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時戻り前の世界
8.待って
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認証文字はまだ変えていなかったので、扉は壊す必要はなかった。
──なかったのだ。
「──エリオス・アベリア皇太子殿下。どうしてここに……いらっしゃるのでしょうか?」
皇后譲りのレオンの双眸からは、普段は考えられないような青の眼光が冷たくエリオスに向けられている。
温室なのになぜか気温が下がった気がした。
「レオン落ち着きなさい。決闘を挑む時は手袋を投げるのが礼儀」
アレクが、手袋に手をかけた。
「待ちなさい。アレク、レオン。とりあえず、ゆっくりお茶でも飲みながら理由をお聞きしましょう」
帯剣して双子の後ろに立っているのは、スノーリル王国の国王陛下だ。お茶の誘いなのに、目は全く笑っていないと思った。
それに、その声は恐ろしく低音だった。
国王の後ろに騎士団まで揃っていた。アベリア帝国の騎士団も何事かと押し掛けて来たので温室の前は、人だかりになっている。
皇太子殿下が中にいるらしい……そんな話も聞こえてきた。この異様な雰囲気にさらに「アベリア帝国の特使が来られました」そんな知らせもサフィラの耳に届く。人波を掻き分けて温室内を覗き見ている人が特使かもしれない。
皇太子殿下の手が、サフィラ腕を掴み支えてくれているだけなのに、驚きすぎて涙が止まらない。
なんとなくサフィラは思う。
もしかして、このまま泣いてたら、虐められているようにしか見えないんじゃ……?
ざわざわとしている中で、時々誰かの声がする。
「サフィラ殿下を泣かしたのは、アベリアの皇太子殿下なのか?」
「特使が来ているのに何で止めないんだ」
このままじゃ不味い……サフィラは慌てて、声をあげる。
「な、なんでもありません!」
この中で多分一番小さい。大きな声なんて出したことなんてない。とにかく必死に説明をする。
「温室で会う、や、約束をしていたのです。ちゃんとご挨拶をと膝をついたら止められて。僕の魔導具が反応してしまいました。そ、それで……何やら大事になってしまいました」
最後の方は、自信が無くなってきて声が小さくなってしまう。
「かわいい……」
誰かがまた呟いた。
アレクとレオンがその声の主を探そうとしているのか、すごい勢いで振り返る。
国王陛下が、ゆっくりと歩きサフィラの前で膝を突いた。
「サフィラから手を離していただいてもいいでしょうか?エリオス・アベリア皇太子殿下」
エリオスの顔が真っ青になっていた。どこか具合でも悪くなったのか心配になり、声をかけようとしたら、手が離れた。サフィラの手首が赤くなっている。
「あ。ごめん……」
エリオスに謝られて、サフィラは首をふる。
「僕もごめんなさい」
サフィラに視線を合わせた国王陛下が優しく微笑んだ。
「おいで、サフィラ。立ち話では疲れるだろう?皇太子殿下も顔色が悪いようですね。移動してお茶を用意しますが、無理にお付き合いされなくてもいいですので、殿下の判断におまかせしましょう」
サフィラに対しての優しい声掛けと皇太子殿下に話しかける温度差を感じ、気が気じゃない。怒っているのかと不安になってしまう。
「あの父様……、陛下お願いです。少し待って下さい。調べたいことがあって、薬剤を取りに来たのです」
「うん。いいよ。すぐにとっておいで」
「俺も手伝うよ」
レオンが、すぐにサフィラの後をついて来てくれる。
レオンが薬草入りの籠を抱え、もう片方の手はサフィラの手を繋いでくれている。皆そのまま待っていて、近付いたサフィラを国王陛下が抱きかかえる。そして、陛下が皆について来るようにと合図をする。
騎士団も、直属の護衛以外は持ち場へと戻ったようだ。
少しほっとして特使とエリオスの顔を見ると、顔色が悪いまま護衛に囲まれてのろのろとついて来ている。
(二人とも具合悪いのかな?)
ふと、そばいたライナをみると、こちらの視線に気がついたのか口角をあげた。
『興味深いな……毒草を調剤するんだ』
風魔法か何かで、そんな言葉を乗せて話しかけられた。
レオンの抱えている籠の中身には、普通の鎮痛剤に効果のある薬草も混ぜている。
それなのにライナには毒草入がバレている。危険人物として警戒されても、それでもサフィラは、あきらめきれない。
毒の組み合わせで、他の毒の解毒薬を作ることが出来る。症状を教えて欲しい。ライナなら分かってくれるかもと、少しだけサフィラは期待した。
──なかったのだ。
「──エリオス・アベリア皇太子殿下。どうしてここに……いらっしゃるのでしょうか?」
皇后譲りのレオンの双眸からは、普段は考えられないような青の眼光が冷たくエリオスに向けられている。
温室なのになぜか気温が下がった気がした。
「レオン落ち着きなさい。決闘を挑む時は手袋を投げるのが礼儀」
アレクが、手袋に手をかけた。
「待ちなさい。アレク、レオン。とりあえず、ゆっくりお茶でも飲みながら理由をお聞きしましょう」
帯剣して双子の後ろに立っているのは、スノーリル王国の国王陛下だ。お茶の誘いなのに、目は全く笑っていないと思った。
それに、その声は恐ろしく低音だった。
国王の後ろに騎士団まで揃っていた。アベリア帝国の騎士団も何事かと押し掛けて来たので温室の前は、人だかりになっている。
皇太子殿下が中にいるらしい……そんな話も聞こえてきた。この異様な雰囲気にさらに「アベリア帝国の特使が来られました」そんな知らせもサフィラの耳に届く。人波を掻き分けて温室内を覗き見ている人が特使かもしれない。
皇太子殿下の手が、サフィラ腕を掴み支えてくれているだけなのに、驚きすぎて涙が止まらない。
なんとなくサフィラは思う。
もしかして、このまま泣いてたら、虐められているようにしか見えないんじゃ……?
ざわざわとしている中で、時々誰かの声がする。
「サフィラ殿下を泣かしたのは、アベリアの皇太子殿下なのか?」
「特使が来ているのに何で止めないんだ」
このままじゃ不味い……サフィラは慌てて、声をあげる。
「な、なんでもありません!」
この中で多分一番小さい。大きな声なんて出したことなんてない。とにかく必死に説明をする。
「温室で会う、や、約束をしていたのです。ちゃんとご挨拶をと膝をついたら止められて。僕の魔導具が反応してしまいました。そ、それで……何やら大事になってしまいました」
最後の方は、自信が無くなってきて声が小さくなってしまう。
「かわいい……」
誰かがまた呟いた。
アレクとレオンがその声の主を探そうとしているのか、すごい勢いで振り返る。
国王陛下が、ゆっくりと歩きサフィラの前で膝を突いた。
「サフィラから手を離していただいてもいいでしょうか?エリオス・アベリア皇太子殿下」
エリオスの顔が真っ青になっていた。どこか具合でも悪くなったのか心配になり、声をかけようとしたら、手が離れた。サフィラの手首が赤くなっている。
「あ。ごめん……」
エリオスに謝られて、サフィラは首をふる。
「僕もごめんなさい」
サフィラに視線を合わせた国王陛下が優しく微笑んだ。
「おいで、サフィラ。立ち話では疲れるだろう?皇太子殿下も顔色が悪いようですね。移動してお茶を用意しますが、無理にお付き合いされなくてもいいですので、殿下の判断におまかせしましょう」
サフィラに対しての優しい声掛けと皇太子殿下に話しかける温度差を感じ、気が気じゃない。怒っているのかと不安になってしまう。
「あの父様……、陛下お願いです。少し待って下さい。調べたいことがあって、薬剤を取りに来たのです」
「うん。いいよ。すぐにとっておいで」
「俺も手伝うよ」
レオンが、すぐにサフィラの後をついて来てくれる。
レオンが薬草入りの籠を抱え、もう片方の手はサフィラの手を繋いでくれている。皆そのまま待っていて、近付いたサフィラを国王陛下が抱きかかえる。そして、陛下が皆について来るようにと合図をする。
騎士団も、直属の護衛以外は持ち場へと戻ったようだ。
少しほっとして特使とエリオスの顔を見ると、顔色が悪いまま護衛に囲まれてのろのろとついて来ている。
(二人とも具合悪いのかな?)
ふと、そばいたライナをみると、こちらの視線に気がついたのか口角をあげた。
『興味深いな……毒草を調剤するんだ』
風魔法か何かで、そんな言葉を乗せて話しかけられた。
レオンの抱えている籠の中身には、普通の鎮痛剤に効果のある薬草も混ぜている。
それなのにライナには毒草入がバレている。危険人物として警戒されても、それでもサフィラは、あきらめきれない。
毒の組み合わせで、他の毒の解毒薬を作ることが出来る。症状を教えて欲しい。ライナなら分かってくれるかもと、少しだけサフィラは期待した。
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