【完結】 時戻りをしたΩ王子は、時間がないのでαの愛はいらない。

Shizukuru

文字の大きさ
上 下
31 / 100
時戻り前の世界

30.時戻りの魔法②

しおりを挟む
 三十分のタイムリミットまでもう少しだった。
 命乞いに行かなかった僕の大捜索が始まるはずだ。
 ここに来た時点でライナは、魔導具の結界を張っていてくれた。更にライナの結界の術式がそれを覆って行く。

「これで、術が終わるまで俺達は認識されませんから。ゆっくり殿下達とお別れをしてて下さい」

「──ありがと」

  ライナが【時戻りの魔法】の準備をしている間、双子の兄達の墓標のそばに居た。

「王族なのに、こんな寂しい所でごめんね。父様も母様も……せめて二人一緒に埋葬されたらいいな」

 花の一つもない、ただ大きめの石を二つ並べて置いている。
 名を刻んでしまえば、荒らされかねない。悔しさに涙を落とす。

「封魔具は外したよ」
 ──この術式を記憶し外した後、粉々に破壊した。

 もうΩのせいで利用されたくない。戻るなら婚約前がいい。それにΩの王女と引き合わせたらどうだろう?どちらにせよ、エリオスとの婚約をする必要はない。

  一番厄介なのはカーティスだ。彼の信頼は厚すぎてクーデター前に陛下を説得するのは、子供の自分では難しい。
 それでも好きな様にはさせない。計画を練り、信用の出来る者を増やしていこう。必ず裏切りの証拠を集めて、クーデターを阻止する。

 やはり戻るなら、十五歳ごろかな……あのヒートが起きる頃がいい。幼すぎても行動を起こしにくい。そこから三年でやらなければならないことが多いが、十八歳まで生きた三年分の魔導具の知識がある。
(クーデターを阻止したいけど、万が一備えてより性能のいい魔導具を準備しよう)

  時間が惜しい。帝国にもサフィラとエリオスの婚姻反対者がいる。そうでなければ、あんな魔法痕を付けられるわけがない。Ωだから利用された。エリオスと婚約しなくても、今度は他のαに狙われるかも知れない。

 ──Ωじゃなくなればいいのに。

 抑制剤ではなく、Ω性を消すくらいの薬も作ってしまえばいい。βになりたい。もうα達の思い通りになんてさせない。

  家族を死ぬ運命から救う為なら何でもすると、サフィラは誓う。寿命が短いのは正直嬉しかった。最期は家族に見守られて死にたい……遺されるよりずっといい。


「──巻き込んだライナを助ける手段を探さないと。それで僕の寿命がさらに減っても構わない。十八歳の誕生日の今日を越えて春を迎えられたら……もう消えて構わない。三年ちょっと……あればいい。この運命の日をきっと越えて、皆を絶対に助けるからね」

 ライナの描く、繊細で美しい魔法陣を見ながら独り言ちる。

 血だらけの皇后。
 最後まで戦って亡くなった陛下。
 味方に嵌められて封魔具を付けられ、帝国の者に致命傷を負わされた兄殿下達。


「兄様……待ってて、過去を変えるから」

 サフィラは、ライナに言われた通りに、術式に必要な血を腕を斬りつけ瓶に集めていく。
 エリオスに預かって欲しいと言われたのは装飾の美しい護身刀……。これを胸に突き立ててしまいたい。せめてもっと深く痛みを付けて忘れないようにしたい。

「ライナ……足りる? こっちの腕からも血を取っていいよ」

「十分です。後は俺ので」
「駄目だよ。ライナの血は絶対に使わないで。僕の命令だよ。ライナが血を失えば、術が失敗するかも知れない。絶対に失敗して欲しくないんだ。僕の血は、いくらでも使って。寿命だって四年もあれば十分だ。家族に見送られて死ねるなら幸せだよ」

 母が受けた傷も、父が受けた傷も……兄達が無抵抗のままに傷付けられた傷も……その痛みを全部サフィラ自身につけて欲しいと願っている。

「ライナ。絶対……成し遂げようね」

 ライナが描く魔法陣はとても美しい色だった。


「金色だね……」
 視野が狭くなってきた。集めた血が金色の陣に流されていく。朱金に輝くそれはとても美しく見えた。

「サフィラ様」
 サフィラは抱きかかえられて、魔法陣の中央に寝かされた。すでに指一本動かせず、このまま死を受け入れてもいいような気がしている。

 ライナがそっと手を繋いでくれる。

「ライナ……巻き込んでごめんね。ライナは、長く生きられるように……なんとか……す……る」

  ライナの髪の色が、深い緑色になっていて瞳の色は見事な金色だった。


 昔語りで聞いたいにしえの魔女の姿に見える──

 神の力じゃなくて構わないから。
    
 どうか過去に戻してください。この身と引き換えに──運命の日を変える力を下さい。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません

めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。 家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。 しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。 調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。 だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。 煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!? /////////////////////////////// ※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。 ///////////////////////////////

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

魔力なしの嫌われ者の俺が、なぜか冷徹王子に溺愛される

ぶんぐ
BL
社畜リーマンは、階段から落ちたと思ったら…なんと異世界に転移していた!みんな魔法が使える世界で、俺だけ全く魔法が使えず、おまけにみんなには避けられてしまう。それでも頑張るぞ!って思ってたら、なぜか冷徹王子から口説かれてるんだけど?── 嫌われ→愛され 不憫受け 美形×平凡 要素があります。 ※溺愛までが長いです。 ※総愛され気味の描写が出てきますが、CPは1つだけです。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...