【本編完結】 ふたりを結ぶ古書店の魔法

Shizukuru

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76.終わりの始まり

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 聖女様は連れて行かない。体の回復が優先だ。
 馬車の必要がないから、馬で早駆けする事になった。浄化を早くしないといけない。聖女様が遭遇したものが、呪いの原因であり浄化しなければならない相手だからだ。
 それをミカエル様に伝え、聖女様を蝕む呪いを己に引き受けた。
 あの人と一緒に消える身だ。他の誰かが呪われるよりいい。

 エドワード様には、早急に浄化をする必要がある事を伝えた。
 古書店に行って、今までの聖女様の手記を読んで対策を考えたから、試したいと言う事にしたのだ。

 ミカエル様には俺が呪いを受け取った事を内密にするように言っている。必ず呪いの主を浄化する。これは聖女様には出来ない事でライゼ神からの啓示だと伝えた。
 ──大丈夫。俺は死んだりしません。そう言って信じてもらった。多分、ミカエル様には嘘がバレている。いつも表情を変えないミカエル様が、軽くハグをしてくれたのだ。
「──感謝します」
唇を噛み締めて、泣かないように耐える。ハグから離れる時には笑えたと思う。
    大丈夫。彼は一人の命と王国民の命を天秤に計る事ができる人だから。選択を間違ったりはしない。
 たった一人が消えて、王国に平和が来るのなら……誰だってそれを支持する。それだけの事。

 ジェイドにしがみついて、この温もりを最後に感じる事が出来て、俺は幸せだ。
 体を蝕む呪いにより、痛みで悲鳴をあげたくなる。でももう少しの辛抱だから。この温もりだけを感じるように抱きしめる。

 早く辿り着けと思うのに、この手を離す事が辛くて……目の前の景色が歪む。ずっと、好きだよ。この気持ちを伝えたい。ずっと一緒にいれたら良かったのに。
   もう、言わないって決めたんだ。生まれ変わったら……なんて言わない。いっぱい愛してくれて、もう一度会いに来てくれてありがとう。

 俺が消えたら、ここにいる皆が俺を忘れるようにしてもらったんだ。
 欲張ってもう一つ願った。大好きな母さんに、子供が授かりますようにって。
 これで、皆……寂しくならないよね?

「琥珀兄さん」
「──変だよ。いつもはそう呼ばないよね?」
 ジェイドがいなくなる前の会話に似ている。

「そうだね。今日は呼びたくなっただけ」
「どの呼び方でも、ジェイドが呼んでくれるのなら……嬉しいかも。はは」

 だって、俺の存在があるって事だから。
 この物語のエンディングまでもう少しだ。メインキャラとして紹介されていない俺は、モブだから。

 だから、誰の記憶にも残らなくて大丈夫。
 誰も傷つかないでね。
 あの人の哀しみを、受け止める事が出来ますように。

 空気が重く変わってきた。
 魔獣の気配がする。でももうすぐだから、もう……魔獣邪魔者は要らない。
 祈りを込めると、視界から魔獣は消えていなくなる。
 そして、彼の元へようやく辿りついた。
   ほら、終わりの始まりだよ。

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