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時戻り前の世界
28.裏切り者
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エリオスからの手紙が来なくなった。冬ごもりの時期は配達が止まることの方が多い。でも配達は遅れても届くのだ。いつもは遅れても間に合うようにか、早めに誕生日プレゼントは届いていた。今回は未だに届いていない。
約束をしていた訳じゃない。それでも当たり前に思っていたことに、自然と涙が溢れていく。崩れ落ちそうなサフィラをライナはしっかりと支えてくれている。
「Ωの王女と番になったって……」
帝国に留学した王女は、Ωだったのだろうか?手紙は届いていたのだ。それが婚約破棄の書類だとは思いたくなかった。
「サフィラ様、エリオス様に会って確かめるまでは信じては駄目です」
「皇帝の玉璽が押されてるのに? 婚約の時に実物を見たことあるもの……あれは、王家の血統を証明し、効力は国を動かす勅命そのものだよ」
婚約式の書類に押された帝国の印章をサフィラが間違える訳がない。
「王女と婚姻する為に……僕が邪魔だったのかな?」
「今は婚約のことは忘れてください!」
強く言われた言葉に、胸が締め付けられてしまう。言い返そうとライナの顔を見ると、悔しさを滲ませた表情に、思わず向き直して抱きついた。
「──僕よりも長く、エリオス様を知っているんだよね。ライナ……一人でも生き延びて王家の血を絶やすなって言われてたけど、出来れば皆を助けたい。ごめんね、ライナはエリオス様の所に逃げて。ライナ一人なら生き延びることが出来る」
「俺は、サフィラ様と契約しましたよ、一生守るって」
「うん……でも狙いが僕なら、僕と引替えに皆を助ける。ライナを巻き込みたくない」
ライナが困ったような顔をした時、魔導具から大きな音が聞こえた。
ダンッ──陛下が膝を突いた。
返り血だけではなく、実際は傷を負っていたみたいだ。
(父様っ……)
「陛下……サフィラ殿下に王位を譲ると言うだけで良かったのに。強情ですね……なら、先に双子の王子様を魔の森に送り届けましょう。生き残れるかどうか、せめて運にまかせてあげます。流刑地にしては優し過ぎるでしょうか? 私から最後の温情です」
「……まさか封魔具を付けたまま送る気か?カーティス!!帝国との和平の道に何の問題があると言うのだ!」
「騙し討ちを何度帝国がしてきましたか? 史実を知らないのですか? だからこそ反帝国派の有志が、スノーリルを守る為に立ち上がったのです」
「それは過去の話だ。現皇帝は和平を望んでいる」
「なぜ信じるのですか? サフィラ様を渡さずに和平の道を進むのならまだしも。結局最後は、乗っ取られますよ。だから私とサフィラ様が、婚姻しこの国を立て直します」
その言葉の意味する所に余計に嫌悪感が湧いた。
(僕がΩだから?)
「サフィラは賢い。もうここにはいない」
「そうですか? 兄を見捨てることなんて出来ないんじゃないでしょうか? 封魔具付きのβの護衛なんて役に立ちません。逃げる選択なんて無いのです」
「サフィラは生きる。そしてお前達を許さないはずだ。王家の者は時に非情になる必要があるんだ。すまないアレク、レオン。先に逝く……」
剣を構え、襲ってくる敵を一人また一人切っては捨てる。だがローブの男が、動けないアレクの太ももに剣を突き立てた。
「ぐああああああああああああ」
「アレク!!」
満身創痍の陛下の顔が歪み、その男の首を狙って剣を投げた。その剣は男の首を落としたが、それと同時に複数人の敵の剣が陛下の体に突き刺さった。
「父上!!」
アレクとレオンが涙を流す中、陛下は笑った。
「愛する者の所へ先に逝くから、悔やまなくていい。可能性があるのなら……生き伸びろ」
そう言って、陛下がくずれるように倒れていった。
「さて、どこかで見ているサフィラ殿下。早く助けに来ないと魔の森で……兄殿下達が、仲良く死んでしまいますね。まだ夜が明けてない。その意味が分かりますか?全部貴方のせいです」
フードの男は楽しそうにしていて、初めてサフィラは人に対して殺意を抱いた。
転移門の前に傷だらけの双子達が引き摺られていく。なぜか一緒に、見張りなのか熊のような男がついて行く。
「三十分以内に私の所にサフィラ殿下が来たら、二人を助けましょう。ただし、時間が過ぎたら……彼が二人を処分します」
連れて行かれてから三十分だけ。夜が明ける前の時間だ。急がなければとライナを見る。
「サフィラ様、封魔具の解除は終わったようです。アレク様たちを追いかけましょう」
「──うん」
「──王宮内を隅々まで捜索しろ。魔の森に行くにはゲートを使うしかないだろう……」
カーティスの裏切りに、怒りで感情がグチャグチャになっていく。
父と母の亡骸さえも、そのままにしなければならない。今は兄たちを助ける為に追いかける。
急ぎ隠し通路をライナと移動し、王子用のゲートで魔の森へ向かった。
約束をしていた訳じゃない。それでも当たり前に思っていたことに、自然と涙が溢れていく。崩れ落ちそうなサフィラをライナはしっかりと支えてくれている。
「Ωの王女と番になったって……」
帝国に留学した王女は、Ωだったのだろうか?手紙は届いていたのだ。それが婚約破棄の書類だとは思いたくなかった。
「サフィラ様、エリオス様に会って確かめるまでは信じては駄目です」
「皇帝の玉璽が押されてるのに? 婚約の時に実物を見たことあるもの……あれは、王家の血統を証明し、効力は国を動かす勅命そのものだよ」
婚約式の書類に押された帝国の印章をサフィラが間違える訳がない。
「王女と婚姻する為に……僕が邪魔だったのかな?」
「今は婚約のことは忘れてください!」
強く言われた言葉に、胸が締め付けられてしまう。言い返そうとライナの顔を見ると、悔しさを滲ませた表情に、思わず向き直して抱きついた。
「──僕よりも長く、エリオス様を知っているんだよね。ライナ……一人でも生き延びて王家の血を絶やすなって言われてたけど、出来れば皆を助けたい。ごめんね、ライナはエリオス様の所に逃げて。ライナ一人なら生き延びることが出来る」
「俺は、サフィラ様と契約しましたよ、一生守るって」
「うん……でも狙いが僕なら、僕と引替えに皆を助ける。ライナを巻き込みたくない」
ライナが困ったような顔をした時、魔導具から大きな音が聞こえた。
ダンッ──陛下が膝を突いた。
返り血だけではなく、実際は傷を負っていたみたいだ。
(父様っ……)
「陛下……サフィラ殿下に王位を譲ると言うだけで良かったのに。強情ですね……なら、先に双子の王子様を魔の森に送り届けましょう。生き残れるかどうか、せめて運にまかせてあげます。流刑地にしては優し過ぎるでしょうか? 私から最後の温情です」
「……まさか封魔具を付けたまま送る気か?カーティス!!帝国との和平の道に何の問題があると言うのだ!」
「騙し討ちを何度帝国がしてきましたか? 史実を知らないのですか? だからこそ反帝国派の有志が、スノーリルを守る為に立ち上がったのです」
「それは過去の話だ。現皇帝は和平を望んでいる」
「なぜ信じるのですか? サフィラ様を渡さずに和平の道を進むのならまだしも。結局最後は、乗っ取られますよ。だから私とサフィラ様が、婚姻しこの国を立て直します」
その言葉の意味する所に余計に嫌悪感が湧いた。
(僕がΩだから?)
「サフィラは賢い。もうここにはいない」
「そうですか? 兄を見捨てることなんて出来ないんじゃないでしょうか? 封魔具付きのβの護衛なんて役に立ちません。逃げる選択なんて無いのです」
「サフィラは生きる。そしてお前達を許さないはずだ。王家の者は時に非情になる必要があるんだ。すまないアレク、レオン。先に逝く……」
剣を構え、襲ってくる敵を一人また一人切っては捨てる。だがローブの男が、動けないアレクの太ももに剣を突き立てた。
「ぐああああああああああああ」
「アレク!!」
満身創痍の陛下の顔が歪み、その男の首を狙って剣を投げた。その剣は男の首を落としたが、それと同時に複数人の敵の剣が陛下の体に突き刺さった。
「父上!!」
アレクとレオンが涙を流す中、陛下は笑った。
「愛する者の所へ先に逝くから、悔やまなくていい。可能性があるのなら……生き伸びろ」
そう言って、陛下がくずれるように倒れていった。
「さて、どこかで見ているサフィラ殿下。早く助けに来ないと魔の森で……兄殿下達が、仲良く死んでしまいますね。まだ夜が明けてない。その意味が分かりますか?全部貴方のせいです」
フードの男は楽しそうにしていて、初めてサフィラは人に対して殺意を抱いた。
転移門の前に傷だらけの双子達が引き摺られていく。なぜか一緒に、見張りなのか熊のような男がついて行く。
「三十分以内に私の所にサフィラ殿下が来たら、二人を助けましょう。ただし、時間が過ぎたら……彼が二人を処分します」
連れて行かれてから三十分だけ。夜が明ける前の時間だ。急がなければとライナを見る。
「サフィラ様、封魔具の解除は終わったようです。アレク様たちを追いかけましょう」
「──うん」
「──王宮内を隅々まで捜索しろ。魔の森に行くにはゲートを使うしかないだろう……」
カーティスの裏切りに、怒りで感情がグチャグチャになっていく。
父と母の亡骸さえも、そのままにしなければならない。今は兄たちを助ける為に追いかける。
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