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時戻り前の世界

30.時戻りの魔法②

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 三十分のタイムリミットまでもう少しだった。
 命乞いに行かなかった僕の大捜索が始まるはずだ。
 ここに来た時点でライナは、魔導具の結界を張っていてくれた。更にライナの結界の術式がそれを覆って行く。

「これで、術が終わるまで俺達は認識されませんから。ゆっくり殿下達とお別れをしてて下さい」

「──ありがと」

  ライナが【時戻りの魔法】の準備をしている間、双子の兄達の墓標のそばに居た。

「王族なのに、こんな寂しい所でごめんね。父様も母様も……せめて二人一緒に埋葬されたらいいな」

 花の一つもない、ただ大きめの石を二つ並べて置いている。
 名を刻んでしまえば、荒らされかねない。悔しさに涙を落とす。

「封魔具は外したよ」
 ──この術式を記憶し外した後、粉々に破壊した。

 もうΩのせいで利用されたくない。戻るなら婚約前がいい。それにΩの王女と引き合わせたらどうだろう?どちらにせよ、エリオスとの婚約をする必要はない。

  一番厄介なのはカーティスだ。彼の信頼は厚すぎてクーデター前に陛下を説得するのは、子供の自分では難しい。
 それでも好きな様にはさせない。計画を練り、信用の出来る者を増やしていこう。必ず裏切りの証拠を集めて、クーデターを阻止する。

 やはり戻るなら、十五歳ごろかな……あのヒートが起きる頃がいい。幼すぎても行動を起こしにくい。そこから三年でやらなければならないことが多いが、十八歳まで生きた三年分の魔導具の知識がある。
(クーデターを阻止したいけど、万が一備えてより性能のいい魔導具を準備しよう)

  時間が惜しい。帝国にもサフィラとエリオスの婚姻反対者がいる。そうでなければ、あんな魔法痕を付けられるわけがない。Ωだから利用された。エリオスと婚約しなくても、今度は他のαに狙われるかも知れない。

 ──Ωじゃなくなればいいのに。

 抑制剤ではなく、Ω性を消すくらいの薬も作ってしまえばいい。βになりたい。もうα達の思い通りになんてさせない。

  家族を死ぬ運命から救う為なら何でもすると、サフィラは誓う。寿命が短いのは正直嬉しかった。最期は家族に見守られて死にたい……遺されるよりずっといい。


「──巻き込んだライナを助ける手段を探さないと。それで僕の寿命がさらに減っても構わない。十八歳の誕生日の今日を越えて春を迎えられたら……もう消えて構わない。三年ちょっと……あればいい。この運命の日をきっと越えて、皆を絶対に助けるからね」

 ライナの描く、繊細で美しい魔法陣を見ながら独り言ちる。

 血だらけの皇后。
 最後まで戦って亡くなった陛下。
 味方に嵌められて封魔具を付けられ、帝国の者に致命傷を負わされた兄殿下達。


「兄様……待ってて、過去を変えるから」

 サフィラは、ライナに言われた通りに、術式に必要な血を腕を斬りつけ瓶に集めていく。
 エリオスに預かって欲しいと言われたのは装飾の美しい護身刀……。これを胸に突き立ててしまいたい。せめてもっと深く痛みを付けて忘れないようにしたい。

「ライナ……足りる? こっちの腕からも血を取っていいよ」

「十分です。後は俺ので」
「駄目だよ。ライナの血は絶対に使わないで。僕の命令だよ。ライナが血を失えば、術が失敗するかも知れない。絶対に失敗して欲しくないんだ。僕の血は、いくらでも使って。寿命だって四年もあれば十分だ。家族に見送られて死ねるなら幸せだよ」

 母が受けた傷も、父が受けた傷も……兄達が無抵抗のままに傷付けられた傷も……その痛みを全部サフィラ自身につけて欲しいと願っている。

「ライナ。絶対……成し遂げようね」

 ライナが描く魔法陣はとても美しい色だった。


「金色だね……」
 視野が狭くなってきた。集めた血が金色の陣に流されていく。朱金に輝くそれはとても美しく見えた。

「サフィラ様」
 サフィラは抱きかかえられて、魔法陣の中央に寝かされた。すでに指一本動かせず、このまま死を受け入れてもいいような気がしている。

 ライナがそっと手を繋いでくれる。

「ライナ……巻き込んでごめんね。ライナは、長く生きられるように……なんとか……す……る」

  ライナの髪の色が、深い緑色になっていて瞳の色は見事な金色だった。


 昔語りで聞いたいにしえの魔女の姿に見える──

 神の力じゃなくて構わないから。
    
 どうか過去に戻してください。この身と引き換えに──運命の日を変える力を下さい。










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