23 / 100
時戻り前の世界
22.βとΩ
しおりを挟む
エリオスとまともに会話する時間が、取れずに帰国させてしまった。
政略的な婚姻、幼馴染を哀れんだのかも知れない。ただライナからエリオスが、不器用だから嫌いじゃないなら、信じてあげてと言われた。
(別に嫌いじゃない、申し訳なさに胸が痛いだけ)
帰国後のエリオスからのサフィラへの手紙は、内容も回数も変わったのだ。
事務的なメモのような手紙だったのに、日々帝国で起きていることや、それに対しての感想も書かれていた。
「メモから報告書になりましたね」
「──本当だね。ライナすごいね……僕の目線で分かるの?」
専属護衛と言えど、サフィラの許可がなければ、手紙を勝手に読んだりはしない。ライナは『馬に蹴られる気はないので』などと言っているが、意味がわからない。
「まあ。今までが、チラ見で終わってたじゃないですか。今は用紙の半分くらいまで目線が行きますから。エリオス様も頑張ってるんですね」
「確かに……手紙が苦手なのに、今までより長く?書いてくれてるよね」
「書くのが苦手でも、サフィラ様に返事を書いて欲しいのですよ。簡単に会えませんからね」
いつも手紙の最後の一文は、サフィラの体の心配と妃は一人だと気遣うものだ。
「いつも僕の体の心配と、気遣いの言葉が書いてある。そんなに弱くはないのにね。Ωだとしても男なんだから……妃って、変な気分」
少し困っているサフィラを見て、面白いのかライナが笑った。
「何、僕変なこと言った?」
「エリオス様は、サフィラ様をか弱い女性と思っている訳じゃないです。ただ可愛くて可愛くて、誰かに盗られちゃうんじゃないかって、心配されてるんです」
「だから、そんなこと……ないって」
サフィラは、恥ずかしくて両手で顔を隠した。
「サフィラ様は、バース性のβってどう思いますか?」
「えっ?」
突然の質問にサフィラは、考えが及ばない。
「凡人で何も出来なくて可哀想? それとも……凡人だと何も期待されなくて羨ましい? 俺はαに負けそうですか?」
「そんなこと……ライナは、本当はα何じゃないかって思うくらいだよ」
「じゃあαなら、みんな優れてて何でも出来て当たり前でしょうか?」
「ううん……そんなことはないと思う。兄様たちもエリオス様も、ちゃんと努力されてる。だからこそ凄いし尊敬してるよ」
「私からサフィラ様を見ても、αに知識で負けている所なんてない。強いて言うなら、ただ体力がないかな」
「だって筋肉がつかないもの!」
「陛下と皇后様を見てると、皇后様に似て生まれちゃっただけだと思いますよ」
「それは、そうだけど」
「皇后様って、陛下が囲って……閉じ込め……じゃなくて、独占欲で表に出したくないだけで、優秀な方って聞いてます」
「城壁にある魔導具とかは、母様が考案したんだ。あれは本当にすごいよ!」
「Ωだからってサフィラ様が、恥じることなんて何に一つありません。抑制剤も、魔導具も作るだけ作って堂々としたらいいんです」
「そっか。僕は出来ることで王国の役に、立ったら良いよね?エリオス様を少しでも支えられたら嬉しい」
「その意気です」
βであるライナの方が、よっぽど辛い目に合ってるかもしれない。αに比較されないはずが無い。
だから、わざと魔力を隠さず存在を見せつけてるのだろうか?実力は底知が知れない。
ライナが「何か?」と言う素振りをする。思わず首を振って「何でもないよ」と返した。
エリオスと手紙のやり取りをしながら、会えた時はもう少し話をして、未来を一緒に考えようと思う。手紙を大切に引き出しにいれる。
綺麗なアベリアブルーの双眸を思い浮かべた後に、研究レポートに目を通し始めた。
集中したサフィラは、何も聞こえない状態に入ってしまう。
だから──
「バース性って……特にΩに生まれた者は、過去に運命を引き裂かれて、もう一度出会う目印を付けられてる気がするんですよね。必ず結ばれるまで」
そんなライナの呟きは、空気に溶けて消えた。
政略的な婚姻、幼馴染を哀れんだのかも知れない。ただライナからエリオスが、不器用だから嫌いじゃないなら、信じてあげてと言われた。
(別に嫌いじゃない、申し訳なさに胸が痛いだけ)
帰国後のエリオスからのサフィラへの手紙は、内容も回数も変わったのだ。
事務的なメモのような手紙だったのに、日々帝国で起きていることや、それに対しての感想も書かれていた。
「メモから報告書になりましたね」
「──本当だね。ライナすごいね……僕の目線で分かるの?」
専属護衛と言えど、サフィラの許可がなければ、手紙を勝手に読んだりはしない。ライナは『馬に蹴られる気はないので』などと言っているが、意味がわからない。
「まあ。今までが、チラ見で終わってたじゃないですか。今は用紙の半分くらいまで目線が行きますから。エリオス様も頑張ってるんですね」
「確かに……手紙が苦手なのに、今までより長く?書いてくれてるよね」
「書くのが苦手でも、サフィラ様に返事を書いて欲しいのですよ。簡単に会えませんからね」
いつも手紙の最後の一文は、サフィラの体の心配と妃は一人だと気遣うものだ。
「いつも僕の体の心配と、気遣いの言葉が書いてある。そんなに弱くはないのにね。Ωだとしても男なんだから……妃って、変な気分」
少し困っているサフィラを見て、面白いのかライナが笑った。
「何、僕変なこと言った?」
「エリオス様は、サフィラ様をか弱い女性と思っている訳じゃないです。ただ可愛くて可愛くて、誰かに盗られちゃうんじゃないかって、心配されてるんです」
「だから、そんなこと……ないって」
サフィラは、恥ずかしくて両手で顔を隠した。
「サフィラ様は、バース性のβってどう思いますか?」
「えっ?」
突然の質問にサフィラは、考えが及ばない。
「凡人で何も出来なくて可哀想? それとも……凡人だと何も期待されなくて羨ましい? 俺はαに負けそうですか?」
「そんなこと……ライナは、本当はα何じゃないかって思うくらいだよ」
「じゃあαなら、みんな優れてて何でも出来て当たり前でしょうか?」
「ううん……そんなことはないと思う。兄様たちもエリオス様も、ちゃんと努力されてる。だからこそ凄いし尊敬してるよ」
「私からサフィラ様を見ても、αに知識で負けている所なんてない。強いて言うなら、ただ体力がないかな」
「だって筋肉がつかないもの!」
「陛下と皇后様を見てると、皇后様に似て生まれちゃっただけだと思いますよ」
「それは、そうだけど」
「皇后様って、陛下が囲って……閉じ込め……じゃなくて、独占欲で表に出したくないだけで、優秀な方って聞いてます」
「城壁にある魔導具とかは、母様が考案したんだ。あれは本当にすごいよ!」
「Ωだからってサフィラ様が、恥じることなんて何に一つありません。抑制剤も、魔導具も作るだけ作って堂々としたらいいんです」
「そっか。僕は出来ることで王国の役に、立ったら良いよね?エリオス様を少しでも支えられたら嬉しい」
「その意気です」
βであるライナの方が、よっぽど辛い目に合ってるかもしれない。αに比較されないはずが無い。
だから、わざと魔力を隠さず存在を見せつけてるのだろうか?実力は底知が知れない。
ライナが「何か?」と言う素振りをする。思わず首を振って「何でもないよ」と返した。
エリオスと手紙のやり取りをしながら、会えた時はもう少し話をして、未来を一緒に考えようと思う。手紙を大切に引き出しにいれる。
綺麗なアベリアブルーの双眸を思い浮かべた後に、研究レポートに目を通し始めた。
集中したサフィラは、何も聞こえない状態に入ってしまう。
だから──
「バース性って……特にΩに生まれた者は、過去に運命を引き裂かれて、もう一度出会う目印を付けられてる気がするんですよね。必ず結ばれるまで」
そんなライナの呟きは、空気に溶けて消えた。
336
お気に入りに追加
1,039
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい
雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。
延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。
愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる