【完結】 時戻りをしたΩ王子は、時間がないのでαの愛はいらない。

Shizukuru

文字の大きさ
上 下
44 / 100
時戻り後の世界

13.悪夢と現実① side エリオス

しおりを挟む
    エリオスは、いつからか繰り返し見る夢にうなされるようになった。そんな折にライナから懇願されたのだ。

「どうかサフィラ様の護衛に任命して下さい。時間がありません。殿下の代わりに他のα達から守らせて下さい」

 サフィラがΩである可能性。それは成長と共に少しづつ確信に変わってきていた。サフィラから香るリナリルの爽やかで優しい香り。それが分かるのはエリオスだけだ──双子達もαの騎士も誰も気が付いていない。だからこそ自身の番だと本当は言ってしまいたい。

 バース性の判定前に、サフィラのαでありたいと願う気持ちも否定したくなかった。諦め始めていることも知っていたが、Ωと確定するまでは、そっとしてあげたかった。

    狡いかも知れないが、βのライナならサフィラを安心して任せられる。元々考えていたことだったが、契約を交し絶対に守り抜くという、その覚悟にエリオスは感謝した。





 そして、また繰り返される夢の中にいる。

 国境付近の魔の森は、人が踏み入ることはほとんどない。

 魔獣が潜んでいるからだ。
それでも、アベリア帝国とスノーリル王国の境界に位置する為、不法侵入者が死を覚悟で現れたりする場所でもあった。


 エリオスは思考に靄がかかったような状態で、魔の森の近くに立っていた。

 (また、これか……)

 誰かに会いに行かなければ、そう思うのに身動きが取れない。夢とは思えない現実感があった。夢の中で見たものが、現実の何かと繋がっているようにも感じる。

    単なる夢であって欲しい、そうエリオスは願う。

    魔の森を遠めに見ていると、突然魔力が膨れ上がり、金色の光の柱が天まで立ち上がり拡散して消えた。

 夢らしく場面が切り替わって、雪の中に浮かんだ魔法陣が朱金に輝いている。

 恐ろしいほどに美しい魔法陣がそこにあった。姿がないのに、愛しい人の魔力がここにあるかのような不思議な光景。その中心に近い場所には、見覚えのある護り刀が落ちていた。アベリアブルーの輝石と王家の印まで刻まれている。

 ただ持ち手には血の痕があった。

 なぜ俺の刀が魔法陣の中に落ちていたのだろう?あれは……誰かに奪われたのか? そんなはずはない。目が覚めれば、枕元にそれはあるのだ。

 いずれは番になる者へ渡すものだ。どう見てもこの魔法陣は儀式の後だった。魔法陣の中、誰かが捧げられたのだろうか?小柄な人型のような窪みと血痕がある。

 ただ認めたくないだけ。ただ違うと思いたいだけかも知れない。そうしなければ、心が押し潰されそうだからだ。

   向こうを見れば大きな木の根元に、ローブに包まれた人らしき物がある。雪が軽く積もっているが動かない。もう死んでいるようだった。
また少し離れた方には誰かを埋葬した後があり、名前さえ刻まれていない石が二つあった。


 ローブを剥がすと魔法痕が胸の所にあった。肺を焼かれ呼吸が一瞬で止まってしまう。

 帝国の魔法痕……誰に処刑されたんだ?何が起こっている? 魔法陣の主なのか、別の者なのか?ただここには、処刑された男。死んでしまった誰か二人分の墓があるだけで。魔法陣の主らしい人物はいない。

 そして、にされた者の……残された懐かしい魔力。

(もう止めてくれ!)


いつもはここで終わる夢。
なぜか終わらない夢の続き。


「間に合わなくて、すまない……」
そう言って泣いてるのは、エリオス自身の姿だった。

 護り刀を握り締めて、魔法陣の中で泣き狂う自身の哀れでみっともない姿だ。


「サフィラ……!俺の前からいなくなるな!」



 がばりと、体を起こす。びっしょりと汗をかき、手が小刻み震えている。差し出したその手を握り返してくれる者はいない。


「はぁ、はぁ……。いったい、何を見せられている?」

 (サフィラが生贄になる未来?)

頭の中が、ガンガンと警告音を鳴らす。

「一体なんなんだ!!」

何度か見ているが、今回は続きを見せられているようにも思う。名前まで呼んでいる。

「刀はまだここにある。これを渡さなければ……いいのか?だが、婚姻前には渡す物だ」

おかしい。涙が溢れ出て止まらない。
これは本当に夢なのか?
俺は……大切な何かを忘れている気がする。

サフィラに会いたい。
今は無事を確かめたい。そして、王国に密か向かったのだ。










しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

炊き出しをしていただけなのに、大公閣下に溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 男爵家出身のレーヴェは、婚約者と共に魔物討伐に駆り出されていた。  婚約者のディルクは小隊長となり、同年代の者たちを統率。  元子爵令嬢で幼馴染のエリンは、『医療班の女神』と呼ばれるようになる。  だが、一方のレーヴェは、荒くれ者の集まる炊事班で、いつまでも下っ端の炊事兵のままだった。  先輩たちにしごかれる毎日だが、それでも魔物と戦う騎士たちのために、懸命に鍋を振っていた。  だがその間に、ディルクとエリンは深い関係になっていた――。  ディルクとエリンだけでなく、友人だと思っていたディルクの隊の者たちの裏切りに傷ついたレーヴェは、炊事兵の仕事を放棄し、逃げ出していた。 (……僕ひとりいなくなったところで、誰も困らないよね)  家族に迷惑をかけないためにも、国を出ようとしたレーヴェ。  だが、魔物の被害に遭い、家と仕事を失った人々を放ってはおけず、レーヴェは炊き出しをすることにした。  そこへ、レーヴェを追いかけてきた者がいた。 『な、なんでわざわざ総大将がっ!?』  同性婚が可能な世界です。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

処理中です...