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時戻り前の世界
5.サフィラの温室
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帝国の皇太子が来て三日ほど経っていた。
一向に呼ばれる気配がないサフィラは、勉強部屋でカーティスからの課題を終わらせた。一応歴史書も読んでみたが、全然頭に入らない。
机に突っ伏してどんよりとしてしまう。
「本当に、やだ。戦争とかどうしてするんだろう?」
のろのろと、顔を上げて壁一面の本をみた。薬剤学。魔法学。魔導具の手引き書。最近では古語の文献も数が増えている。偏っているとは、サフィラ自体も思っている。それでも人助けに、役に立つ方がいい。
いまは本だけでは無く、アカデミーの薬学や調剤の研究論文まで、取り寄せてもらうようになった。カゴの中には、報告書がたくさん積んである。
調剤の研究は、治療方法が確率していないものだらけ。だから効果が出るか試している途中の報告書は、サフィラにとっても宝の山である。新しい発見があるかも知れないと期待してしまう。どんなアプローチで治療をするか、そのヒントがつまっている。
サフィラは、パラパラと捲りながら、皇太子殿下のことを考えていた。
「やっぱり、会わせて貰えないのかな?」
サフィラは、王立図書館の薬剤の本は暗記してしまっている。その中にない未知の病気だったら大変だ。
「お会いして、何時から症状が出始めたのかとか……聞けたらいいのに」
そもそも、帝国だって優秀な薬師達がいるはずだ。皇太子が危険を冒してまで来る必要があるのは、なんでだろう?
そんなに重い病気なのだろうか?
帝国で治療を続けられない理由……?
「もしかして……毒?」
思わず口に手を当てて塞いでみた。
(こんなこと簡単に言っちゃっだめだ)
思わず首を振った。だが、一度疑ってしまうと気になってしまう。毒……後遺症? 完全に抜けきれていないとか?
「あれを使ってあの量で……うーん。試したい」
(どうしよう、僕の温室に行ってこようかな?)
となりの乾燥室のアレも解毒効果が高い貴重なもの。それを何種類か持ってきて、調合室で試したくて落ち着かない。
そのうちお披露目のような催し物があるはず。さすがに会話くらいは、出来る機会あるだろう。それでも心配過ぎて、待ちきれない気持ちになっていく。
呼び鈴を鳴らすと、侍女が顔を覗かせた。
「僕の温室まで行ってくるから。兄様達が来たらそう言ってくれる?」
「サフィラ殿下、お一人で行かれるのですか? 誰かをつけましょう。動ける者をつけます」
一人で考えたいのだ。解毒薬の調合を試すとか、知られるべきじゃない。だからサフィラは、仕方なく嘘をついた。
「大丈夫待ち合わせしてるから」
慌てて走り出す。慣れた場所に行くだけだから。ちゃんと温室の鍵も持っているし、魔導具も身に付けてきた。これは防犯用だ。
皆、皇太子殿下の護衛や警備で忙しい。自習時間が終わる頃に、サフィラの護衛も誰か交代でつくはずだった。けれど陛下の言葉で期待をし過ぎたのだ。
(もしかして、Ωのせいとか……)
きっと皇太子殿下はαで、Ωかも知れない貧弱なサフィラを、嫌がった可能性も否定できない。王族なら、きっとΩの王子なんて会いたくないと思う。
(王子は、αが普通みたいだから)
──きっと、サフィラは避けられているのだろう。
「本当に症状が、分かればいいのに」
温室のドアに鍵を差し込むと、何か物足りない感覚だった。サフィラ専用の温室は、サフィラがいないと入れない鍵魔法具の設定だ。
「鍵? かかってなかった? そんなはずは……だとしても中に入ることは出来ないよね?」
サフィラは、モヤモヤしながら扉を閉めると自動で施錠がかかる。
ガタン……何か物音がした。
奥には乾燥室があって、ドライフラワーのように天井からぶら下げたり、種類別に小分けした薬草や希少な物もある。
そこから音が聞こえたような気がしてならない。
「──誰?」
思わず言ってしまった時、茶色の髪色の青年が突然現れた。
一向に呼ばれる気配がないサフィラは、勉強部屋でカーティスからの課題を終わらせた。一応歴史書も読んでみたが、全然頭に入らない。
机に突っ伏してどんよりとしてしまう。
「本当に、やだ。戦争とかどうしてするんだろう?」
のろのろと、顔を上げて壁一面の本をみた。薬剤学。魔法学。魔導具の手引き書。最近では古語の文献も数が増えている。偏っているとは、サフィラ自体も思っている。それでも人助けに、役に立つ方がいい。
いまは本だけでは無く、アカデミーの薬学や調剤の研究論文まで、取り寄せてもらうようになった。カゴの中には、報告書がたくさん積んである。
調剤の研究は、治療方法が確率していないものだらけ。だから効果が出るか試している途中の報告書は、サフィラにとっても宝の山である。新しい発見があるかも知れないと期待してしまう。どんなアプローチで治療をするか、そのヒントがつまっている。
サフィラは、パラパラと捲りながら、皇太子殿下のことを考えていた。
「やっぱり、会わせて貰えないのかな?」
サフィラは、王立図書館の薬剤の本は暗記してしまっている。その中にない未知の病気だったら大変だ。
「お会いして、何時から症状が出始めたのかとか……聞けたらいいのに」
そもそも、帝国だって優秀な薬師達がいるはずだ。皇太子が危険を冒してまで来る必要があるのは、なんでだろう?
そんなに重い病気なのだろうか?
帝国で治療を続けられない理由……?
「もしかして……毒?」
思わず口に手を当てて塞いでみた。
(こんなこと簡単に言っちゃっだめだ)
思わず首を振った。だが、一度疑ってしまうと気になってしまう。毒……後遺症? 完全に抜けきれていないとか?
「あれを使ってあの量で……うーん。試したい」
(どうしよう、僕の温室に行ってこようかな?)
となりの乾燥室のアレも解毒効果が高い貴重なもの。それを何種類か持ってきて、調合室で試したくて落ち着かない。
そのうちお披露目のような催し物があるはず。さすがに会話くらいは、出来る機会あるだろう。それでも心配過ぎて、待ちきれない気持ちになっていく。
呼び鈴を鳴らすと、侍女が顔を覗かせた。
「僕の温室まで行ってくるから。兄様達が来たらそう言ってくれる?」
「サフィラ殿下、お一人で行かれるのですか? 誰かをつけましょう。動ける者をつけます」
一人で考えたいのだ。解毒薬の調合を試すとか、知られるべきじゃない。だからサフィラは、仕方なく嘘をついた。
「大丈夫待ち合わせしてるから」
慌てて走り出す。慣れた場所に行くだけだから。ちゃんと温室の鍵も持っているし、魔導具も身に付けてきた。これは防犯用だ。
皆、皇太子殿下の護衛や警備で忙しい。自習時間が終わる頃に、サフィラの護衛も誰か交代でつくはずだった。けれど陛下の言葉で期待をし過ぎたのだ。
(もしかして、Ωのせいとか……)
きっと皇太子殿下はαで、Ωかも知れない貧弱なサフィラを、嫌がった可能性も否定できない。王族なら、きっとΩの王子なんて会いたくないと思う。
(王子は、αが普通みたいだから)
──きっと、サフィラは避けられているのだろう。
「本当に症状が、分かればいいのに」
温室のドアに鍵を差し込むと、何か物足りない感覚だった。サフィラ専用の温室は、サフィラがいないと入れない鍵魔法具の設定だ。
「鍵? かかってなかった? そんなはずは……だとしても中に入ることは出来ないよね?」
サフィラは、モヤモヤしながら扉を閉めると自動で施錠がかかる。
ガタン……何か物音がした。
奥には乾燥室があって、ドライフラワーのように天井からぶら下げたり、種類別に小分けした薬草や希少な物もある。
そこから音が聞こえたような気がしてならない。
「──誰?」
思わず言ってしまった時、茶色の髪色の青年が突然現れた。
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