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時戻り前の世界

16.微熱

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 スノーリル王国は、大陸の北部に位置している為、冬は特に厳しい。
 吹雪が数日単位で何度も繰り返す為、外出は簡単ではない。

 王国や各領地の保管庫には保存食や薬剤は、日頃から多く積み込まれている。特に薬剤は医者要らず、と言われる位に越冬前に準備をするのだ。

 秋から初冬にかけ、王国の名からリルと呼ばれる王都で、最大の市場が開催される。その名の通り王都市場リルメルカートと呼ばれている。

 その為、外国からの訪問者が多く集まり活気が最もあるのがこの季節だった。

 スノーリルの冬ごもりと言われる所以だった。

「今年の冬も、皆無事に乗り越えられるといいな」

 アレクが王都にお忍びで降りて来ている。今回の留守番はレオンだ。護衛も数名隠れながら付いている。商家の息子の振りをするので、近くにつける護衛は一人だけ。


 双子が揃っていると、すぐに王子とバレ兼ねない。お忍びはお互いに単独で交代が基本だよと兄は笑う。今回は、珍しくサフィラは一緒に来ている。

 どうしても王都市場リルメルカートに行きたいと、わがままを言ったからだ。

  魔導具で髪色も瞳の色も変えているが、サフィラの顔立ちは変わらない。
 アレクからは、「顔の認識自体を、変えれば良かった」と何度も言われてしまう。

 (一緒にいるの、恥ずかしいのかな?)

「サフィ、もっと目深にフードを被って」
「それだと前が見えません」


 冬ごもりと言うだけあって、家にこもってしまうので、実用的なものばかりでは、退屈してしまう。
 子供たちの玩具から、室内を安らぎの空間にする為の家具や装飾品。本や雑貨など珍しい物の多くが王都市場リルメルカートに並んでいる。

  商家の息子に扮しているのに、自然とアレクに女性の視線が集まっていた。サフィラも少しづつ視線を感じてきたが、それは男性のしかも、αたちのようだった。

「ちゃんと防犯の魔導具を身に付けてるよね?」
「他にも転移の魔導具とか、念の為の物は色々持ってます」

「人混みでも万が一があれば、迷わず発動させるんだ」

 サフィラは華奢だが、一国の王子なのでそれなりに護身術も使える。逃避する為の魔導具も、自作で性能確認も問題ない。

  でも‪αの兄王子‬から見れば、サフィラはきっと頼りないのだろう。魔法を封じられたりしなければ、逃げ切る自信もあるのに。

「──はい」
 (封魔具……あれ、ちょっと厄介だな)

 犯罪者用に使う手首に取り付ける魔導具。魔法を封じられてしまうので、基本は第四騎士団の犯罪取締部のみ扱えるようになっている。もしも、あれを使われたら簡単に解除出来ない。

 あれの解除方法は、認証文字パスコードがあるはずだ。

 (解読用の魔導具を作っておこうかな?それか……)

「サフィ?」
「アレク兄様……なんでもない」
 (しまった呼び方を変えるんだった)

  お忍びのようなものなのに。焦るサフィラの頭に触れて、大丈夫だと笑顔が返ってきた。

「ぼうっとしてたら、誘拐されるから。ほら手を繋ぐぞ」

「いや、でも……おかしくない?」
「大丈夫だ」

 後ろの護衛に目を向けると、大きく頷かれてしまった。

 ちょっと朝から熱っぽかったので、それがバレるかもしれない。少し不安になりつつ、アレクと手を繋いだ。

「──サフィ?」
「早く行こ」

 腕を引っ張って、先へと急ぐ。たぶん、時間の問題で帰ることになるはずだ。

  急いで雑貨店に入ると、濃紺色のガラスペンを見つけた。エリオスの色だと何故か嬉しい。
「サフィ……」
「もう少しだけ」

「なら、エリオスと揃いで何か買ったらどうだ? べ、別にあいつだけじゃなくて、留守番してるレオンのも何か……」

「お揃い?何がいいのかな」
「ほら、剣につける輝石付きの飾り紐とか? サフィのエメラルド色ならアイツは泣いて喜ぶな」

 アレクに言われて真剣に選び、兄たちの分も手に取る。エリオスが喜ぶといいなと、商品を受け取った瞬間に、ドクンと心臓が苦しくなって膝を突く。

「はぁ、あ……」
「サフィ? 嘘だろ……ここから出て転移する。皆急げ!」

 微熱が上がってしまっただけ。お願い待って欲しい。そこでサフィラの視界が暗転した。



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