72 / 81
71.琥珀の記憶
しおりを挟む
ジェイドに体を預けた。
「気持ちいい」
溶けて溶けて一つになった。そんな幸せな時間。
柔らかなお湯、ヒノキの香り。
そばに居る大切な人。この感覚、この気持ちに覚えがある。ずっと守られてきたんだね。
怯えて壊れそうになる心を、優しく包まれて実感してしまう。何よりも大切な人。
風呂から抱き上げられて、脱衣スペースで魔法を使って簡単に乾かして貰う。
程よい疲れのまま全てを、任せて甘えてしまう。
簡易な服を着せられて、ベッドへ運ばれいく。ずっと抱きかかえられていることに少し笑いがでた。
不思議そうなジェイドを見て、また笑うとチュッと唇が触れた。
テーブルにボトルとグラス。フルーツが用意されている。
口を開けるように促されて、ブドウのような実を口に押し込まれた。
「冷たい。甘い」
ジェイドが笑って、また実を薦めて来た。
カプッと口にすると飲み込んだ後に、キスをされた。ジュッと吸われてしまいそうなキスだ。
「──本当に甘い」
妙に明るくしてくれてる気がする。俺の忘れてる記憶。心配してくれてるんだ。
「琥珀?」
「ジェイド……俺は、ジェイドを置いて死んだの?」
ジェイドの顔が、一瞬歪んだ。
「そっか。寂しい思いをさせた?」
何も言わなくても、そうなんだと思う。
出会った時は……口喧嘩ばかりしてたような?
「──思い出した?」
「なんとなく……ね」
あの方から特別な加護もらった。
ジェイドの方を見ると、ちょっと拗ねてるみたいで可愛かった。
そう思っていたら、ジェイドもベッドに上がってきた。
「あの方が、特別を作ったから。巻き込まれた」
ジェイドは壁を背もたれにして、俺を抱えて肩のところに顎を乗せた。
「嫉妬に羨望……憎悪、ひどかった。あんなに傷つけられて」
「それでも、お仕えする事は楽しかったよ」
人は、簡単に悪意に染まっていく。平民の俺が、魔法に目覚めて神官としてお勤めして、加護を頂いた。最初は小さな嫌がらせだった。色んな事を思い出し始めた。
本を隠された位だった。
伝言などは、伝えられず部屋は荒らされ……嫌がらせはエスカレートして行った。
幼馴染のジェイドが何度も庇ってくれたのだ。魔法騎士のくせに……ちょこちょこ顔を出してくれて。本当に優しいよね。
そのうち、身体で男を誑かす魔性だと言われるようになり下賎の者のする事だと噂がたった。
襲われかけて、助けてくれたのもジェイドだった。それを指図した者が、罰せられ数日後命を絶ってしまったのだ。
自分より先に神官になっていた人だった。加護を貰うことを楽しみにしていたらしい。何よりも神官として誇りを持っていたと、教えてもらった。でも彼はもうこの世界から消えてしまった。
彼は魔法陣に何かを描いていたのだ。
後で分かったのは───自らを贄にした事だった。
「琥珀は何も悪い事はしてない」
「でも神に使える身で、ジェイドの手を取ってしまったもの」
襲われた時、抵抗して殴られた。魔法を使わないように口に何かを詰め込まれた。服を裂かれた時に、皮膚も切られた。恐怖に脅え、殺されるのだと覚悟をして。頭に浮かんだのは、ジェイドだった。
あの時、助けてくれたのだ。
ガタガタと震える自分を必死に宥めてくれた。高熱が出ても、誰も信じられず泣いて泣いて、傍にいてと泣き叫んだんだ。
そこから、ジェイドは友ではなくなり、唯一の人になった。彼だけに触れられたかった。彼だけが安心出来る場所で男同士で求め合う事が、神官として禁忌だったとしても、壊れかけた心を救ってくれた最愛の人だ。
「思い出さなくていい所まで、思い出した?」
痛々しく、見つめるそれが意味する所。
「過去だから……大丈夫」
俺が嫌な事まで思い出さないように、あの方が制限したのかな。
「俺は、ずっと愛されてきたんだね」
あの方にも、ジェイドにも。
憎悪の矛先は、俺。
その悪意を消すには、俺が一緒に消えるしか選択肢がなかったんだ。でも魂を残してくれたから、同じように……あの人も消え切れずに存在するのかも知れない。
俺がここに戻ってきたのは、あの人の悪意を終わらせる為?全てを終わらせる為に、また俺達二人を出会わせたのかな?
「ジェイド、終わらせよう」
「──今度は、一人で逝かせない」
それでも、ジェイドだけは生きてて欲しいと思うんだ。
「気持ちいい」
溶けて溶けて一つになった。そんな幸せな時間。
柔らかなお湯、ヒノキの香り。
そばに居る大切な人。この感覚、この気持ちに覚えがある。ずっと守られてきたんだね。
怯えて壊れそうになる心を、優しく包まれて実感してしまう。何よりも大切な人。
風呂から抱き上げられて、脱衣スペースで魔法を使って簡単に乾かして貰う。
程よい疲れのまま全てを、任せて甘えてしまう。
簡易な服を着せられて、ベッドへ運ばれいく。ずっと抱きかかえられていることに少し笑いがでた。
不思議そうなジェイドを見て、また笑うとチュッと唇が触れた。
テーブルにボトルとグラス。フルーツが用意されている。
口を開けるように促されて、ブドウのような実を口に押し込まれた。
「冷たい。甘い」
ジェイドが笑って、また実を薦めて来た。
カプッと口にすると飲み込んだ後に、キスをされた。ジュッと吸われてしまいそうなキスだ。
「──本当に甘い」
妙に明るくしてくれてる気がする。俺の忘れてる記憶。心配してくれてるんだ。
「琥珀?」
「ジェイド……俺は、ジェイドを置いて死んだの?」
ジェイドの顔が、一瞬歪んだ。
「そっか。寂しい思いをさせた?」
何も言わなくても、そうなんだと思う。
出会った時は……口喧嘩ばかりしてたような?
「──思い出した?」
「なんとなく……ね」
あの方から特別な加護もらった。
ジェイドの方を見ると、ちょっと拗ねてるみたいで可愛かった。
そう思っていたら、ジェイドもベッドに上がってきた。
「あの方が、特別を作ったから。巻き込まれた」
ジェイドは壁を背もたれにして、俺を抱えて肩のところに顎を乗せた。
「嫉妬に羨望……憎悪、ひどかった。あんなに傷つけられて」
「それでも、お仕えする事は楽しかったよ」
人は、簡単に悪意に染まっていく。平民の俺が、魔法に目覚めて神官としてお勤めして、加護を頂いた。最初は小さな嫌がらせだった。色んな事を思い出し始めた。
本を隠された位だった。
伝言などは、伝えられず部屋は荒らされ……嫌がらせはエスカレートして行った。
幼馴染のジェイドが何度も庇ってくれたのだ。魔法騎士のくせに……ちょこちょこ顔を出してくれて。本当に優しいよね。
そのうち、身体で男を誑かす魔性だと言われるようになり下賎の者のする事だと噂がたった。
襲われかけて、助けてくれたのもジェイドだった。それを指図した者が、罰せられ数日後命を絶ってしまったのだ。
自分より先に神官になっていた人だった。加護を貰うことを楽しみにしていたらしい。何よりも神官として誇りを持っていたと、教えてもらった。でも彼はもうこの世界から消えてしまった。
彼は魔法陣に何かを描いていたのだ。
後で分かったのは───自らを贄にした事だった。
「琥珀は何も悪い事はしてない」
「でも神に使える身で、ジェイドの手を取ってしまったもの」
襲われた時、抵抗して殴られた。魔法を使わないように口に何かを詰め込まれた。服を裂かれた時に、皮膚も切られた。恐怖に脅え、殺されるのだと覚悟をして。頭に浮かんだのは、ジェイドだった。
あの時、助けてくれたのだ。
ガタガタと震える自分を必死に宥めてくれた。高熱が出ても、誰も信じられず泣いて泣いて、傍にいてと泣き叫んだんだ。
そこから、ジェイドは友ではなくなり、唯一の人になった。彼だけに触れられたかった。彼だけが安心出来る場所で男同士で求め合う事が、神官として禁忌だったとしても、壊れかけた心を救ってくれた最愛の人だ。
「思い出さなくていい所まで、思い出した?」
痛々しく、見つめるそれが意味する所。
「過去だから……大丈夫」
俺が嫌な事まで思い出さないように、あの方が制限したのかな。
「俺は、ずっと愛されてきたんだね」
あの方にも、ジェイドにも。
憎悪の矛先は、俺。
その悪意を消すには、俺が一緒に消えるしか選択肢がなかったんだ。でも魂を残してくれたから、同じように……あの人も消え切れずに存在するのかも知れない。
俺がここに戻ってきたのは、あの人の悪意を終わらせる為?全てを終わらせる為に、また俺達二人を出会わせたのかな?
「ジェイド、終わらせよう」
「──今度は、一人で逝かせない」
それでも、ジェイドだけは生きてて欲しいと思うんだ。
25
お気に入りに追加
833
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる