると、近衛騎士団の礼服を着たノエルがいた。

「ロスクーノ団長って素敵ですよね。第一騎士団長も憧れますけど」
思わず呟くと、余計に引き寄せられてしまう。

「ちょ、エリオス様。苦しいです」
「悪い……」
何故こんなに、エリオスがくっついてくるのかサフィラには分からない。

(義務とかアピールとか要らないんだけど)

 いつエリオスと離れても大丈夫なように、自然とノエルが適度の距離を取って護衛に入ってくれている。ダンテの王女にサフィラから挨拶に行けば、結果的にエリオスが付いてくるので、簡単に接触が出来る。その後ノエルとこの場を離れたらいいはず。

「いいですけど……ファーストダンスを申し込まれたら、断ったりしないでくださいね。これでもなので特に女性は優先して欲しいです」

「断るに決まっている」
婚約者じゃないので……断る理由にはなりません。それに特定ではなく、何人かお相手したら、失礼にならないと言ってましたよ?」 

──過去まえの貴方が。

「サフィラは令嬢とダンスをしたいのか?」
「僕に申し込む令嬢なんていませんから。Ωなんて気持ち悪いだろうし。誘われたりしないですよ」

 そう自身で言った言葉に、傷付くなんて馬鹿みたいでサフィラは笑って誤魔化す。

 もう少しで、ダンテの王女の前だった。王女はサフィラを一瞥いちべつするだけ、すぐにエリオスに向けて微笑んだ。王女が一歩こちらに寄ってきた時、エリオスがサフィラと向かい合わせになるように手を引く。

「えっ?」
サフィラの手にキスを落とし、エリオスは優しく笑っている。近くで二人の様子を見ていた令嬢からの黄色い声があがった。

 エリオスはどちらかと言うと、公式の場ではクールな方で愛想笑いの一つも見せない人だった。クールを越えて怖いくらいで、人を簡単には寄せつけなかった。

「サフィラ殿下……ファーストダンスを記念に俺と踊ってくれませんか?婚約式まで待ちどうしいので」
「え……ええ?」

 エリオスの発言で会場中がさらにざわつき始めた。
 グッと引き寄せられて耳元で「ファーストダンスの申し込みは断らないよな?」と言われてしまう。

 特大のブーメランで返されて、頷くしか出来ない。

 周りを見れば、アレクが面白そうにサフィラを見ている。さらに手を取られて逃げられないサフィラは、フロアの真ん中の方に連れて行かれてしまった。ネックガード付なのだから、Ωとしてジロジロ見られている自覚もある。こんな風に扱われると、目立ちすぎて恥ずかしさで頬が熱くてしかたがない。

「サフィラ、そんな顔しないで。可愛すぎて取られそうで不安になるから」

「ほ、本当に……エリオス様なんですか?この前と全然違う気がします。可愛いとかそんなの変です」
「──後悔したくない」 

 (なんでそんな顔をするんだろう?)

「ダンスが心配なら身を任せてくれたらいい」

 過去まえに婚約式の為のダンスを特訓していたのだ。踊ることはなかったけれど、それでも婚姻式では必要だからと三年ほど真剣に女性パートを習った。

 だから、悲しいけど完璧に踊る自信があった。







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