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2.毒味係に出来ること。
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杖をつく僕は、移動が遅い。
なのに優しく慈しむように側近の方が僕を見て微笑んだ。
「急がなくて大丈夫です。ゆっくり行きましょう」
連れて行かれた部屋は、セシル殿下の部屋だ。胸が苦しい。
なんて、話せばいいのだろう?
殿下の側近らしいその方の後について、入室したのだ。
殿下は、僕が病気で倒れた後に何度かお見舞いに来てくださった。その後直接会う事はなかった。
あの時、会いに来てくれたことは素直に嬉しくて。
でも、足がおかしいと分かった時の恐ろしい不安に心が潰れそうになった気持ちを思い出す。
王宮医を恐れ多くも僕の為に連れてきてくださった。
申し訳ないのと、その結果に絶望して──ただ、ただ泣いた。
泣き過ぎてブサイクな顔だったはずなのに、その涙をハンカチで拭いて……可愛いと言って初めてキスをしてもらったのだ。
「心配しなくていい。側にいて欲しいのは、リオルだけだよ。足は、引きずるかも知れないが杖を使えば大丈夫だ。リハビリを一緒にしよう。
外交は顔を少し見せれば良いし。なんなら、私と外交官とで進めれば良いのだから。食事などの交流の時なら座っていて大丈夫だから。出来ないことばかりじゃないよ。リオル」
頭を優しく撫でてくれるその手が好きだった。
最後に、キスまでお情けでしてもらえた。
僕のファーストキスの相手が貴方で嬉しい。
殿下、卒業パーティーでのダンスのパートナーも出来なくなりました。
一緒にダンスをするの、夢だったんです。
この先、外交の役にも立ちません。
視察の同行も出来ません。
邪魔にしかなりません。
どうか、婚約を白紙にして下さい。
貴方の負担になりたくないのです。
貴方と別れた後に、それでも何度か僕に会おうとしてくださいましたね。
弱い僕は、その手を何度も取りたくなったのです。
毒味係は、ようやく見つけた僕の仕事なんです。
毒味以外にも役に立てるかも知れません。有事の際に貴方の身代わりをさせて下さい。
死体が必要な時は、どうか僕を使って下さい。敵国に首が必要な時はどうぞ僕の首を使って下さい。
身体の小さな僕ではすぐにバレるかも知れません。
ですが、少しは足止めに時間稼ぎにはなるかも知れません。
貴方の為に出来ることは、これしか思い浮かばなかったんです。
ずっと、お会いしたかった。
セシル殿下の綺麗な金髪が視界に入る。涙でボヤけてしまう。
「リオルを残して、皆出てくれ」
僕を案内してくれた側近の方と護衛騎士の方達が部屋を後にした。
青い。綺麗な瞳が僕を見つめてくれてるはずだ。
でも、視界がボヤけて……息も苦しい。
泣いちゃダメだ。
少しだけでも側にいたいから、理由をつけて来たんだ。
死ぬまでの僅かな時間、貴方の側にいたかっただけ。
アレンと婚姻しないで。
せめて、別の人にして。
僕は、こんなに醜くなりました。
殿下が好きだと言ってくれた志の高かった僕は、もういないのです。
殿下が側に来て、抱きしめられた。
思わず、杖を落としてしまう。
拘束から逃れようとして、ふらついた所を抱きかかえられる。
「私の毒味係になるのだろう? ならリオルが毒を持っていないかどうかを調べなければいけない。毒味の後に毒を入れられたら、困るからな」
そんなに、信用がないのですか?
「ど、どうしたら、信用して下さいますか?」
「毎回、私が隅々まで調べる」
そうして、連れて行かれたのは殿下の寝室だった。鍵がかけられて、ベッドの上に優しく寝かされる。
「リオルは、この先ずっと私の側に居るんだ。その為にすべて確認する。拒否は許さない」
そして、唇と唇が重なったのだ。
なのに優しく慈しむように側近の方が僕を見て微笑んだ。
「急がなくて大丈夫です。ゆっくり行きましょう」
連れて行かれた部屋は、セシル殿下の部屋だ。胸が苦しい。
なんて、話せばいいのだろう?
殿下の側近らしいその方の後について、入室したのだ。
殿下は、僕が病気で倒れた後に何度かお見舞いに来てくださった。その後直接会う事はなかった。
あの時、会いに来てくれたことは素直に嬉しくて。
でも、足がおかしいと分かった時の恐ろしい不安に心が潰れそうになった気持ちを思い出す。
王宮医を恐れ多くも僕の為に連れてきてくださった。
申し訳ないのと、その結果に絶望して──ただ、ただ泣いた。
泣き過ぎてブサイクな顔だったはずなのに、その涙をハンカチで拭いて……可愛いと言って初めてキスをしてもらったのだ。
「心配しなくていい。側にいて欲しいのは、リオルだけだよ。足は、引きずるかも知れないが杖を使えば大丈夫だ。リハビリを一緒にしよう。
外交は顔を少し見せれば良いし。なんなら、私と外交官とで進めれば良いのだから。食事などの交流の時なら座っていて大丈夫だから。出来ないことばかりじゃないよ。リオル」
頭を優しく撫でてくれるその手が好きだった。
最後に、キスまでお情けでしてもらえた。
僕のファーストキスの相手が貴方で嬉しい。
殿下、卒業パーティーでのダンスのパートナーも出来なくなりました。
一緒にダンスをするの、夢だったんです。
この先、外交の役にも立ちません。
視察の同行も出来ません。
邪魔にしかなりません。
どうか、婚約を白紙にして下さい。
貴方の負担になりたくないのです。
貴方と別れた後に、それでも何度か僕に会おうとしてくださいましたね。
弱い僕は、その手を何度も取りたくなったのです。
毒味係は、ようやく見つけた僕の仕事なんです。
毒味以外にも役に立てるかも知れません。有事の際に貴方の身代わりをさせて下さい。
死体が必要な時は、どうか僕を使って下さい。敵国に首が必要な時はどうぞ僕の首を使って下さい。
身体の小さな僕ではすぐにバレるかも知れません。
ですが、少しは足止めに時間稼ぎにはなるかも知れません。
貴方の為に出来ることは、これしか思い浮かばなかったんです。
ずっと、お会いしたかった。
セシル殿下の綺麗な金髪が視界に入る。涙でボヤけてしまう。
「リオルを残して、皆出てくれ」
僕を案内してくれた側近の方と護衛騎士の方達が部屋を後にした。
青い。綺麗な瞳が僕を見つめてくれてるはずだ。
でも、視界がボヤけて……息も苦しい。
泣いちゃダメだ。
少しだけでも側にいたいから、理由をつけて来たんだ。
死ぬまでの僅かな時間、貴方の側にいたかっただけ。
アレンと婚姻しないで。
せめて、別の人にして。
僕は、こんなに醜くなりました。
殿下が好きだと言ってくれた志の高かった僕は、もういないのです。
殿下が側に来て、抱きしめられた。
思わず、杖を落としてしまう。
拘束から逃れようとして、ふらついた所を抱きかかえられる。
「私の毒味係になるのだろう? ならリオルが毒を持っていないかどうかを調べなければいけない。毒味の後に毒を入れられたら、困るからな」
そんなに、信用がないのですか?
「ど、どうしたら、信用して下さいますか?」
「毎回、私が隅々まで調べる」
そうして、連れて行かれたのは殿下の寝室だった。鍵がかけられて、ベッドの上に優しく寝かされる。
「リオルは、この先ずっと私の側に居るんだ。その為にすべて確認する。拒否は許さない」
そして、唇と唇が重なったのだ。
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