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77.最後の祈り

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「琥珀……力を使い過ぎじゃ?」
「平気。俺、ライゼ様に認められた神使だよ?」
    そう言って、少しでも大丈夫なのだと伝えるしかない。
 先に降りたジェイドの手を借りながら馬から降りる。

「やはり、琥珀様が本物なのですね」
 エドワード殿下が、嬉々としてそばに寄ってきた。
(そんなんじゃないんだけど)

「だといいのですが……」
    
   ここまで少数精鋭で来たので、移動も早くて良かった。
 カーク様には、神殿での聖女様の警護をお願いして来た。
 呪いを俺がもらったけれど、何か様子がおかしい時は連絡してもらう為だ。

「魔法師長様。結界をお願いします」
    魔法師長は軽く頷づく。そして強固な結界を張ってもらう。これも予定通りだ。

「琥珀……」
「来た」

 赤い目の、綺麗な男の人。こんな瞳の色じゃ無かった。まるで血の色に染ったみたいだ。
防御壁シールド
 檻に近い結界も張ってもらった。エドワード殿下を呪いから守るため。その一言で、魔法師長も協力してくれた。さらに俺が壁を作ったから。簡単には手が出せないはずだ。今からは、二人の問題だから。
    音も遮断する。
 何も聞こえない方が、俺の気持ちが揺るがなくて済むから。
 最期にキスの一つでも甘えたら良かったかな?
 なんて未練がましく、一度だけ振り返った。
 何か、叫んでる……ごめん。
 ジェイド。

 もう、振り返らない。

「ああ、やっと……逢えた。神に愛された……俺の宝物」
「貴方の宝物じゃないです」

「そんなはずないだろ?」
 近付いて来て、頬を撫でられる。氷でも握っていた様な冷たい指が、首元へ降りてシャツの肩のあたりを簡単に割いた。
 防御壁が、透明じゃなかったら良かったのに。視線を感じるけど、振り返らないと決めたんだ。
  既に呪いの模様は、背中側にも伸びている。
「わざわざ、聖女につけた呪いを己に受けるほど……俺の事を考えているくせに」

「彼女の焦りを利用して、楽しかったですか?」
「さあ……ね。でも君は嫉妬してくれたんだ。何もかも俺から奪い、さらに俺まで欲してくれてる。愛してるよ。君が苦痛に歪む姿はきっと美しい」

 恨みから歪んでしまった。彼の為に。

「そう……ですね。愛してくれるのなら、全部終わりにしませんか?」
「は? 終わらせるわけないだろう。俺を全部否定した世界を壊すまで、お前をぼろぼろに壊すまで、俺は何度でも繰り返す。お前の苦しむ顔をずっとみていたいだけだ。まずは、あいつから……殺す」

 視線の先は、きっとジェイドが立っている。
「俺が手に入っても、他に気持ちが行くのですか? 俺だけにして下さい」
 貴方は、俺を殺したいのでしょう?そう思いながら彼の前に立つ。
「お前の苦しむ顔が見たいんだ」
「行かせません。全部終わらせるって決めたから」

「バカみたいに、聖女の呪いを受けて……死にに来たんだろう?  それで、俺が満足して許すとでも?」

 ジェイドが無理やりこちらに来るかもしれない。だから、早く終わらせたいんだ。
「そんなバカな俺に、全部奪われたよね?ライゼ様の加護。それは今でも続いてるよ。いつまでも、俺を想ってくれるんだ。こういうの……寵愛って言うのかな?」

 軽く挑発すると、彼の手に血の色のナイフのような物が出来上がる。歪んで行く表情。
 もう、終わろう。全部受け止めるから。

 ピシリッと亀裂の入る音がした。
 急がないと……
 防御壁シールドが壊れてしまう。
 (さよならジェイド。愛してる)

「コハク!!」
     (ごめんね)
 腕を掴み、血で作り上げたようなナイフを胸に突き刺す。

 彼は嬉しそうに笑った。
 でも、返すよ全部。聖女様から呪いも全て。

 黒い模様が逆流するかのように、彼の方へ向かっていく。
魔法拘束ホルディア
 そう言って彼を抱き寄せた。血のナイフは背中を貫通した。
「やめろ!離せ!離せーーー」
「一緒に終わろう?」
 止まらない出血は、シャツが吸い続ける限界をこえてしまったみたいだ。血溜まりが足元に出来て、だんだんと視界が狭くなって来た。

 まだ、気を失ってはいけない。
 呪いを返した後に浄化をしないと、未練を残したままだと逝けなくなってしまう。

「 ーーー  」
 誰かに呼ばれた。
 気のせいかな?
 ライゼ様。もう少しだけ力を借してください。彼を抱きしめる力も、立っている気力も失われていく。
 最後に浄化の祈りを捧げる。魔力が尽きるまで。





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