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時戻り前の世界
9.運命にはさせない side カーティス
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王宮のサロンに遅れてきた宰相閣下と宰相補佐のカーティスが、入室する前に何事が起きたのかと従者に確認を取っていた。
「サフィラ殿下の温室で、皇太子殿下が会う約束をしていたと言うのか?」
「侍女の話だと……誰かと会う約束をしていると言って、サフィラ殿下は護衛を待たずに走り出したらしいです」
「閣下──あの護衛騎士……何者でしょうね。王家の影、でしょうか? 只者ではないのでしょう。裏でサフィラ殿下に接触したのかも知れません」
「──不味いな。陛下とアレク殿下達は、サフィラ殿下の事となると見境なくなる。良い意味でも悪い意味でも」
はああ。と宰相閣下はため息をついた。
「スノーリルの宝石ですからね。サフィラ殿下がいれば、この先不治の病にも薬を作ってくださるかも知れない。魔導具も、もっと便利な物を考えて下さるでしょう。万が一にでも帝国に連れて行かれてはたまりません」
カーティスは、苦々しく言葉を発した。
「その件は軽々しく話すな。ザイン……どこで聞かれているか分からない。陛下が簡単にサフィラ殿下を手放すはずがない。心配なのは……殿下のバース性だ」
「α……かもしくは、βであって欲しいものですね」
皆、分かっているのだ。αの国王陛下とΩの皇后陛下の間にβは産まれない。
双子の兄殿下達の成長ぶりは、αで間違いない。小さく華奢なサフィラ殿下は、皇后陛下にそっくりだった。
宝石と呼ばれる位に、希少で美しい存在。
「あれだけの才能が、Ωだとしたら隣国の王族から求婚されかねません。何よりも帝国の手に渡す訳には。接触させない方がいいと何度も申し上げたのに。陛下は、アベリア帝国の皇帝と友人だとか……」
カーティスは、帝国特使たちの対応を任されていたため、皇太子の方は把握が足りなかったと後悔をする。サフィラ殿下はまだ八歳だ。皇太子のことは、王宮薬師やアカデミーの教授といった大人に、対応させれば何の問題もない、そう思っていたのだ。
子供同士を仲良くさせて、これからも友好関係を維持したいという、陛下のその気持ちも分からなくはない。
それに帝国も、サフィラ殿下のことを子供だと思って、気にもしないと思っていたのに。
「陛下は、サフィラ殿下にもっと自信をつけさせたいのだ。アレク殿下たちに引けを取らない、素晴らしい存在だと。だが目立たせるべきではないと、言った傍からこんなことになるとは。我々としては、国内の貴族に降下されるのが一番いいのだが……」
帝国の皇太子は、αで間違いない。厄介過ぎて笑いそうになる。
(なぜ、なぜ出会ってしまうんだ。運命なんて言わせる気か……)
私もαなのに。アカデミーで首席だった過去があったとしても、才能で宰相補佐になれても。亡国の異国民である以上……なんの力も後ろ盾もないのだ。
(これ以上帝国には、奪わせない)
「あまり、関わらせないようにしましょう。サフィラ殿下はこの国に必要な存在なのですから」
「そうだな。アカデミーの教授に、皇太子のことを任せれば問題ないだろう」
お互いに頷き、宰相閣下とサロンの中へと挨拶に行く。
双子の間に座る天使の様な存在。向かい合うように座っているアべリアの皇太子殿下。
その後ろにいる影のような護衛騎士とカーティスは目が合った。
「カーティス先生」
サフィラに名前を呼ばれて視線をむけると、嬉しそうに笑っていてカーティスは、毒気を抜かれてしまう。
「サフィラ殿下。自習ばかりですみませんでした。明日からは、いつも通りにしましょう。宰相閣下からも許可を頂きましたよ」
「はい」
サフィラが、チラリと皇太子の方を見た。
「スノーリル国王陛下」
「皇太子殿下?どうかしましたか?」
「サフィラ殿が、勉強をしている所を見学してもいいだろうか?」
カーティスは無表情のまま、爪が食い込む程に拳を握りしめた。
「サフィラ殿下の温室で、皇太子殿下が会う約束をしていたと言うのか?」
「侍女の話だと……誰かと会う約束をしていると言って、サフィラ殿下は護衛を待たずに走り出したらしいです」
「閣下──あの護衛騎士……何者でしょうね。王家の影、でしょうか? 只者ではないのでしょう。裏でサフィラ殿下に接触したのかも知れません」
「──不味いな。陛下とアレク殿下達は、サフィラ殿下の事となると見境なくなる。良い意味でも悪い意味でも」
はああ。と宰相閣下はため息をついた。
「スノーリルの宝石ですからね。サフィラ殿下がいれば、この先不治の病にも薬を作ってくださるかも知れない。魔導具も、もっと便利な物を考えて下さるでしょう。万が一にでも帝国に連れて行かれてはたまりません」
カーティスは、苦々しく言葉を発した。
「その件は軽々しく話すな。ザイン……どこで聞かれているか分からない。陛下が簡単にサフィラ殿下を手放すはずがない。心配なのは……殿下のバース性だ」
「α……かもしくは、βであって欲しいものですね」
皆、分かっているのだ。αの国王陛下とΩの皇后陛下の間にβは産まれない。
双子の兄殿下達の成長ぶりは、αで間違いない。小さく華奢なサフィラ殿下は、皇后陛下にそっくりだった。
宝石と呼ばれる位に、希少で美しい存在。
「あれだけの才能が、Ωだとしたら隣国の王族から求婚されかねません。何よりも帝国の手に渡す訳には。接触させない方がいいと何度も申し上げたのに。陛下は、アベリア帝国の皇帝と友人だとか……」
カーティスは、帝国特使たちの対応を任されていたため、皇太子の方は把握が足りなかったと後悔をする。サフィラ殿下はまだ八歳だ。皇太子のことは、王宮薬師やアカデミーの教授といった大人に、対応させれば何の問題もない、そう思っていたのだ。
子供同士を仲良くさせて、これからも友好関係を維持したいという、陛下のその気持ちも分からなくはない。
それに帝国も、サフィラ殿下のことを子供だと思って、気にもしないと思っていたのに。
「陛下は、サフィラ殿下にもっと自信をつけさせたいのだ。アレク殿下たちに引けを取らない、素晴らしい存在だと。だが目立たせるべきではないと、言った傍からこんなことになるとは。我々としては、国内の貴族に降下されるのが一番いいのだが……」
帝国の皇太子は、αで間違いない。厄介過ぎて笑いそうになる。
(なぜ、なぜ出会ってしまうんだ。運命なんて言わせる気か……)
私もαなのに。アカデミーで首席だった過去があったとしても、才能で宰相補佐になれても。亡国の異国民である以上……なんの力も後ろ盾もないのだ。
(これ以上帝国には、奪わせない)
「あまり、関わらせないようにしましょう。サフィラ殿下はこの国に必要な存在なのですから」
「そうだな。アカデミーの教授に、皇太子のことを任せれば問題ないだろう」
お互いに頷き、宰相閣下とサロンの中へと挨拶に行く。
双子の間に座る天使の様な存在。向かい合うように座っているアべリアの皇太子殿下。
その後ろにいる影のような護衛騎士とカーティスは目が合った。
「カーティス先生」
サフィラに名前を呼ばれて視線をむけると、嬉しそうに笑っていてカーティスは、毒気を抜かれてしまう。
「サフィラ殿下。自習ばかりですみませんでした。明日からは、いつも通りにしましょう。宰相閣下からも許可を頂きましたよ」
「はい」
サフィラが、チラリと皇太子の方を見た。
「スノーリル国王陛下」
「皇太子殿下?どうかしましたか?」
「サフィラ殿が、勉強をしている所を見学してもいいだろうか?」
カーティスは無表情のまま、爪が食い込む程に拳を握りしめた。
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