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時戻り前の世界
27.婚約破棄
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「サフィラ様……」
「ん?」
誰かに呼ばれた気がした。
「静かに起きて下さい」
「ん……ライナ? どうし……たの」
「しっ」
唇に指を一本当てて、ライナが怖い顔をしていた。
ただ黙って頷く。
「王国の砦が破壊されて、賊が入り込んで来ています。賊と言うより騎士と魔法師たちのようです。戦が始まったのかもしれません」
「え?」
「戦争……です」
「なっ……そんな馬鹿な。砦だって魔導具で強化してたし。王都の城壁は簡単には……何が起こってるの?」
「今は早く着替えて下さい。それから念の為に抑制剤を今から飲んでて。可能な限りの防御魔導具を、身につけて下さい」
「あ……なら、コレとかをって……何?なんかライナ魔力が変だよ」
「内部に敵と繋がっている者がいるようです。交戦中に封魔具を付けられて、今解除を試している所なんです」
「そんな。あ……でも待って解読の魔導具を試作品だけど。とりあえず付けてみて」
ライナが一瞬驚いて「さすがです」そう言った後に優しく頭を撫でられた。
ライナが用意した姿消しのマントを羽織る。
「兄様たちと合流したいけど、現状が分からない」
「アレク様は国王陛下の所へ。レオン様は、騎士団の方へ向かったとしか……分かりません」
「ライナ……僕専用の通路を行くから付いて来て」
「はい」
秘密の通路への鍵は、一人の王子に一つ渡すことになっている。それぞれが別のルートで脱出できる仕組みだ。
捕まった時に自白剤を使われても、知っているのは自分の分だけ。王家の血筋を生き延びさせる為の、王家の知恵でもあった。
サフィラは迷わずライナと共に通路を進む。今信用出来るのは、契約魔法を使ってくれたライナだけ。
(内部に裏切り者がいる。こんな簡単に侵入出来るはずがない)
通路の途中にある秘密の部屋に身を寄せ、水鏡の魔導具で状況を確認をしていく。
黒いローブの一団がすでに国王陛下の部屋にいた。
美しいサフィラと同じ色の髪が、切り落とされ散らばっている。陛下の腕の中には、夜着を赤黒く染めた女性がいた。
「あ……ああああああ」
飛び出して行きそうなサフィラの体を、ライナが抱きとめた。
無言で女性を寝台に乗せ、額にキスを落としていた。
「間に合わなくてすまない。少しだけ待っていてくれないか?」
「母様……が、なんで……女性や子供には騎士は手を出さないはずじゃ」
室内に血の後が、あちらこちらにある。
陛下の剣も、服にも返り血がついているみたいだ。
「国王陛下、剣を納めて下さい。でなければ次はこの方を処分します」
アレクが拘束され、数箇所怪我をしているみたいだった。
「殿下も封魔具を付けられているみたいですね」
「そんな」
アレクは強い、この状況下で油断するはずが無い。一体誰に封魔具を付けられたのか……顔見知り?そんな嫌な予感にサフィラは吐き気がした。
そこにレオンが引き摺られるように連れて来られた。
「レオン兄様まで」
そうしてまた一人、襲撃者が現れた。
フードを外した男の顔を見て、サフィラは愕然とする。
「帝国などと、懇意になり過ぎるからですよ」
「カーティス……」
思わず声を漏らしたのは陛下だ。
「サフィラ様を何処に隠しましたか?ライナと一緒ですか?」
ライナが、またガチりとサフィラを押えた。
「ライナ……行かせて」
「駄目です」
「殿下達に暴れられると面倒です。人質は一人いれば十分では?」
フード被ったままの別の男が、レオンの首に少し剣先を当てた。
「陛下、王位をサフィラ様に譲ってくれませんか?それから双子の王子は、廃嫡して下さい。そうすれば三人の息子の命は助けます。ちゃんと、サフィラ様の血筋の子が後継になりますから……それは必ずお約束します」
「カーティス、お前のそんな戯言を信じろと? 卑怯者が!」
「魔法を使われたら厄介なので。それに卑怯者は帝国人の方ですから」
剣を握っている男が淡々と答える。
「陛下。帝国は貴方達を既に切捨てました」
カーティスの言葉に陛下が反応した。
「何を馬鹿な……」
「これが分かりますか? サフィラ殿下との婚約を破棄する通達文です。どうやら、ダンテ国のΩの王女と先に番になったようです。運命に会ったそうですよ。この扱いで、和平条約は成立するのでしょうか?」
隠れているサフィラにも、その言葉は酷くゆっくりと聞こえてきた。
「ん?」
誰かに呼ばれた気がした。
「静かに起きて下さい」
「ん……ライナ? どうし……たの」
「しっ」
唇に指を一本当てて、ライナが怖い顔をしていた。
ただ黙って頷く。
「王国の砦が破壊されて、賊が入り込んで来ています。賊と言うより騎士と魔法師たちのようです。戦が始まったのかもしれません」
「え?」
「戦争……です」
「なっ……そんな馬鹿な。砦だって魔導具で強化してたし。王都の城壁は簡単には……何が起こってるの?」
「今は早く着替えて下さい。それから念の為に抑制剤を今から飲んでて。可能な限りの防御魔導具を、身につけて下さい」
「あ……なら、コレとかをって……何?なんかライナ魔力が変だよ」
「内部に敵と繋がっている者がいるようです。交戦中に封魔具を付けられて、今解除を試している所なんです」
「そんな。あ……でも待って解読の魔導具を試作品だけど。とりあえず付けてみて」
ライナが一瞬驚いて「さすがです」そう言った後に優しく頭を撫でられた。
ライナが用意した姿消しのマントを羽織る。
「兄様たちと合流したいけど、現状が分からない」
「アレク様は国王陛下の所へ。レオン様は、騎士団の方へ向かったとしか……分かりません」
「ライナ……僕専用の通路を行くから付いて来て」
「はい」
秘密の通路への鍵は、一人の王子に一つ渡すことになっている。それぞれが別のルートで脱出できる仕組みだ。
捕まった時に自白剤を使われても、知っているのは自分の分だけ。王家の血筋を生き延びさせる為の、王家の知恵でもあった。
サフィラは迷わずライナと共に通路を進む。今信用出来るのは、契約魔法を使ってくれたライナだけ。
(内部に裏切り者がいる。こんな簡単に侵入出来るはずがない)
通路の途中にある秘密の部屋に身を寄せ、水鏡の魔導具で状況を確認をしていく。
黒いローブの一団がすでに国王陛下の部屋にいた。
美しいサフィラと同じ色の髪が、切り落とされ散らばっている。陛下の腕の中には、夜着を赤黒く染めた女性がいた。
「あ……ああああああ」
飛び出して行きそうなサフィラの体を、ライナが抱きとめた。
無言で女性を寝台に乗せ、額にキスを落としていた。
「間に合わなくてすまない。少しだけ待っていてくれないか?」
「母様……が、なんで……女性や子供には騎士は手を出さないはずじゃ」
室内に血の後が、あちらこちらにある。
陛下の剣も、服にも返り血がついているみたいだ。
「国王陛下、剣を納めて下さい。でなければ次はこの方を処分します」
アレクが拘束され、数箇所怪我をしているみたいだった。
「殿下も封魔具を付けられているみたいですね」
「そんな」
アレクは強い、この状況下で油断するはずが無い。一体誰に封魔具を付けられたのか……顔見知り?そんな嫌な予感にサフィラは吐き気がした。
そこにレオンが引き摺られるように連れて来られた。
「レオン兄様まで」
そうしてまた一人、襲撃者が現れた。
フードを外した男の顔を見て、サフィラは愕然とする。
「帝国などと、懇意になり過ぎるからですよ」
「カーティス……」
思わず声を漏らしたのは陛下だ。
「サフィラ様を何処に隠しましたか?ライナと一緒ですか?」
ライナが、またガチりとサフィラを押えた。
「ライナ……行かせて」
「駄目です」
「殿下達に暴れられると面倒です。人質は一人いれば十分では?」
フード被ったままの別の男が、レオンの首に少し剣先を当てた。
「陛下、王位をサフィラ様に譲ってくれませんか?それから双子の王子は、廃嫡して下さい。そうすれば三人の息子の命は助けます。ちゃんと、サフィラ様の血筋の子が後継になりますから……それは必ずお約束します」
「カーティス、お前のそんな戯言を信じろと? 卑怯者が!」
「魔法を使われたら厄介なので。それに卑怯者は帝国人の方ですから」
剣を握っている男が淡々と答える。
「陛下。帝国は貴方達を既に切捨てました」
カーティスの言葉に陛下が反応した。
「何を馬鹿な……」
「これが分かりますか? サフィラ殿下との婚約を破棄する通達文です。どうやら、ダンテ国のΩの王女と先に番になったようです。運命に会ったそうですよ。この扱いで、和平条約は成立するのでしょうか?」
隠れているサフィラにも、その言葉は酷くゆっくりと聞こえてきた。
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