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時戻り後の世界
12.ノエル副団長
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ライナとの訓練の後、皆が集まって来た。頬に傷のある大柄な第一騎士団長と痩身な体躯の副団長までいる。
憧れの騎士二人に、模擬戦を見られていたことになる。本気じゃないライナに、触れることさえ出来ずに負けた。第一騎士団長に訓練を断られてたことを思い出し、サフィラは兄たちとの違いに恥ずかしささえ感じている。
それなのに、ロスクーノ副団長直々の指導も受けたらどうかと提案される。
「一度は、第一の方が断ったのにか?」
そう言ってエリオスが、サフィラを隠すように前に立った。どうして、エリオスが知っているのか分からない。それに、アレクが頼んだから副団長は断れないのかも知れない。
「サフィラには、ライナを護衛騎士として付けている。体調にも波があるのだから、そんなに無理をさせなくてもいいだろう? ライナならサフィラの体調を踏まえて訓練してやれる」
サフィラが発情期を迎え、一週間ほど使い物にならなかったこもエリオスは知っている。
ずっと訓練を受けるのなら、発情期の期間を誤魔化す必要があった。
発情を抑え込む程の薬も、まだ途中どころか何一つ出来ていないのだ。αの多い騎士にずっと紛れることなど不可能に近い。過去は抗う気もなくて、ただ多めに抑制剤飲んで部屋にこもっていただけだった。
Ωと公表するのは少しでも先がいいし、出来れば公表もして欲しくないくらいだ。
その上近衛はαだらけなのだ。ネックガードを付けての参加は躊躇してしまう。
アレクは、サフィラがΩと分かっているのに。どうして提案してきたのか?はかりかねてしまう。
「あ……の。ありがたいのですが。やはり時々体調を崩したりするので、他の騎士の訓練の迷惑になりそうです。短期間参考にする為に訓練に参加したかっただけなので、僕にはライナがいますので大丈夫です」
残念だけど、団長たちに断りをいれるしかない。この体では、迷惑しかかけないのだから。
「──帝国の太陽である皇太子殿下にご挨拶を」
そう言って、副団長が前にでて騎士の礼をとる。
「皇太子殿下。無礼を承知で発言しても宜しいですか?」
「ああ。かまわない」
「皇太子殿下は、よほどサフィラ殿下が大切なのですね」
優しげな声に、騎士団員とは思えない穏やかな雰囲気のままだ。
「は?」
不穏な返事になったのはエリオスの方だった。
「サフィラ殿下が、早朝に走り込んだり剣を習っているのは知っています。薬師としての研究も、魔導具も手を抜かず寝る間を惜しんで作成されているとか……でも私には生き急いでるようにも見えます」
「──だからだ。体が小さいことを気にして、いつも無茶をする」
「エリオス様!そんなことはありません。好きでしているだけなので無茶はしてません!」
思わずエリオスと副団長の会話に入り、慌てて否定する。ライナとの訓練まで駄目になったらと焦ってしまい思わずエリオスの袖を引っ張ってしまった。
ずっと、避けるように視線を逸らして来たのにエリオスが振り返った為、見つめ合う形になってしまった。困ったような顔で肩に手を置かれると、それだけで心臓が跳ねそうになる。
(触れられていると思うだけで、変に緊張する)
「サフィラ……頼む無茶をするな。これ以上睡眠を削れば、体を壊してしまう」
ゴホン。と咳払いをした副団長が、さらにもう一度ゴホンとわざとらしく咳をした。
「だからこそ。私に剣の指導させてくれませんか?」
「どう言う意味だ?」
「ライナ殿の魔法と組み合わせた訓練もいいと思います。ただ私は元々暗部の出身です。状況判断や無駄なく動くことを提案出来ると思います。体にかかる負担が減る可能性がある。色んなパターンを知っておくのはきっと役にたちます」
「──そんなことを知られてもいいのですか?」
「みな知っている過去の話です。でも指導は出来ますよ? 殿下が、本気でやりたいことに手を貸しましょう。体が弱いことも知っていますから、無茶はさせません」
「……本当に?」
思わず手を取ってしまいそうになり、ふらふらと前に出かけた時。
何故か、後ろに引き戻されるようにエリオスの片腕の中に収まってしまう。
部屋にある服と同じ香りに包まれていく。
ドクンとまた、心臓が痛む。
「専属護衛騎士のライナも訓練に同席すること。サフィラの体調管理の権限もライナだ。全て指示に従ってもらう」
「お約束いたします。サフィラ殿下は、この国の宝石です。大切な光を失うようなことを私がする訳ないので。安心してお帰り下さい」
二人のやり取りに、戸惑いながらもサフィラは「心配してくれてありがと」とようやくエリオスに礼を伝えることが出来た。
憧れの騎士二人に、模擬戦を見られていたことになる。本気じゃないライナに、触れることさえ出来ずに負けた。第一騎士団長に訓練を断られてたことを思い出し、サフィラは兄たちとの違いに恥ずかしささえ感じている。
それなのに、ロスクーノ副団長直々の指導も受けたらどうかと提案される。
「一度は、第一の方が断ったのにか?」
そう言ってエリオスが、サフィラを隠すように前に立った。どうして、エリオスが知っているのか分からない。それに、アレクが頼んだから副団長は断れないのかも知れない。
「サフィラには、ライナを護衛騎士として付けている。体調にも波があるのだから、そんなに無理をさせなくてもいいだろう? ライナならサフィラの体調を踏まえて訓練してやれる」
サフィラが発情期を迎え、一週間ほど使い物にならなかったこもエリオスは知っている。
ずっと訓練を受けるのなら、発情期の期間を誤魔化す必要があった。
発情を抑え込む程の薬も、まだ途中どころか何一つ出来ていないのだ。αの多い騎士にずっと紛れることなど不可能に近い。過去は抗う気もなくて、ただ多めに抑制剤飲んで部屋にこもっていただけだった。
Ωと公表するのは少しでも先がいいし、出来れば公表もして欲しくないくらいだ。
その上近衛はαだらけなのだ。ネックガードを付けての参加は躊躇してしまう。
アレクは、サフィラがΩと分かっているのに。どうして提案してきたのか?はかりかねてしまう。
「あ……の。ありがたいのですが。やはり時々体調を崩したりするので、他の騎士の訓練の迷惑になりそうです。短期間参考にする為に訓練に参加したかっただけなので、僕にはライナがいますので大丈夫です」
残念だけど、団長たちに断りをいれるしかない。この体では、迷惑しかかけないのだから。
「──帝国の太陽である皇太子殿下にご挨拶を」
そう言って、副団長が前にでて騎士の礼をとる。
「皇太子殿下。無礼を承知で発言しても宜しいですか?」
「ああ。かまわない」
「皇太子殿下は、よほどサフィラ殿下が大切なのですね」
優しげな声に、騎士団員とは思えない穏やかな雰囲気のままだ。
「は?」
不穏な返事になったのはエリオスの方だった。
「サフィラ殿下が、早朝に走り込んだり剣を習っているのは知っています。薬師としての研究も、魔導具も手を抜かず寝る間を惜しんで作成されているとか……でも私には生き急いでるようにも見えます」
「──だからだ。体が小さいことを気にして、いつも無茶をする」
「エリオス様!そんなことはありません。好きでしているだけなので無茶はしてません!」
思わずエリオスと副団長の会話に入り、慌てて否定する。ライナとの訓練まで駄目になったらと焦ってしまい思わずエリオスの袖を引っ張ってしまった。
ずっと、避けるように視線を逸らして来たのにエリオスが振り返った為、見つめ合う形になってしまった。困ったような顔で肩に手を置かれると、それだけで心臓が跳ねそうになる。
(触れられていると思うだけで、変に緊張する)
「サフィラ……頼む無茶をするな。これ以上睡眠を削れば、体を壊してしまう」
ゴホン。と咳払いをした副団長が、さらにもう一度ゴホンとわざとらしく咳をした。
「だからこそ。私に剣の指導させてくれませんか?」
「どう言う意味だ?」
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「──そんなことを知られてもいいのですか?」
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