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時戻り前の世界
10.治療の為だから①
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出会いはともかく、サフィラは皇太子殿下と接触することが叶った。
見学をしたいと、一度だけかと思ったが度々サフィラの授業をエリオスは見に来た。
カーティスが授業中は私語は禁止とし、授業が終わる時にエリオスも連れて出て行ってしまう。
「ちっとも、話せない……」
サフィラは、専用の調剤室で薬草をすり潰しながら残念そうに呟いた。
結果で言うと皇太子殿下の治療に関しては、アカデミーの教授が担当に決まった。
ただ……なぜか時々ひょっこり現れるライナが、どんな治療を試しているか教えてくれている。それが何となく違和感があるのだ。
「ライナ……護衛なのにこんなに僕の所に来てもいいの?」
すっかり馴染みになった皇太子殿下の護衛騎士は「休憩中なので」と悪びれた様子もなく現れた。
「サフィラ殿下も、気になるでしょ?」
「──それは、そうだけど」
エリオスは双子の兄たちとは、剣の稽古で顔を合わせている様子だった。本調子ではないエリオスの顔色は、あまり良くないとも聞いている。
「皇太子殿下は、剣の稽古中で帝国騎士団も付いてますから……俺にも休憩は必要なんですよ」
「体調悪いのに参加するの? 止めなくていいの?」
「まあ、そうですね……痛いでしょうね。でも、剣の練習を止めてしまえば勘を取り戻すのは、後々大変ですからね」
サフィラが煮出しているのは、薬草茶だ。隣りに来たライナが慣れた手つきで、目盛りのついた器に濾しながら注ぐ。
「この薬草茶、見た目は最悪なんですけどね……美味いですよね」
「うん。身体にいいと思う。でも、この色のせいで兄上たちも嫌がるんだ。口さえ付けてくれない」
何となく、一緒にいてお茶を飲んでいるが、不思議と誰にもバレていない。
(やっぱり、ライナは魔法師だよね。相当な使い手。ライナ自身のことも聞きたいけど)
「ねぇライナ……」
「駄目ですよ」
チッチッチッと人指し指を立てたライナが、目を細めて笑った。
「俺に惚れたら!」
「違うよ!」
即答で否定をしたら、ライナが吹き出した。
「あは、サフィラ殿下は本当におもしろいよね。それより、エリオス殿下の薬を作ってくれませんか?」
「えっ? でも……教授が……」
「それは、それで勝手にさせましょう。害にもならない、薬効もない物を処方しているみたいだから困りません。治りもしませんけどね」
そうなのだ。解毒とは全く関係ないものばかりだった。もちろん身体に害はない。害にならないけど、治ることは絶対にない。
その薬は、単なる栄養剤みたいなものだった。
「──治療法が分からないのかな?」
「さぁ。無能なんでしょう。それか悪化させたら怖いとかね」
サフィラが持っていた器をテーブルに置く。
「そっか、そう言うことなんだね……」
治療と言えど実験みたいな物だ。何かあれば責任が伴う。相手は大陸一の大国で軍事力もトップの国。失敗は許されない。誰でも命は惜しいはずなんだ。サフィラはそんなことを考えていた。
ふいにライナを見ると、壁に寄りかかり窓の外のどこか遠くを見るように呟いた。
「このままだと治らないまま帝国に戻ることになりますね」
それがどんな意味を含むのか、サフィラでも分かる。エリオスの未来が希望なく黒く染まりそうで、守られるだけの弱いΩになる自分と重なった。
見学をしたいと、一度だけかと思ったが度々サフィラの授業をエリオスは見に来た。
カーティスが授業中は私語は禁止とし、授業が終わる時にエリオスも連れて出て行ってしまう。
「ちっとも、話せない……」
サフィラは、専用の調剤室で薬草をすり潰しながら残念そうに呟いた。
結果で言うと皇太子殿下の治療に関しては、アカデミーの教授が担当に決まった。
ただ……なぜか時々ひょっこり現れるライナが、どんな治療を試しているか教えてくれている。それが何となく違和感があるのだ。
「ライナ……護衛なのにこんなに僕の所に来てもいいの?」
すっかり馴染みになった皇太子殿下の護衛騎士は「休憩中なので」と悪びれた様子もなく現れた。
「サフィラ殿下も、気になるでしょ?」
「──それは、そうだけど」
エリオスは双子の兄たちとは、剣の稽古で顔を合わせている様子だった。本調子ではないエリオスの顔色は、あまり良くないとも聞いている。
「皇太子殿下は、剣の稽古中で帝国騎士団も付いてますから……俺にも休憩は必要なんですよ」
「体調悪いのに参加するの? 止めなくていいの?」
「まあ、そうですね……痛いでしょうね。でも、剣の練習を止めてしまえば勘を取り戻すのは、後々大変ですからね」
サフィラが煮出しているのは、薬草茶だ。隣りに来たライナが慣れた手つきで、目盛りのついた器に濾しながら注ぐ。
「この薬草茶、見た目は最悪なんですけどね……美味いですよね」
「うん。身体にいいと思う。でも、この色のせいで兄上たちも嫌がるんだ。口さえ付けてくれない」
何となく、一緒にいてお茶を飲んでいるが、不思議と誰にもバレていない。
(やっぱり、ライナは魔法師だよね。相当な使い手。ライナ自身のことも聞きたいけど)
「ねぇライナ……」
「駄目ですよ」
チッチッチッと人指し指を立てたライナが、目を細めて笑った。
「俺に惚れたら!」
「違うよ!」
即答で否定をしたら、ライナが吹き出した。
「あは、サフィラ殿下は本当におもしろいよね。それより、エリオス殿下の薬を作ってくれませんか?」
「えっ? でも……教授が……」
「それは、それで勝手にさせましょう。害にもならない、薬効もない物を処方しているみたいだから困りません。治りもしませんけどね」
そうなのだ。解毒とは全く関係ないものばかりだった。もちろん身体に害はない。害にならないけど、治ることは絶対にない。
その薬は、単なる栄養剤みたいなものだった。
「──治療法が分からないのかな?」
「さぁ。無能なんでしょう。それか悪化させたら怖いとかね」
サフィラが持っていた器をテーブルに置く。
「そっか、そう言うことなんだね……」
治療と言えど実験みたいな物だ。何かあれば責任が伴う。相手は大陸一の大国で軍事力もトップの国。失敗は許されない。誰でも命は惜しいはずなんだ。サフィラはそんなことを考えていた。
ふいにライナを見ると、壁に寄りかかり窓の外のどこか遠くを見るように呟いた。
「このままだと治らないまま帝国に戻ることになりますね」
それがどんな意味を含むのか、サフィラでも分かる。エリオスの未来が希望なく黒く染まりそうで、守られるだけの弱いΩになる自分と重なった。
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