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プロローグ
しおりを挟む何が起きているのか分からなかった。
王族を逃がすための秘密の場所から、見ていることしか出来なかった。
両陛下を失い。魔獣のいる魔の森へ送られた兄王子達。
せめて兄王子達を助けようと、護衛騎士と密かに王宮から抜け出した。
「あの方が、サフィラ様以外を選ぶとはどうしても思えません」
「玉璽が押されていた。本物に見えたよ。運命と番になったから、僕とは婚約破棄をしたんだよ。クーデターの起きた国の王子なんて……必要なんてないと思う」
「サフィラ様、だからこそエリオス様に会いに行かなければ。殿下達を助けて魔の森を越えましょう」
騎士は、周りを確認しながら先を進んで行く。
「ごめん。そうだよね。今は早く兄様達を助けるのが先だよね……あ……」
雪が薄らと朱色に染まっていた。
「血?」
恐ろしくて心臓が跳ねた。二つの塊、赤黒く痛々しいものが視界に入って来た。
「嘘だ……」
雪を払い落とし慌てて、顔を確認する。殴られた痕も。切り刻まれた痕も多い。封魔具はそのままだ。捕まっていた時からなんの抵抗も出来なかったのだ──兄様達は。
──間に合わなかった。
ただ開かれた胸元には、魔法痕があった。これが致命傷だ。
「ひど……い」
見覚えがある。魔法には、痕が残る種類の呪いのような物があるが、この場合は見せしめの意味だ。
しかも、この魔法痕は。帝国軍?
「帝国……のだ」
エリオス様……嘘だ。魔の森に侵入したから、確認もせずに兄様達を殺したの?もしかしたら帝国は、クーデターを知っていたのかも知れない。サフィラは混乱し、息を吸うのも苦しくなっていく。
「死にたい……もう、皆の所に逝かせて」
両親も双子の兄達も失った。唯一の拠り所になるはずの婚約者も、すでに番がいるという。泣き叫び、騎士の胸を叩く。
「いやああああああああ!もう死なせてよ!!」
「何言ってるんですか! 陛下も、兄殿下達も、サフィラ様が死ぬことなんて望んでない」
「僕だけ生きてたって仕方がない。僕はΩで……今の僕に何が出来る? 何の力もないんだから」
「──なら、俺を信じてみますか? 陛下や兄殿下を護れるかもしれません」
不思議とその手を取りたくなった。
「【時戻しの魔法】……代償は大きいですが、抗ってみましょう」
そして、サフィラのやり直しが始まったのだ。
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