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時戻り前の世界

22.βとΩ

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 エリオスとまともに会話する時間が、取れずに帰国させてしまった。
 政略的な婚姻もの、幼馴染を哀れんだのかも知れない。ただライナからエリオスが、不器用だから嫌いじゃないなら、信じてあげてと言われた。

 (別に嫌いじゃない、申し訳なさに胸が痛いだけ)

 帰国後のエリオスからのサフィラへの手紙は、内容も回数も変わったのだ。

 事務的なメモのような手紙だったのに、日々帝国で起きていることや、それに対しての感想も書かれていた。

「メモから報告書になりましたね」
「──本当だね。ライナすごいね……僕の目線で分かるの?」

 専属護衛と言えど、サフィラの許可がなければ、手紙を勝手に読んだりはしない。ライナは『馬に蹴られる気はないので』などと言っているが、意味がわからない。

「まあ。今までが、チラ見で終わってたじゃないですか。今は用紙の半分くらいまで目線が行きますから。エリオス様も頑張ってるんですね」

「確かに……手紙が苦手なのに、今までより長く?書いてくれてるよね」

「書くのが苦手でも、サフィラ様に返事を書いて欲しいのですよ。簡単に会えませんからね」

 いつも手紙の最後の一文は、サフィラの体の心配と妃は一人だと気遣うものだ。

「いつも僕の体の心配と、気遣いの言葉が書いてある。そんなに弱くはないのにね。Ωだとしても男なんだから……妃って、変な気分」

 少し困っているサフィラを見て、面白いのかライナが笑った。
「何、僕変なこと言った?」

「エリオス様は、サフィラ様をか弱い女性と思っている訳じゃないです。ただ可愛くて可愛くて、誰かに盗られちゃうんじゃないかって、心配されてるんです」

「だから、そんなこと……ないって」
 サフィラは、恥ずかしくて両手で顔を隠した。

「サフィラ様は、バース性のβってどう思いますか?」

「えっ?」
 突然の質問にサフィラは、考えが及ばない。

「凡人で何も出来なくて可哀想? それとも……凡人だと何も期待されなくて羨ましい? 俺はαに負けそうですか?」

「そんなこと……ライナは、本当はα何じゃないかって思うくらいだよ」

「じゃあαなら、みんな優れててでしょうか?」

「ううん……そんなことはないと思う。兄様たちもエリオス様も、ちゃんと努力されてる。だからこそ凄いし尊敬してるよ」

「私からサフィラ様を見ても、αに知識で負けている所なんてない。強いて言うなら、ただ体力がないかな」

「だって筋肉がつかないもの!」
「陛下と皇后様を見てると、皇后様に似て生まれちゃっただけだと思いますよ」

「それは、そうだけど」
「皇后様って、陛下が囲って……閉じ込め……じゃなくて、独占欲で表に出したくないだけで、優秀な方って聞いてます」

「城壁にある魔導具とかは、母様が考案したんだ。あれは本当にすごいよ!」

「Ωだからってサフィラ様が、恥じることなんて何に一つありません。抑制剤も、魔導具も作るだけ作って堂々としたらいいんです」

「そっか。僕は出来ることで王国の役に、立ったら良いよね?エリオス様を少しでも支えられたら嬉しい」

「その意気です」
 βであるライナの方が、よっぽど辛い目に合ってるかもしれない。αに比較されないはずが無い。
 だから、わざと魔力を隠さず存在を見せつけてるのだろうか?実力は底知が知れない。

 ライナが「何か?」と言う素振りをする。思わず首を振って「何でもないよ」と返した。

 エリオスと手紙のやり取りをしながら、会えた時はもう少し話をして、未来を一緒に考えようと思う。手紙を大切に引き出しにいれる。

 綺麗なアベリアブルーの双眸を思い浮かべた後に、研究レポートに目を通し始めた。


 集中したサフィラは、何も聞こえない状態に入ってしまう。

 だから──

「バース性って……特にΩに生まれた者は、過去に運命を引き裂かれて、もう一度出会う目印を付けられてる気がするんですよね。必ず結ばれるまで」

 そんなライナの呟きは、空気に溶けて消えた。
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