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時戻り前の世界
29.時戻りの魔法①
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「急がないと……血は魔獣を呼んでしまう。魔法も使えないままなんて」
なんでこんなことが起きてしまったのか?王宮内でクーデターなんて。
帝国に王国が支配されると思ったのだろうか?状況が分からない。
さらに婚約者に番が出来たからと、婚約破棄の書状まで。お飾りの側妃……ならと思ったことがある。でも、エリオスはずっと誠実に妃になるのは一人だけだと言ってくれていた。
(信じたかったのに)
優秀な後継ぎが必要な帝国は、Ωが欲しかったのは知っている。Ωの王女が現れたから……もしかしたら本当に二人が運命の番なのかもしれない。
それが真実のように思えて苦しくて、涙がどうしてもとまらない。涙を拭いつつライナと先を急ぐ。婚約破棄などどうでもいい。今は、兄達を取り返さないといけない。
王家への不信からのクーデターのようだった。反帝国派……が多数いたことさえサフィラは知らない。
(何が真実か分からないよ)
まずは兄達を助ける。でも、その後はどこに行ったらいいのだろう。帝国に行ってエリオスに会うべきだと思うのに、クーデターの起きた国の王子なんて厄介者で追い払われる可能性が高い。
(兄様……どうしたらいい?)
息を潜め隠れていたサフィラを誘き寄せる為、封魔具を付けられた双子の兄達が見せしめのように魔の森へ送られた。
ここは帝国との国境の一部で、魔獣が発生することでも有名な森だった。ライナに付けられた封魔具を解除に成功し、王宮から転移して兄達を助けに行く。少しだけ希望が見え急ぎ移動をする。薄らとしらみ始めた空に、目が慣れてきた。
「あの方が、サフィラ様以外を選ぶとはどうしても思えません」
ライナが、怒ってくれている。それでも、見えてしまった以上本物の様にしか思えなかった。
「玉璽が押されていた。本物に見えたよ。ダンテ王国の王女と番になって僕とは解消したんだよ。エリオス様は、皇妃は一人だと言っていたもの。それにクーデターの起きるようんな国の王子なんて……邪魔だよ」
「サフィラ様、だからこそエリオス様に確認に会いに行かなければ。殿下達を助けて魔の森を越えましょう」
ライナは、周りを確認しながら先を進んで行く。
「ごめん。そうだよね。今は早く兄様達を助けるのが先だよね……あ……」
雪が朱色に染まっている所がある。
「血?」
恐ろしくて心臓がギュッと掴まれたようになる。
二つの塊、赤黒く痛々しいものが視界に入って来た。
少し離れた場所に、兄達を見張る為に付けられていたフードの男が血だらけになっている。
「嘘だ……」
薄らと積もった雪を払い落とし慌てて、顔を確認する。殴られた痕も。切り刻まれた痕も多い。
封魔具はそのままだ。捕まっていた時からなんの抵抗も出来なかったのだ──兄様達は。
──間に合わなかった。
ただ開かれた胸元には、魔法痕があった。これが致命傷だ。
「ひど……い」
見覚えがある。
魔法には、痕が残る種類の呪いのような物があるが、この場合は見せしめの意味だ。
しかも、この魔法痕は、国境の帝国軍に殺られたのだろうか?
「帝国……のだ」
エリオス……嘘だ。本当にダンテ王国を選んだってこと?
魔の森に侵入したから?確認もせずに兄様達を殺したの?それともクーデターを知っていたとか?
「死にたい……もう、皆の所に逝かせて」
両親も双子の兄達も失った。唯一の拠り所になるはずの婚約者も、すでに番がいるという。
泣き叫び、ライナの胸を叩く。
「いやああああああああ!もう死なせてよ!!」
「何言ってるんですか! 陛下も、兄殿下達も、サフィラ様が死ぬことなんて望んでない」
「僕だけ生きてたって仕方がない。僕はΩで……今の僕に何が出来る? 何の力もないんだから」
「──なら、俺を信じて見ますか? 陛下や兄殿下を護れるかもしれません」
不思議とその手を取りたくなった。
「時戻しの魔法……代償は大きいですが、抗ってみましょう」
「時戻しの魔法? クーデターが起きる前に戻れるの!?父様達を助けられるなら、何でもする。この身を引替えてもいい」
ライナが唇をギュッと噛んだ。
「──そうです。代償は寿命です。時戻り後約十年で寿命がつきます」
「いいよ。それだけあれば対応出来る。婚約もしないし、カーティスの行動も見張る。婚約前に戻ってクーデター阻止の準備をしよう。そしたら、皆の幸せを見てから死ねる!!」
「サフィラ……」
「ねぇライナ。ここで、犬死するより価値があるよね」
サフィラは、涙を流しながら笑って見せた。
「時戻りを試しますが、俺も抵抗しますから未来をかえましょう」
準備の為、追手にバレないよう魔導具で結界を張ることにした。
なんでこんなことが起きてしまったのか?王宮内でクーデターなんて。
帝国に王国が支配されると思ったのだろうか?状況が分からない。
さらに婚約者に番が出来たからと、婚約破棄の書状まで。お飾りの側妃……ならと思ったことがある。でも、エリオスはずっと誠実に妃になるのは一人だけだと言ってくれていた。
(信じたかったのに)
優秀な後継ぎが必要な帝国は、Ωが欲しかったのは知っている。Ωの王女が現れたから……もしかしたら本当に二人が運命の番なのかもしれない。
それが真実のように思えて苦しくて、涙がどうしてもとまらない。涙を拭いつつライナと先を急ぐ。婚約破棄などどうでもいい。今は、兄達を取り返さないといけない。
王家への不信からのクーデターのようだった。反帝国派……が多数いたことさえサフィラは知らない。
(何が真実か分からないよ)
まずは兄達を助ける。でも、その後はどこに行ったらいいのだろう。帝国に行ってエリオスに会うべきだと思うのに、クーデターの起きた国の王子なんて厄介者で追い払われる可能性が高い。
(兄様……どうしたらいい?)
息を潜め隠れていたサフィラを誘き寄せる為、封魔具を付けられた双子の兄達が見せしめのように魔の森へ送られた。
ここは帝国との国境の一部で、魔獣が発生することでも有名な森だった。ライナに付けられた封魔具を解除に成功し、王宮から転移して兄達を助けに行く。少しだけ希望が見え急ぎ移動をする。薄らとしらみ始めた空に、目が慣れてきた。
「あの方が、サフィラ様以外を選ぶとはどうしても思えません」
ライナが、怒ってくれている。それでも、見えてしまった以上本物の様にしか思えなかった。
「玉璽が押されていた。本物に見えたよ。ダンテ王国の王女と番になって僕とは解消したんだよ。エリオス様は、皇妃は一人だと言っていたもの。それにクーデターの起きるようんな国の王子なんて……邪魔だよ」
「サフィラ様、だからこそエリオス様に確認に会いに行かなければ。殿下達を助けて魔の森を越えましょう」
ライナは、周りを確認しながら先を進んで行く。
「ごめん。そうだよね。今は早く兄様達を助けるのが先だよね……あ……」
雪が朱色に染まっている所がある。
「血?」
恐ろしくて心臓がギュッと掴まれたようになる。
二つの塊、赤黒く痛々しいものが視界に入って来た。
少し離れた場所に、兄達を見張る為に付けられていたフードの男が血だらけになっている。
「嘘だ……」
薄らと積もった雪を払い落とし慌てて、顔を確認する。殴られた痕も。切り刻まれた痕も多い。
封魔具はそのままだ。捕まっていた時からなんの抵抗も出来なかったのだ──兄様達は。
──間に合わなかった。
ただ開かれた胸元には、魔法痕があった。これが致命傷だ。
「ひど……い」
見覚えがある。
魔法には、痕が残る種類の呪いのような物があるが、この場合は見せしめの意味だ。
しかも、この魔法痕は、国境の帝国軍に殺られたのだろうか?
「帝国……のだ」
エリオス……嘘だ。本当にダンテ王国を選んだってこと?
魔の森に侵入したから?確認もせずに兄様達を殺したの?それともクーデターを知っていたとか?
「死にたい……もう、皆の所に逝かせて」
両親も双子の兄達も失った。唯一の拠り所になるはずの婚約者も、すでに番がいるという。
泣き叫び、ライナの胸を叩く。
「いやああああああああ!もう死なせてよ!!」
「何言ってるんですか! 陛下も、兄殿下達も、サフィラ様が死ぬことなんて望んでない」
「僕だけ生きてたって仕方がない。僕はΩで……今の僕に何が出来る? 何の力もないんだから」
「──なら、俺を信じて見ますか? 陛下や兄殿下を護れるかもしれません」
不思議とその手を取りたくなった。
「時戻しの魔法……代償は大きいですが、抗ってみましょう」
「時戻しの魔法? クーデターが起きる前に戻れるの!?父様達を助けられるなら、何でもする。この身を引替えてもいい」
ライナが唇をギュッと噛んだ。
「──そうです。代償は寿命です。時戻り後約十年で寿命がつきます」
「いいよ。それだけあれば対応出来る。婚約もしないし、カーティスの行動も見張る。婚約前に戻ってクーデター阻止の準備をしよう。そしたら、皆の幸せを見てから死ねる!!」
「サフィラ……」
「ねぇライナ。ここで、犬死するより価値があるよね」
サフィラは、涙を流しながら笑って見せた。
「時戻りを試しますが、俺も抵抗しますから未来をかえましょう」
準備の為、追手にバレないよう魔導具で結界を張ることにした。
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