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時戻り前の世界

17.ヒート

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     熱くて苦しくて、おかしくなりそうだった。

 王宮に戻ると、自室のベッドに運ばれた。いつもなら直ぐに来てくれるレオンも来ない。王宮医師長と薬師長の姿が扉の所に見えたが、直ぐに扉は閉められてしまう。次に開いた時は、見慣れない白衣の華奢な男の人がいた。近衛の女性騎士もいる。


「だ……れ?」
熱くて、苦しくて……変な感じがする。

「サフィラ殿下。私は王宮で唯一のΩの医師です。番も王宮の医師なので安心して下さい」

「Ωの……医師?」
「そうです。今、初めてサフィラ殿下は発情しているのです」

「発情……?」
(こんなに早く? 判定もされていないのに?)

「サフィラ殿下、一先ず抑制剤を飲んでみましょう。ここに一緒にいる近衛騎士はβですから安心して下さい」

    女性騎士は、サフィラを支え起こして、背中にクッションを当ててくれた。薬を渡されて、口に含んで冷たい水で押し流すと、少し気持ちが落ち着いていく。

「サフィラ殿下は、抑制剤の研究をされていたので、発情から起きる熱のことはご存じですよね?」

「──はい」

「でも体験するのは、初めてでしょうから。これからもっと強く症状が出るのか、抑制剤が効いて一時的でも落ち着くのか、まだ分からないのです。それだけ個人差があります」

「そう……ですよね」
(熱くて、お腹辺りがジンジンする)

「一人が辛くなるかもしれません。私がすぐに来れるように待機します。男性のβの騎士達も、場合によっては殿下のフェロモンで誘惑してしまう可能性があります。ですから初めての発情期中は、女性のβの騎士が護衛に当たります」

「──うん」
(怖い)

「アレク殿下もレオン殿下も……ここには来れないのです」

兄達がαなのは、すでに分かっている事だ。Ωの発情の場に来させる訳にはいかない。

「うん」
「お辛いでしょうが、必ず一週間程で治まります。食事は意識がある時は取ってくださいね」

そう言って医師は出て行ってしまった。

(これが発情なんだ)

それからは、所々記憶が飛んでいた。長く、苦しい時間を一人で過ごした。後半にようやく、覚醒している時間が長くなって、発情のことをほんの少しだけ考える時間ができた。


 なぜか、ずっとエリオスを探してしまった気がする。

「こんな僕でも、ずっと友だちでいてくれるって言ってくれたからかな……なんか会いたくなるとか。頼り過ぎてて情けない」

まだ、これからが本格的な冬に入るのだ。エリオスが、簡単にこちらに来ることは出来ない。

「夏まで待たなきゃ……、手紙でΩになったなんて伝える訳には行かないよね。多分まだ秘匿事項になるから」

 気がつけば、涙で頬が濡れていた。
「本当にΩだったんだ」
覚悟はしていたつもりだったのに、エリオスに嫌われてしまうかも知れない。

「αでもΩでもどちらでもいいって……言ってくれたもの。嫌われたりしないよね?」

でも、発情して誘惑してしまったらどうしよう?気持ち悪いって避けられるかも知れない。

「抑制剤を早く、作らなきゃ……フェロモンとかいらない」

 ベットの中で、声を殺して泣き続けたせいで、パンパンに目が腫れていた。次に診察に来たΩの医師が、慌てて目元を冷やしてくれた。
「受け入れるのは、時間がかかると思います。ゆっくりで構いません。ですが、ご自身を否定しないで下さいね。サフィラ殿下を大切に思っている方たちが、怒ってしまいますよ」


「──はい」

「少し眠って下さい。次に起きる時にはアレク殿下たちに会えますからね」
力が抜けて、意識が沈んでいく。


 しばらくして、サフィラは陛下に呼ばれることになった。

 アベリア帝国からサフィラがΩ性の場合、エリオスとの婚約を打診されていたらしい。和平条約を恒久的にする目的で、帝国の皇帝からのほぼ勅命だと聞かされが、サフィラには拒否権はなかった。皇帝命令──それが、サフィラの気持ちを深く傷つけていった。

    
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