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時戻り後の世界
47.運命の日の──前日
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眠れないまま、空に色がつき始めた。
サフィラはただ横になっていただけで、ほとんど眠れていない。ゆっくりとベッドから体を起こした。
夜明けを見たいと思い、着替えるために一人クローゼットの所に向かう。シャツと伸縮の良いズボンに長めのブーツ、ベストを身につける。
鏡の前で髪をひとつに結び、エリオスに貰ったリボンを結ぶ。項が丸見えになるのは心細い。だから、ネックガードもつけた。今更Ω性を隠しても仕方がない。
防御を施した装飾品に、軍用コートには魔導具を隠し入れた。こんなに早朝から、サフィラは帯剣までしている。ここまでしないとΩである自身を守れそうになくて、気が滅入っていく。
「はぁ……寒い」
バルコニーに出ると深い紫色の空が、今から雪が降ると言っているように見えた。チラチラと冷たいものが落ちては溶けていく。やはり、快晴なんて続かなかったなと手のひらの雪に視線を落とした。
「大丈夫。準備をしてきたんだから」
震えるのは寒さのせいだ。今回は、誰も死なせたりしない。
風が吹いて、少し大きめになった雪のせいで視界が少しづつ悪くなってきた。夜明けは見れそうもない。
「昨日……見ておけばよかったかな」
部屋へと引き返し、暖炉の前でコートを脱ぎ少し雪をはたき落とした。
ここ数日は、外にそのまま出てもおかしくないような服を着て寝ていた。剣もそばに置いて、防御に使えるものは、アクセサリーも付けていたし、毒のカプセルも口腔に仕込んでいる。
(簡単にカプセルを噛むなと、ライナもノエルも言っていたけど……ね)
知らず緊張しているみたいで眠れない。眠れば高確率で悪夢を見てしまうせいだ。
ライナにまた顔色が悪いと、叱られるかな? 今日の夕方に仮眠を取る時、そばに居てもらうのが一番いいかもしれない。
睡眠薬を飲んで強制的に少しでも寝ないと体力的に危ないなと……天を仰ぐように目を細めた。
まだ薄暗い部屋の中、用意した抑制剤を飲んだ。ソファに深く沈みこむ。コートも手に届く所に置いて、目をつぶってみた。
しばらく何も考えないようにしてみたが、時間は過ぎても眠れそうにない。
「だめか……はぁ」
今夜日付が変わるころ、ほとんどの者が就寝した未明の夜にクーデターは起きるはずだ。何かが変わって時間に誤差が生じても、きっと中止になったりはしない。
──成人したら、王族も番になるのが許される。だから同意したとして、カーティスは番にする気だったと思う。全てスノーリルの王位を手に入れるために。
過去を思い出しながら、脳内でいくつかの侵略パターンを想定もしてきた。もちろんライナやノエルの知識も踏まえて、対策を考えた。
大丈夫。最悪にはならない。そう言い聞かせている。
「だめだな……少し体を動かしてこよう」
食事も断って屋根のある訓練室に移動し剣に魔法を纏わせてみる。広いとは言え、室内なので実際魔法を放つ訳にはいかない。ノエルに教わった動きを、今までライナに攻撃された時の剣の流れを思い浮かべた。
ただ無我夢中で剣の型を確認している。
「サフィラ様!」
空を切った剣をピタリと止めて、名を呼ばれた方をみた。どのくらい経ったのか汗がひどい。
「え、ああ。ライナ……」
傍に来たライナの雰囲気からして、怒っているのが分かるので目線を合わせることが出来なかった。
「部屋にもどりましょう」
「いや、もう少しだけ」
不意にあげてしまった視線が、ライナとかち合うと思わず「ごめん」と呟く。
「休む方が大事だと言ってる。ノエルにも注意するように言っていたのに……疲れさせて寝させようとか。そんなレベルじゃない。本当にアホですか。とにかく軽くでもいいから、何か食べて下さい」
「薬とかをつかえば……」
さらにライナに睨まれて言葉は続かない。
「何か軽く、うん、食べるから……」
「着替えましょう」
「はい」
部屋に戻り、湯浴みをして体を解されて、リナリルのお茶を飲んだところで一息をつく。
「このままだと、有事の前に倒れてしまう。スープと果物だけでも口にして下さい」
心配させて申し訳なくなって、ゆっくりとスープを口にすれば、その優しい味にホッとした。色んな果物を切り分け、美しく盛られていた皿を、すすすっとサフィラの前に押してくる。
簡単に刺して食べやすい大きさにしてくれているのも、ライナの心遣いなのだと分かった。
果汁が口に広がり、甘さを堪能する。
「美味しい……」
「なら、良かった。もう少し食べたら、仮眠を取って下さい」
「そうしたいんだけど……全然だめで。ライナこそ、ちゃんと寝てる?」
「騎士は訓練されていて、短い仮眠でこと足ります。俺のことは心配しなくて大丈夫です」
「そう。なら僕も」
「サフィラ様の顔色が悪いの実感して下さい。剣は抱えたままでもいいから。少し前のボタンは緩めて、ほらソファに横になって下さい」
「ありがと。少しだけそばにいてくれる?」
目を瞑ると室内を暗くしてくれたみたいだ。誰かがいてくれたら、少しは違うかな……息を吐きソファに身を委ねた。
サフィラはただ横になっていただけで、ほとんど眠れていない。ゆっくりとベッドから体を起こした。
夜明けを見たいと思い、着替えるために一人クローゼットの所に向かう。シャツと伸縮の良いズボンに長めのブーツ、ベストを身につける。
鏡の前で髪をひとつに結び、エリオスに貰ったリボンを結ぶ。項が丸見えになるのは心細い。だから、ネックガードもつけた。今更Ω性を隠しても仕方がない。
防御を施した装飾品に、軍用コートには魔導具を隠し入れた。こんなに早朝から、サフィラは帯剣までしている。ここまでしないとΩである自身を守れそうになくて、気が滅入っていく。
「はぁ……寒い」
バルコニーに出ると深い紫色の空が、今から雪が降ると言っているように見えた。チラチラと冷たいものが落ちては溶けていく。やはり、快晴なんて続かなかったなと手のひらの雪に視線を落とした。
「大丈夫。準備をしてきたんだから」
震えるのは寒さのせいだ。今回は、誰も死なせたりしない。
風が吹いて、少し大きめになった雪のせいで視界が少しづつ悪くなってきた。夜明けは見れそうもない。
「昨日……見ておけばよかったかな」
部屋へと引き返し、暖炉の前でコートを脱ぎ少し雪をはたき落とした。
ここ数日は、外にそのまま出てもおかしくないような服を着て寝ていた。剣もそばに置いて、防御に使えるものは、アクセサリーも付けていたし、毒のカプセルも口腔に仕込んでいる。
(簡単にカプセルを噛むなと、ライナもノエルも言っていたけど……ね)
知らず緊張しているみたいで眠れない。眠れば高確率で悪夢を見てしまうせいだ。
ライナにまた顔色が悪いと、叱られるかな? 今日の夕方に仮眠を取る時、そばに居てもらうのが一番いいかもしれない。
睡眠薬を飲んで強制的に少しでも寝ないと体力的に危ないなと……天を仰ぐように目を細めた。
まだ薄暗い部屋の中、用意した抑制剤を飲んだ。ソファに深く沈みこむ。コートも手に届く所に置いて、目をつぶってみた。
しばらく何も考えないようにしてみたが、時間は過ぎても眠れそうにない。
「だめか……はぁ」
今夜日付が変わるころ、ほとんどの者が就寝した未明の夜にクーデターは起きるはずだ。何かが変わって時間に誤差が生じても、きっと中止になったりはしない。
──成人したら、王族も番になるのが許される。だから同意したとして、カーティスは番にする気だったと思う。全てスノーリルの王位を手に入れるために。
過去を思い出しながら、脳内でいくつかの侵略パターンを想定もしてきた。もちろんライナやノエルの知識も踏まえて、対策を考えた。
大丈夫。最悪にはならない。そう言い聞かせている。
「だめだな……少し体を動かしてこよう」
食事も断って屋根のある訓練室に移動し剣に魔法を纏わせてみる。広いとは言え、室内なので実際魔法を放つ訳にはいかない。ノエルに教わった動きを、今までライナに攻撃された時の剣の流れを思い浮かべた。
ただ無我夢中で剣の型を確認している。
「サフィラ様!」
空を切った剣をピタリと止めて、名を呼ばれた方をみた。どのくらい経ったのか汗がひどい。
「え、ああ。ライナ……」
傍に来たライナの雰囲気からして、怒っているのが分かるので目線を合わせることが出来なかった。
「部屋にもどりましょう」
「いや、もう少しだけ」
不意にあげてしまった視線が、ライナとかち合うと思わず「ごめん」と呟く。
「休む方が大事だと言ってる。ノエルにも注意するように言っていたのに……疲れさせて寝させようとか。そんなレベルじゃない。本当にアホですか。とにかく軽くでもいいから、何か食べて下さい」
「薬とかをつかえば……」
さらにライナに睨まれて言葉は続かない。
「何か軽く、うん、食べるから……」
「着替えましょう」
「はい」
部屋に戻り、湯浴みをして体を解されて、リナリルのお茶を飲んだところで一息をつく。
「このままだと、有事の前に倒れてしまう。スープと果物だけでも口にして下さい」
心配させて申し訳なくなって、ゆっくりとスープを口にすれば、その優しい味にホッとした。色んな果物を切り分け、美しく盛られていた皿を、すすすっとサフィラの前に押してくる。
簡単に刺して食べやすい大きさにしてくれているのも、ライナの心遣いなのだと分かった。
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「美味しい……」
「なら、良かった。もう少し食べたら、仮眠を取って下さい」
「そうしたいんだけど……全然だめで。ライナこそ、ちゃんと寝てる?」
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「そう。なら僕も」
「サフィラ様の顔色が悪いの実感して下さい。剣は抱えたままでもいいから。少し前のボタンは緩めて、ほらソファに横になって下さい」
「ありがと。少しだけそばにいてくれる?」
目を瞑ると室内を暗くしてくれたみたいだ。誰かがいてくれたら、少しは違うかな……息を吐きソファに身を委ねた。
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