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時戻り前の世界
25.悪意 side ライナ
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ライナは、別件で足止めされてしまった。傍についておくべきだったと悔やんでいる。
──帝国との和平条約を強固にすれば、やはり反発してくる国が出てくる。
何よりスノーリル王国の魅力は、王国が思っているよりも非常に高い。
サフィラを手に入れたい国も出てくるので、この機会に不満を持つ国の情報を集めて欲しい。
そう、エリオス様から頼まれた。
「俺はもうサフィラ様の物ですよ?」
「分かってる。だが、これはサフィラの為だ」
確かに……その方がサフィラ様の為になると判断をしてしまったのだ。
Ωは強制的に番にされてしまったら後戻りが出来ない。だからこそ、敵を把握するために協力することにした。
エリオス様と番になるのは、サフィラ様が十八歳を越えないといけない。だから婚姻式後の最初の発情状態で、番になるのがスノーリル王国の常識だ。
「この国の王族としての規律だから、これは曲げられない」
エリオス様は、一刻でも早く番になりたいだろう。それが出来ない以上、敵を排除するしかない。
それが裏目に出たのだ。
「くそっ、やられた。これだから女のやることは読めない」
(本当に陰湿な奴らだ)
怪しい国は二つほど。Ωの令嬢を強制発情させて、エリオス様の部屋に夜這いさせる計画みたいだった。強制発情の薬は全て下剤にすり替え済みだ。
死にはしないが……搾り取られるくらいには苦しんでもらう予定だ。
本当なら、毒を飲ませてやりたい。
サフィラ様の方には、αのクズを送り込むとか……もし本気で夜這いに来るなら、αのアレをもいでやる予定だ。それか、その令嬢たちの所へ誘い込むのもいいな。
誰に手を出そうとしたか、身の程を知ればいい。ドス黒い感情に染っていくのは、敬愛する主を踏み躙られたせいだ。収まらない怒りに、我を忘れないようにと息を吐く。
(ああ……部屋に魔導具も準備しないと、とにかくサフィラ様の所へ)
控え室で倒れたと影からの連絡が入った。発情ではなく、熱が上がったらしい。ことの顛末の報告を受け、ライナは傍にいなかった自分自身に怒りを覚えた。
寝室で診察を受けた後、サフィラは眠りについたままだ。婚約式の準備を進めながら、研究も手を抜かず気を張っていたサフィラの様子を思い返す。
熱が下がらない中、時々うわ言で「僕なんかで……ごめんなさい。ごめんなさい」といい続けている。
「看病と護衛につきます。侵入者は容赦なく切り捨てますから、後は外交問題にならないように、上手くやって下さい」
ライナの言葉に三人の王子たちが頷いた。
あの場で、エリオスとダンスを踊ったのは二人。隣国の王女と高位令嬢だった。αの可能性が高かった。αが多数参加している会場で、ネックガードを身に付けていないΩは餌のようなもの。
餌になる気だったのかも知れないが、リスクが高すぎてイカレていると思われてもしかたがない。
「この場を収めるために一曲踊って差上げたらどうかと。一人だと側妃候補と誤解を受けてしまう。だから後二人くらい踊れば、退出するのもスムーズに行くと言われたんだ」
サフィラに残れと言われ、エリオスは退出する機会を失った。
確かに、主役の二人が席を外すには早すぎる。夜会は始まってそれほど時間がたっていなかったのだから。
独身の令嬢の一夜の夢を叶えれば、それは美談になり得たのも事実だった。
「確かにね。エリオスがさらに二人の令嬢と踊ったから、あの女も実際は悔しそうだったしね」
アレクも同じ様に令嬢のダンスの相手をして……そういう夢を叶える状況だと演出したのだ。
「サフィラはΩと分かってから、特に研究を優先してたんだ。エリオスの相手として相応しく見てもらえるようにってね。まさかこんなに公の場で、悪意に晒されることになるとか……警護も甘くて、本当に自分に腹が立つ!!」
レオンも悔しさを滲ませる。
「これからも、僻みを受けると思う。ライナ……、サフィラを最優先で護って欲しい。俺達の最愛の弟が、苦しまなくて済むように」
「クロノスの名にかけて」
ライナが騎士の礼をとり、サフィラの護衛に戻って行った。
──帝国との和平条約を強固にすれば、やはり反発してくる国が出てくる。
何よりスノーリル王国の魅力は、王国が思っているよりも非常に高い。
サフィラを手に入れたい国も出てくるので、この機会に不満を持つ国の情報を集めて欲しい。
そう、エリオス様から頼まれた。
「俺はもうサフィラ様の物ですよ?」
「分かってる。だが、これはサフィラの為だ」
確かに……その方がサフィラ様の為になると判断をしてしまったのだ。
Ωは強制的に番にされてしまったら後戻りが出来ない。だからこそ、敵を把握するために協力することにした。
エリオス様と番になるのは、サフィラ様が十八歳を越えないといけない。だから婚姻式後の最初の発情状態で、番になるのがスノーリル王国の常識だ。
「この国の王族としての規律だから、これは曲げられない」
エリオス様は、一刻でも早く番になりたいだろう。それが出来ない以上、敵を排除するしかない。
それが裏目に出たのだ。
「くそっ、やられた。これだから女のやることは読めない」
(本当に陰湿な奴らだ)
怪しい国は二つほど。Ωの令嬢を強制発情させて、エリオス様の部屋に夜這いさせる計画みたいだった。強制発情の薬は全て下剤にすり替え済みだ。
死にはしないが……搾り取られるくらいには苦しんでもらう予定だ。
本当なら、毒を飲ませてやりたい。
サフィラ様の方には、αのクズを送り込むとか……もし本気で夜這いに来るなら、αのアレをもいでやる予定だ。それか、その令嬢たちの所へ誘い込むのもいいな。
誰に手を出そうとしたか、身の程を知ればいい。ドス黒い感情に染っていくのは、敬愛する主を踏み躙られたせいだ。収まらない怒りに、我を忘れないようにと息を吐く。
(ああ……部屋に魔導具も準備しないと、とにかくサフィラ様の所へ)
控え室で倒れたと影からの連絡が入った。発情ではなく、熱が上がったらしい。ことの顛末の報告を受け、ライナは傍にいなかった自分自身に怒りを覚えた。
寝室で診察を受けた後、サフィラは眠りについたままだ。婚約式の準備を進めながら、研究も手を抜かず気を張っていたサフィラの様子を思い返す。
熱が下がらない中、時々うわ言で「僕なんかで……ごめんなさい。ごめんなさい」といい続けている。
「看病と護衛につきます。侵入者は容赦なく切り捨てますから、後は外交問題にならないように、上手くやって下さい」
ライナの言葉に三人の王子たちが頷いた。
あの場で、エリオスとダンスを踊ったのは二人。隣国の王女と高位令嬢だった。αの可能性が高かった。αが多数参加している会場で、ネックガードを身に付けていないΩは餌のようなもの。
餌になる気だったのかも知れないが、リスクが高すぎてイカレていると思われてもしかたがない。
「この場を収めるために一曲踊って差上げたらどうかと。一人だと側妃候補と誤解を受けてしまう。だから後二人くらい踊れば、退出するのもスムーズに行くと言われたんだ」
サフィラに残れと言われ、エリオスは退出する機会を失った。
確かに、主役の二人が席を外すには早すぎる。夜会は始まってそれほど時間がたっていなかったのだから。
独身の令嬢の一夜の夢を叶えれば、それは美談になり得たのも事実だった。
「確かにね。エリオスがさらに二人の令嬢と踊ったから、あの女も実際は悔しそうだったしね」
アレクも同じ様に令嬢のダンスの相手をして……そういう夢を叶える状況だと演出したのだ。
「サフィラはΩと分かってから、特に研究を優先してたんだ。エリオスの相手として相応しく見てもらえるようにってね。まさかこんなに公の場で、悪意に晒されることになるとか……警護も甘くて、本当に自分に腹が立つ!!」
レオンも悔しさを滲ませる。
「これからも、僻みを受けると思う。ライナ……、サフィラを最優先で護って欲しい。俺達の最愛の弟が、苦しまなくて済むように」
「クロノスの名にかけて」
ライナが騎士の礼をとり、サフィラの護衛に戻って行った。
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