33 / 100
時戻り後の世界
2.忠誠をもう一度
しおりを挟む
十四……歳?でも十五歳になる年にいるのだから大丈夫。ただどうして、この時点でライナがここにいるのかが分からない。
「ライナ……あの」
「ちょっと待ってて下さい。このサボり魔達を追い出します。サフィラ様は熱で倒れましたが、寝て休養をとれば治るといいましたよね? 」
「わ、分かったから」
「心配なんだから仕方ないだろう!!」
兄達が慌てだした。ライナの手元から小さな白い鳥が現れて窓を通過して飛んで行ってしまった。
それはとても美しい魔法で、キュンとしてしまったのはサフィラだけ。双子の顔色が悪くなっていく。
「待てライナ……今のはもしかして」
「ええ、騎士団長に特別訓練をお願いしておきました。早く行った方がいいですね」
「嘘だろ……」
絶望的な二人の顔に、ライナはさらに冷たく言葉を続ける。
「嘘ではありません。訓練場までさっさと行って下さいね。早く行かないと、騎士団長がキレちゃうかも」
慌てて部屋から出て行く兄達の姿をサフィラは不思議な気持ちで見送り、ライナの方に体の向きを変えた。
「ライナは……」
「サフィラ様。お帰りなさい」
ああ、やはりあの事件は本当にあったのだ。皇后の赤黒く染まった服も、剣に貫かれた陛下の最期もサフィラは見ていた。
何よりサフィラを誘き寄せる為に、拷問されたアレクとレオンの最期の姿は忘れることなど出来ない。
頬を伝い落ちる涙は、止めることが出来ずさらに溢れていく。しゃくり上げて、叫んでしまいそうだった。慌てて支えてくれたライナが、背中を摩ってくれる。
「ゆ、夢じゃなかった……本当に……皆死んだんだ」
「俺も体験しました。サフィラ様は、よく耐えましたね」
ライナの防音の魔法が、僕の泣き声を閉じ込めて隠してくれた。ひとしきり泣いて、腫れてしまった瞼にライナの手がふれる。冷たくてスッキリしていく。
「目が腫れてたら、また殿下達が寄ってきてしまいますから」
「あはは。ライナ……ありがと」
サフィラの前にお茶が用意されて、見た目の悪さに薬草茶だと気が付いた。
「あ……美味しい」
「特訓しましたから、美味いでしょ?」
ライナに確認しなければ、目が覚めてから既に僕の記憶と違うのだ。
「ライナ本当に成功したの?」
「ええ。サフィラ様の魔力の帯びた血をあれ程使わせてもらって失敗なんて出来ませんから」
「過去と護衛になる時期が違うのはなんで? 窓の外は雪さえ降ってない。冬ごもりの準備の時に、初めて発情を起こしたから。今はまだ、Ωの判定されてないのにどうして護衛騎士になっているの?」
「それは、俺がサフィラ様より先に過去を思い出したからです」
「先に思い出した?」
「昨年避暑地に遊び来て……サフィラ様を見た時、一気に経験したことや記憶が流れて来ました。それからすぐに、行動を起こしたので」
「行動? 特に変わったことはしてなかったんじゃ……?」
「主に、エリオス様にです。サフィラ様がΩの判定をもらう前に、βの俺が護衛につくべきだと訴えました。だから今年こちらに来てから、護衛騎士として付いてます」
その言葉通り……この体が経験して来たことが記憶として混ざり合ってきた。過去と現在の自分の中で記憶が一つになっていく奇妙な感じがする。
「もしかして、そのせいで熱が出て倒れたの?」
「まあ、二つが一つになるのですから。俺も珍しく気を失いかけましたから」
「そうなんだね。じゃあ兄様達に、騎士団長に剣を習うように言ったのもライナなんだ。封魔具……であんなことにならない様に?」
「ええ。封魔具を解除する道具も必要ですが、身を守る手段はいくらあってもいいですからね」
「──ライナ。本当に、ありがとう」
「言いましたよね? 一生忠誠を誓うと」
「でも、僕の時間はあまりないから。エリオス様の所に戻っていいんだよ? クーデターを回避出来なければ同じ道を辿るかも知れないから」
ライナから優しい表情が抜け落ちて、ベッドの方に近づいて来た。ギシリと、ベッドに膝が沈み両手で頬を挟まれてライナと間近で向かい合う。
「見捨てるつもりなら、あんな魔法は使わない。命を削る覚悟で来たサフィラに最後まで付き合うから」
「──いいの?」
「ええ。隠れている敵を絶対に許す訳にはいきませんから。ただサフィラ様は戻ったばかりです。今日はもう眠って下さい」
何か魔法が使われて、その言葉通りサフィラは力が抜けて深い眠りに落ちていった。
「ライナ……あの」
「ちょっと待ってて下さい。このサボり魔達を追い出します。サフィラ様は熱で倒れましたが、寝て休養をとれば治るといいましたよね? 」
「わ、分かったから」
「心配なんだから仕方ないだろう!!」
兄達が慌てだした。ライナの手元から小さな白い鳥が現れて窓を通過して飛んで行ってしまった。
それはとても美しい魔法で、キュンとしてしまったのはサフィラだけ。双子の顔色が悪くなっていく。
「待てライナ……今のはもしかして」
「ええ、騎士団長に特別訓練をお願いしておきました。早く行った方がいいですね」
「嘘だろ……」
絶望的な二人の顔に、ライナはさらに冷たく言葉を続ける。
「嘘ではありません。訓練場までさっさと行って下さいね。早く行かないと、騎士団長がキレちゃうかも」
慌てて部屋から出て行く兄達の姿をサフィラは不思議な気持ちで見送り、ライナの方に体の向きを変えた。
「ライナは……」
「サフィラ様。お帰りなさい」
ああ、やはりあの事件は本当にあったのだ。皇后の赤黒く染まった服も、剣に貫かれた陛下の最期もサフィラは見ていた。
何よりサフィラを誘き寄せる為に、拷問されたアレクとレオンの最期の姿は忘れることなど出来ない。
頬を伝い落ちる涙は、止めることが出来ずさらに溢れていく。しゃくり上げて、叫んでしまいそうだった。慌てて支えてくれたライナが、背中を摩ってくれる。
「ゆ、夢じゃなかった……本当に……皆死んだんだ」
「俺も体験しました。サフィラ様は、よく耐えましたね」
ライナの防音の魔法が、僕の泣き声を閉じ込めて隠してくれた。ひとしきり泣いて、腫れてしまった瞼にライナの手がふれる。冷たくてスッキリしていく。
「目が腫れてたら、また殿下達が寄ってきてしまいますから」
「あはは。ライナ……ありがと」
サフィラの前にお茶が用意されて、見た目の悪さに薬草茶だと気が付いた。
「あ……美味しい」
「特訓しましたから、美味いでしょ?」
ライナに確認しなければ、目が覚めてから既に僕の記憶と違うのだ。
「ライナ本当に成功したの?」
「ええ。サフィラ様の魔力の帯びた血をあれ程使わせてもらって失敗なんて出来ませんから」
「過去と護衛になる時期が違うのはなんで? 窓の外は雪さえ降ってない。冬ごもりの準備の時に、初めて発情を起こしたから。今はまだ、Ωの判定されてないのにどうして護衛騎士になっているの?」
「それは、俺がサフィラ様より先に過去を思い出したからです」
「先に思い出した?」
「昨年避暑地に遊び来て……サフィラ様を見た時、一気に経験したことや記憶が流れて来ました。それからすぐに、行動を起こしたので」
「行動? 特に変わったことはしてなかったんじゃ……?」
「主に、エリオス様にです。サフィラ様がΩの判定をもらう前に、βの俺が護衛につくべきだと訴えました。だから今年こちらに来てから、護衛騎士として付いてます」
その言葉通り……この体が経験して来たことが記憶として混ざり合ってきた。過去と現在の自分の中で記憶が一つになっていく奇妙な感じがする。
「もしかして、そのせいで熱が出て倒れたの?」
「まあ、二つが一つになるのですから。俺も珍しく気を失いかけましたから」
「そうなんだね。じゃあ兄様達に、騎士団長に剣を習うように言ったのもライナなんだ。封魔具……であんなことにならない様に?」
「ええ。封魔具を解除する道具も必要ですが、身を守る手段はいくらあってもいいですからね」
「──ライナ。本当に、ありがとう」
「言いましたよね? 一生忠誠を誓うと」
「でも、僕の時間はあまりないから。エリオス様の所に戻っていいんだよ? クーデターを回避出来なければ同じ道を辿るかも知れないから」
ライナから優しい表情が抜け落ちて、ベッドの方に近づいて来た。ギシリと、ベッドに膝が沈み両手で頬を挟まれてライナと間近で向かい合う。
「見捨てるつもりなら、あんな魔法は使わない。命を削る覚悟で来たサフィラに最後まで付き合うから」
「──いいの?」
「ええ。隠れている敵を絶対に許す訳にはいきませんから。ただサフィラ様は戻ったばかりです。今日はもう眠って下さい」
何か魔法が使われて、その言葉通りサフィラは力が抜けて深い眠りに落ちていった。
525
お気に入りに追加
1,118
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
捨てられオメガの幸せは
ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。
幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
些細なお気持ちでも嬉しいので、感想沢山お待ちしてます。
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる