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時戻り前の世界
3.宰相補佐 sideカーティス
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カーティスは、宰相閣下の元へと急いだ。
(腹立たしい)
今回、スノーリル王国に来るのは貴賓中の貴賓。
エリオス・アベリア皇太子──アベリア帝国の未来の皇帝になる可能性のある少年だ。
「帝国の皇帝一家……か」
思わずカーティスは拳に力が入る。気にするな、向こうはこちらの事など虫けら程度にしか思っていないだろう。いや、ホコリ程度かも知れない。そんなことを自嘲気味に思う。冷静にしなければいけない。今は過去のことなど忘れるのだ。表情を読み取られ、弱みを握られてはいけない。
カーティスは、呪文のように自身に言い聞かせていく。
宰相閣下の執務室の前には通常護衛が二人ほど立っているのだが、今日はさらに二人多い。
護衛騎士の衣装が違うため、帝国の騎士団がすでに到着していたのかと納得した。
だから、サフィラ様との時間を奪われたのか。
予定より早い到着に、さらにイラっとしてしまう。だがそんな素振りを絶対に見せてはいけない。落ち着いた振りをしてゆっくりと口を開いた。
「宰相閣下に……ザイン・カーティスが来たとお伝え下さい」
護衛は、カーティスを見ると頷いて重厚な扉をノックした。中から従者の声がして、護衛といくつかのやり取りがあり重そうな扉がゆっくりと開く。
「どうぞこちらへ。カーティス様、閣下もお待ちかねです」
閣下の執務室へ向かうと、まず目に入ったのは……茶色の髪の細身の青年。いや、少年かも知れない。ソファの脇に立っているだけで、目を引く存在だった。従者か護衛か……魔法師か。若くも見えるが飄々としていて、なぜか違和感がある。魔力を隠すことなく見せているのは、こちらに対する牽制だろうか?
他の三人の護衛は、もっと後ろに立っていた。
アベリアブルーと呼ばれる濃紺の髪と瞳が皇帝一家の血筋の証だ。まだ、十歳くらいのはずだ。その髪色の少年の隣の席にいたのは、今回の特使のようだ。
三十代だろうか? 文官のようだが、護衛としても優秀に違いないとカーティスはじっと見てしまった。皇太子を守る者たちなら、相当な腕に違いない隙を見せない様にと、心がけたところで声がかかった。
「カーティス?」
宰相閣下に呼ばれて、我に返った。
「大変遅くなって申し訳ありません」
その言葉に反応したのは、皇太子の隣にいた特使だ。
「いえいえ。予定よりかなり早い行程でこちらに来ましたので、我々の都合で大変申し訳ありません。貴方が宰相補佐のカーティス殿ですか? 優秀な方だと、噂はかねがね聞いております」
帝国の使者の言葉に何の噂か?と内心ドキリとしながら、にこやかにカーティスは挨拶を返した。
「私ごときが恐れ多いことです」
「アカデミーの在学中、首席で居続けた天才だと。貴方と同期だった部下から聞いております。αだからと言って簡単に出来ることではありません」
アベリア帝国の出身だと息巻いていた一人の青年がいたなと、朧気に思い出した。あのレベルで、スノーリル王国のアカデミーに入れるのかと内心がっかりしたのだ。所詮、外交上の特別枠だったのだろう。
帝国の留学枠は、無くしてもいいのかもしれない。そんな考えさえ過ぎったくらいだ。実際彼は勉強について行くのがギリギリで、ランクを下げれば良かったのにと同情した。
スノーリル王国のアカデミーは、大陸最高の研究機関でもある。王国内にはランクを下げた、別の研究機関がもちろんある。βの為にも知識をと言うのが王家の考え方だからだ。知識は、彼らの生活を助けるからと陛下は言っていた。
それでも、思うのだ。真の天才は別にいる。しかもαじゃないかも知れない。
深緑の双眸が天使のような少年の笑顔が、カーティスの脳裏に浮かんだ。
(腹立たしい)
今回、スノーリル王国に来るのは貴賓中の貴賓。
エリオス・アベリア皇太子──アベリア帝国の未来の皇帝になる可能性のある少年だ。
「帝国の皇帝一家……か」
思わずカーティスは拳に力が入る。気にするな、向こうはこちらの事など虫けら程度にしか思っていないだろう。いや、ホコリ程度かも知れない。そんなことを自嘲気味に思う。冷静にしなければいけない。今は過去のことなど忘れるのだ。表情を読み取られ、弱みを握られてはいけない。
カーティスは、呪文のように自身に言い聞かせていく。
宰相閣下の執務室の前には通常護衛が二人ほど立っているのだが、今日はさらに二人多い。
護衛騎士の衣装が違うため、帝国の騎士団がすでに到着していたのかと納得した。
だから、サフィラ様との時間を奪われたのか。
予定より早い到着に、さらにイラっとしてしまう。だがそんな素振りを絶対に見せてはいけない。落ち着いた振りをしてゆっくりと口を開いた。
「宰相閣下に……ザイン・カーティスが来たとお伝え下さい」
護衛は、カーティスを見ると頷いて重厚な扉をノックした。中から従者の声がして、護衛といくつかのやり取りがあり重そうな扉がゆっくりと開く。
「どうぞこちらへ。カーティス様、閣下もお待ちかねです」
閣下の執務室へ向かうと、まず目に入ったのは……茶色の髪の細身の青年。いや、少年かも知れない。ソファの脇に立っているだけで、目を引く存在だった。従者か護衛か……魔法師か。若くも見えるが飄々としていて、なぜか違和感がある。魔力を隠すことなく見せているのは、こちらに対する牽制だろうか?
他の三人の護衛は、もっと後ろに立っていた。
アベリアブルーと呼ばれる濃紺の髪と瞳が皇帝一家の血筋の証だ。まだ、十歳くらいのはずだ。その髪色の少年の隣の席にいたのは、今回の特使のようだ。
三十代だろうか? 文官のようだが、護衛としても優秀に違いないとカーティスはじっと見てしまった。皇太子を守る者たちなら、相当な腕に違いない隙を見せない様にと、心がけたところで声がかかった。
「カーティス?」
宰相閣下に呼ばれて、我に返った。
「大変遅くなって申し訳ありません」
その言葉に反応したのは、皇太子の隣にいた特使だ。
「いえいえ。予定よりかなり早い行程でこちらに来ましたので、我々の都合で大変申し訳ありません。貴方が宰相補佐のカーティス殿ですか? 優秀な方だと、噂はかねがね聞いております」
帝国の使者の言葉に何の噂か?と内心ドキリとしながら、にこやかにカーティスは挨拶を返した。
「私ごときが恐れ多いことです」
「アカデミーの在学中、首席で居続けた天才だと。貴方と同期だった部下から聞いております。αだからと言って簡単に出来ることではありません」
アベリア帝国の出身だと息巻いていた一人の青年がいたなと、朧気に思い出した。あのレベルで、スノーリル王国のアカデミーに入れるのかと内心がっかりしたのだ。所詮、外交上の特別枠だったのだろう。
帝国の留学枠は、無くしてもいいのかもしれない。そんな考えさえ過ぎったくらいだ。実際彼は勉強について行くのがギリギリで、ランクを下げれば良かったのにと同情した。
スノーリル王国のアカデミーは、大陸最高の研究機関でもある。王国内にはランクを下げた、別の研究機関がもちろんある。βの為にも知識をと言うのが王家の考え方だからだ。知識は、彼らの生活を助けるからと陛下は言っていた。
それでも、思うのだ。真の天才は別にいる。しかもαじゃないかも知れない。
深緑の双眸が天使のような少年の笑顔が、カーティスの脳裏に浮かんだ。
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