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69.呪いside聖女

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 神使なんて、この物語に居なかったはずだ。だって登場人物紹介には居なかったのだから。

 だから、浄化の確認に同行したのだ。何か、あの人がミスをしていないか。浄化は完璧じゃなかったのだと、それを私が指摘出来れば良いと思っていた。

 ふと、目に入ったのは洞窟のような窪みだった。何故か気になってしまう。カークの後についていたけれど、彼はその場所には目もくれない。

「カーク様。あの場所……確認してもいいですか?」
「──何も感じませんよ? 何か動物でもいましたか?」

「す、少しだけ……確認させて下さい」
「足元が悪いので気を付けて下さいね」

 頷いて、カークより先にその場所へ向かった。数歩遅れてついてくる彼に、気持ちがイライラとしてしまう。特別に扱って欲しかったのに。皆、あの人の事ばかりだ。

 (許せない。この世界に要らない人なのに!)

「聖女様、待って下さい」
 (私にだって、聖女の力があるはずなんだから)

 こんなに、気になるのは、何かがあるはずだからだ。
 ほら、ここに。

 ──真っ黒な塊があった。私が抱えられそうなダンボールの箱一つくらいの大きさ。

 ほら、残ってた。コレを私が浄化したらいい。

 私にもチートが、起きたらいい。そしたら、きっと皆注目してくれる。
 それに触れるかどうかのギリギリの所まで、手を伸ばした。

 目が合った。

 そんな気がした。
 真っ黒の塊から手のようなものが伸びて来て、手首を掴まれた。

「え?」
 ドンと、圧がかかる。
 思わず後ろを見ると、カーク様がピタリと動きを止めて固まっているみたいだった。
 私以外は、動かない。時間が止まったみたいに感じる。

「カ、カーク……さ」

「お前……力が欲しいの?」
 真っ黒の塊が幼児位の人形の様に変わった。真っ黒だから、顔は分からない。

「あーーー、お前の魔力なんだこれ」

 こんな出来損ないにまで、バカにされるの?
「離して、あんたなんか」

「そっか。は聖女か。魔力たっぷりあるのに……誰かに邪魔されてる。もったいないなぁ」

 誰かに?
「どう言う意味? ねぇ、誰が私を邪魔してるの?」

「──神に愛されてると、勘違いしてるそんな奴近くにいる?」
「いるわよ。本当は、この世界に要らない神使が!」
 顔がないのに、笑った気がした。気味の悪い人形。
「そっか。俺をこんな姿にした原因の奴らがいるのか……。そっか。聖なる力は、聖女のものだ。取り返せば、君は聖女に、俺は元の姿に戻れる」

 ああ、この子も力をあの神使に取られたんだ。

「取り返せる?」
「ああ。もちろん。手伝うから、ここから解放して」
 「どうしたら、いいの?」
 「君の聖なる魔力を少しだけ、俺に分けて」
 掴まれていた手首が、解放された。手の指をからめて、そして額をくっつける。何かが流れてきた。

 「助かったよ。流石聖女様だ」
 初めて感謝された。真っ黒の人形が、普通の人の様に姿を変えた。ただ、瞳が紅く……血の色みたいだ。綺麗な顔だちの子だ。

 「君たちが帰る時に、君を襲ったふりをする。その時にきっと覚醒するよ。聖女様」

 その通りになった。
 皆が見てる。やっと、私の為の世界になったのに。

 神殿の自室に戻って見て気がついた。
 体に黒い痣がある事に。最初は気にならなかったのに。紋様のように身体に描かれて行く。夜中に激痛が走る。痛くて苦しくて……自分ではどうしようも無かった。
    ただ、思いついた言葉は。

 呪い……だった。
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