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時戻り前の世界

14.大好きだよ

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 年に一回の避暑地滞在が終わり、エリオスが帝国に戻る。

 また、手紙だけのやり取りが始まる。エリオスの事務連絡のような短い手紙に対して、サフィラは日常の様子を細かく報告をしてくれる。

 自分のことを書くのが苦手なエリオスだが、サフィラに手紙を書いて欲しくてかなり必死で返信していた。

 (しばらく会えないのか)

  サフィラの調剤室で、二人だけで話をする。ライナには、誰もこの部屋に入れないように頼んだ。

「またな。サフィ……手紙を待ってる」
「エリオス様も、身体に気をつけてね」
 帰国前には必ず、サフィラが調合したエリオス用の薬が渡されるのだ。


「いつもありがとう」
「どういたしまして」
 もう、可愛いだけのサフィラではない。
 どんどん綺麗になっている。

 夏が終わり、短い秋が過ぎればスノーリル王国の厳しい冬がやって来る。その冬が終われば、サフィラのバース性がほぼ確定されるのだ。

「サフィ……もしも……」
「ん? もしも?」

  エリオスは、サフィラが‪α‬の判定を待ち望んでいることは知っていた。
 そして、それが絶望的だと思っていることも分かっている。

  サフィラが‪α‬じゃない方がいい、そんな風に思う自分が最低だとも気付いている。
 サフィラがΩなら……欲しい。でもそれを口にしたら傷付けないか、不安で堪らなくて上手く言葉にできない。

 だが──誰にも盗られたくない。言葉にしなければ、友情以上の気持ちを伝えられない。

「もしも、サフィラが……Ωだったら」
 サフィラの表情が曇っていく。
 (失敗した? くそっ判定後が良かったのか……)


「僕がΩだったら……嫌いになる?‪α‬とΩの王子じゃ……傍にいちゃ駄目ですよね?」

「嫌いになる訳ないだろ!!」
「じゃあ! ずっとでいてもらえますか!!」

 サフィラの笑顔に、エリオスは何も言えなくなった。

「──うん」
「大丈夫です。今、Ωの発情ヒート抑制剤を研究しています。それに   αの発情ラット化を正常に戻す薬も試験中です。兄様達もαだから……この薬を頑張って作らないと。めちゃくちゃ効くの作りますね!エリオス様の役に立てたら嬉しいです」


「──うん」

  何故かサフィラが、華奢な指をエリオスの剣ダコでゴツゴツした指と絡ませた。そのまま向かい合う形で、ふわりと笑顔を見せて来る。

 (その顔は、心臓に悪いだろ……)

 このまま恋人同士の様に顔を近づけたら、唇を合わせられそうな距離だった。

 そのまま、グイッと引っ張られ輪になってグルグルと回り始める。サフィラもエリオスも、立場上ダンスは嗜んでいる。体を寄せ合うようなものではなく、遊びのようなものだ。

 サフィラが寂しそうに笑う。それを見ただけで、胸が締め付けられていく。抱きしめたい。エリオスは、そんな衝動をグッと押さえ込んだ。

「エリオス様、Ωだったらごめんなさい。でもエリオス様と出会えて良かった。大好きです」

 その意味は恋愛じゃない。
 仕方がないのだ。王国の王子として、Ωの判定なんて受けたくないのだから。

 精一杯の強がりなのだと、エリオスは苦い気持ちになった。

 ならばと、グイッと引っ張り返して抱き締めてみた。
 すっぽり収まるサフィラの肩に、顎をのせて項の方へ鼻を寄せる。

 サフィラからは、リナリルと言う柑橘系の爽やかな甘さの香りがする。

「サフィラからする香りは、落ち着くから好きだ。どんなお前でも……俺は、サフィラが大好きだよ」

「香水とか何もつけてないのに、不思議ですね。自分じゃ分からないけど。落ち着くならいいですね。あはは……また、会いに来て下さい」

  少しだけ頬を染めて照れているサフィラが、エリオスは愛おしくてたまらない。

「約束する」
 そう言ってサフィラをもう一度だけ、抱き寄せた。

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