31 / 86
時戻り前の世界
30.時戻りの魔法②
しおりを挟む
三十分のタイムリミットまでもう少しだった。
命乞いに行かなかった僕の大捜索が始まるはずだ。
ここに来た時点でライナは、魔導具の結界を張っていてくれた。更にライナの結界の術式がそれを覆って行く。
「これで、術が終わるまで俺達は誰からも認識されませんから。ゆっくり殿下達とお別れをしてて下さい」
「──ありがと」
ライナが【時戻りの魔法】の準備をしている間、双子の兄達の墓標のそばに居た。
「王族なのに、こんな寂しい所でごめんね。父様も母様も……せめて二人一緒に埋葬されたらいいな」
花の一つもない、ただ大きめの石を二つ並べて置いている。
名を刻んでしまえば、荒らされかねない。悔しさに涙を落とす。
「封魔具は外したよ」
──この術式を記憶し外した後、粉々に破壊した。
もうΩのせいで利用されたくない。戻るなら婚約前がいい。それに最初からΩの王女と引き合わせたらどうだろう?どちらにせよ、エリオスとの婚約をする必要はない。
一番厄介なのはカーティスだ。彼の信頼は厚すぎてクーデター前に陛下を説得するのは、子供の自分では難しい。
それでも好きな様にはさせない。計画を練り、信用の出来る者を増やしていこう。必ず裏切りの証拠を集めて、クーデターを阻止する。
やはり戻るなら、十五歳ごろかな……あのヒートが起きる頃がいい。幼すぎても行動を起こしにくい。そこから三年でやらなければならないことが多いが、十八歳まで生きた三年分の魔導具の知識がある。
(クーデターを阻止したいけど、万が一備えてより性能のいい魔導具を準備しよう)
時間が惜しい。帝国にもサフィラとエリオスの婚姻反対者がいる。そうでなければ、あんな魔法痕を付けられるわけがない。Ωだから利用された。エリオスと婚約しなくても、今度は他のαに狙われるかも知れない。
──Ωじゃなくなればいいのに。
抑制剤ではなく、Ω性を消すくらいの薬も作ってしまえばいい。βになりたい。もうα達の思い通りになんてさせない。
家族を死ぬ運命から救う為なら何でもすると、サフィラは誓う。寿命が短いのは正直嬉しかった。最期は家族に見守られて先に死にたい……遺されるよりずっといい。
「──巻き込んだライナを助ける手段を探さないと。それで僕の寿命がさらに減っても構わない。十八歳の誕生日の今日を越えて春を迎えられたら……もう消えて構わない。三年ちょっと……あればいい。この運命の日をきっと越えて、皆を絶対に助けるからね」
ライナの描く、繊細で美しい魔法陣を見ながら独り言ちる。
血だらけの皇后。
最後まで戦って亡くなった陛下。
味方に嵌められて封魔具を付けられ、帝国の者に致命傷を負わされた兄殿下達。
「兄様……待ってて、過去を変えるから」
サフィラは、ライナに言われた通りに、術式に必要な血を腕を斬りつけ瓶に集めていく。
エリオスに預かって欲しいと言われたのは装飾の美しい護身刀……。これを胸に突き立ててしまいたい。せめてもっと深く痛みを付けて忘れないようにしたい。
「ライナ……足りる? こっちの腕からも血を取っていいよ」
「十分です。後は俺ので」
「駄目だよ。ライナの血は絶対に使わないで。僕の命令だよ。ライナが血を失えば、術が失敗するかも知れない。絶対に失敗して欲しくないんだ。僕の血は、いくらでも使って。寿命だって四年もあれば十分だ。家族に見送られて死ねるなら幸せだよ」
母が受けた傷も、父が受けた傷も……兄達が無抵抗のままに傷付けられた傷も……その痛みを全部サフィラ自身につけて欲しいと願っている。
「ライナ。絶対……成し遂げようね」
ライナが描く魔法陣はとても美しい色だった。
「金色だね……」
視野が狭くなってきた。集めた血が金色の陣に流されていく。朱金に輝くそれはとても美しく見えた。
「サフィラ様」
サフィラは抱きかかえられて、魔法陣の中央に寝かされた。すでに指一本動かせず、このまま死を受け入れてもいいような気がしている。
ライナがそっと手を繋いでくれる。
「ライナ……巻き込んでごめんね。ライナは、長く生きられるように……なんとか……す……る」
ライナの髪の色が、深い緑色になっていて瞳の色は見事な金色だった。
昔語りで聞いた古の魔女の姿に見える──
神の力じゃなくて構わないから。
どうか過去に戻してください。この身と引き換えに──運命の日を変える力を下さい。
命乞いに行かなかった僕の大捜索が始まるはずだ。
ここに来た時点でライナは、魔導具の結界を張っていてくれた。更にライナの結界の術式がそれを覆って行く。
「これで、術が終わるまで俺達は誰からも認識されませんから。ゆっくり殿下達とお別れをしてて下さい」
「──ありがと」
ライナが【時戻りの魔法】の準備をしている間、双子の兄達の墓標のそばに居た。
「王族なのに、こんな寂しい所でごめんね。父様も母様も……せめて二人一緒に埋葬されたらいいな」
花の一つもない、ただ大きめの石を二つ並べて置いている。
名を刻んでしまえば、荒らされかねない。悔しさに涙を落とす。
「封魔具は外したよ」
──この術式を記憶し外した後、粉々に破壊した。
もうΩのせいで利用されたくない。戻るなら婚約前がいい。それに最初からΩの王女と引き合わせたらどうだろう?どちらにせよ、エリオスとの婚約をする必要はない。
一番厄介なのはカーティスだ。彼の信頼は厚すぎてクーデター前に陛下を説得するのは、子供の自分では難しい。
それでも好きな様にはさせない。計画を練り、信用の出来る者を増やしていこう。必ず裏切りの証拠を集めて、クーデターを阻止する。
やはり戻るなら、十五歳ごろかな……あのヒートが起きる頃がいい。幼すぎても行動を起こしにくい。そこから三年でやらなければならないことが多いが、十八歳まで生きた三年分の魔導具の知識がある。
(クーデターを阻止したいけど、万が一備えてより性能のいい魔導具を準備しよう)
時間が惜しい。帝国にもサフィラとエリオスの婚姻反対者がいる。そうでなければ、あんな魔法痕を付けられるわけがない。Ωだから利用された。エリオスと婚約しなくても、今度は他のαに狙われるかも知れない。
──Ωじゃなくなればいいのに。
抑制剤ではなく、Ω性を消すくらいの薬も作ってしまえばいい。βになりたい。もうα達の思い通りになんてさせない。
家族を死ぬ運命から救う為なら何でもすると、サフィラは誓う。寿命が短いのは正直嬉しかった。最期は家族に見守られて先に死にたい……遺されるよりずっといい。
「──巻き込んだライナを助ける手段を探さないと。それで僕の寿命がさらに減っても構わない。十八歳の誕生日の今日を越えて春を迎えられたら……もう消えて構わない。三年ちょっと……あればいい。この運命の日をきっと越えて、皆を絶対に助けるからね」
ライナの描く、繊細で美しい魔法陣を見ながら独り言ちる。
血だらけの皇后。
最後まで戦って亡くなった陛下。
味方に嵌められて封魔具を付けられ、帝国の者に致命傷を負わされた兄殿下達。
「兄様……待ってて、過去を変えるから」
サフィラは、ライナに言われた通りに、術式に必要な血を腕を斬りつけ瓶に集めていく。
エリオスに預かって欲しいと言われたのは装飾の美しい護身刀……。これを胸に突き立ててしまいたい。せめてもっと深く痛みを付けて忘れないようにしたい。
「ライナ……足りる? こっちの腕からも血を取っていいよ」
「十分です。後は俺ので」
「駄目だよ。ライナの血は絶対に使わないで。僕の命令だよ。ライナが血を失えば、術が失敗するかも知れない。絶対に失敗して欲しくないんだ。僕の血は、いくらでも使って。寿命だって四年もあれば十分だ。家族に見送られて死ねるなら幸せだよ」
母が受けた傷も、父が受けた傷も……兄達が無抵抗のままに傷付けられた傷も……その痛みを全部サフィラ自身につけて欲しいと願っている。
「ライナ。絶対……成し遂げようね」
ライナが描く魔法陣はとても美しい色だった。
「金色だね……」
視野が狭くなってきた。集めた血が金色の陣に流されていく。朱金に輝くそれはとても美しく見えた。
「サフィラ様」
サフィラは抱きかかえられて、魔法陣の中央に寝かされた。すでに指一本動かせず、このまま死を受け入れてもいいような気がしている。
ライナがそっと手を繋いでくれる。
「ライナ……巻き込んでごめんね。ライナは、長く生きられるように……なんとか……す……る」
ライナの髪の色が、深い緑色になっていて瞳の色は見事な金色だった。
昔語りで聞いた古の魔女の姿に見える──
神の力じゃなくて構わないから。
どうか過去に戻してください。この身と引き換えに──運命の日を変える力を下さい。
386
お気に入りに追加
942
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
虐げられた王の生まれ変わりと白銀の騎士
ありま氷炎
BL
十四年前、国王アルローはその死に際に、「私を探せ」と言い残す。
国一丸となり、王の生まれ変わりを探すが見つからず、月日は過ぎていく。
王アルローの子の治世は穏やかで、人々はアルローの生まれ変わりを探す事を諦めようとしていた。
そんな中、アルローの生まれ変わりが異世界にいることがわかる。多くの者たちが止める中、騎士団長のタリダスが異世界の扉を潜る。
そこで彼は、アルローの生まれ変わりの少年を見つける。両親に疎まれ、性的虐待すら受けている少年を助け、強引に連れ戻すタリダス。
彼は王の生まれ変わりである少年ユウタに忠誠を誓う。しかし王宮では「王」の帰還に好意的なものは少なかった。
心の傷を癒しながら、ユウタは自身の前世に向き合う。
アルローが残した「私を探せ」の意味はなんだったか。
王宮の陰謀、そして襲い掛かる別の危機。
少年は戸惑いながらも自分の道を見つけていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる