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65.帰路②
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豪華な馬車にミカエル様と聖女様が乗っている。
ジェイドは、女性が苦手なのだと声をかけるべきか迷っていた。その心配をよそに、俺とジェイドのそばには聖女様は近づいて来なかったのだ。
ミカエル様と魔法師長に話しかけて、こちらには会釈をしただけだった。
「どうしたのかな?」
「琥珀に助けられた事、自覚したんじゃないか?」
行きと同じで、二人で騎乗して護衛の振りをしている。
「確かに手助けはしたけど……少しは魔力が増えてないのかな?」
「琥珀の魔力量の方が増えてるから、枯渇するほど魔力消費したら駄目だよ。循環しても追いつかない。日頃から……したほうがいいかな?」
「え?」
唇をなぞられれば、妙な気分になってしまう。
「認識しにくいって言っても、魔力多い魔法師には見えるんだよね? 人前じゃ困る」
「人前じゃなければいいなら、帰ったら楽しみだ」
そんな事、耳元で囁かれたら本当に困る。
「耳真っ赤だ」
ククッて笑われて、思わず肘鉄をジェイドの腹部に向かって決めた。
「痛ってぇ」
「からかい過ぎ」
「結構痛かったから……治癒して」
「はぁ?」
振り向いた瞬間に唇が重なる。
逃げようとすると更に追いかけられて、深く口内を探られていく。
「ん、んん……」
胸を押すと、やっと呼吸が出来た。
「治癒ありがとう」
ハクハク唇を動かしても、何も言えなくなった。
本当に最近は、積極的に来るから対応に困ってしまう。
「──見られたくないから」
手網を片手で持ち、空いた手で抱き寄せられる。
「ごめん。ちょっと牽制したかっただけ」
「誰に? そんな必要ないと思うけど? 聖女様は、多分見れないよね?」
「もう、しないから。琥珀は気にしなくていいよ。本当にごめん」
聖女様じゃなければ、誰に牽制したいのか? 意味が分からない。他にジェイドを狙ってそうな人は……どこかの貴族令嬢とか? ここに女性騎士はわずかしかいない。割と身分が高いのだろうか?
「琥珀……ごめん」
「もう、いいけど。なんか遊ばれてるみたいで嫌なんだ」
「うん。ごめん」
本当にワンコみたいだ。遠征から帰れるの、皆喜んでいる。だからジェイドも安堵感があって、少し浮かれているのかもしれない。
「本当に、緊急とかじゃないなら。人前は無しだから。約束して欲しい」
人前で溶けた顔見せるなって言うなら、本当勘弁して欲しい。恥ずかしいそれだけだ。
何となく、浄化が終わって皆気が抜けていたんだ。
だから、何の予測もしていなかった。
突然、馬が怯え始め隊列に影響が出た。
「警戒態勢に入れ!」
カーク様、魔法師長が何が起きているのか探索を始めるが引っ掛からないみたいだ。
俺にも全く分からなかった。ただ、怖いそんな感覚。
大きな魔法陣が馬車の下に浮かび上がる。何か……出てくる。大きな魔力の塊。ブワッと鳥肌が立った。
怖い。息が出来ない。
ジェイドが抱き締めてきて、その手にしがみつく。嫌だ。
闇色で巨大な手が馬車を握ると、亀裂が入った。エドワード殿下とカーク様、魔法師長が応戦しているがなんの効果もない。
行かないとと思うのに、この魔力に覚えがあり身体が拒絶してしまうのだ。
それでも聖女様、ミカエル様……を助けないといけない。
ジェイドは俺のそばから離れなかった。怖くて動けないのか、抱きしめられているから動けないのか。強大な魔力に圧倒されてしまう。
亀裂の入った馬車が二つに折れそうになった時、淡く白い光に包まれた聖女様の姿が現れた。ミカエル様は意識がないのか倒れたような状態で光に包まれている。
凛として立ち、手を魔法師長の方へかざすとミカエル様が、瞬時に移動した。
そして、両手を祈る形で合わせると眩く光を放った。
魔法陣も、大きな手の様な形の魔力も全て光と闇が混ざったように霧散した。
聖女様が、覚醒した。そう思わずにはいられなかった。
俺達は、その光景を目の当たりにしたのだ。
ジェイドは、女性が苦手なのだと声をかけるべきか迷っていた。その心配をよそに、俺とジェイドのそばには聖女様は近づいて来なかったのだ。
ミカエル様と魔法師長に話しかけて、こちらには会釈をしただけだった。
「どうしたのかな?」
「琥珀に助けられた事、自覚したんじゃないか?」
行きと同じで、二人で騎乗して護衛の振りをしている。
「確かに手助けはしたけど……少しは魔力が増えてないのかな?」
「琥珀の魔力量の方が増えてるから、枯渇するほど魔力消費したら駄目だよ。循環しても追いつかない。日頃から……したほうがいいかな?」
「え?」
唇をなぞられれば、妙な気分になってしまう。
「認識しにくいって言っても、魔力多い魔法師には見えるんだよね? 人前じゃ困る」
「人前じゃなければいいなら、帰ったら楽しみだ」
そんな事、耳元で囁かれたら本当に困る。
「耳真っ赤だ」
ククッて笑われて、思わず肘鉄をジェイドの腹部に向かって決めた。
「痛ってぇ」
「からかい過ぎ」
「結構痛かったから……治癒して」
「はぁ?」
振り向いた瞬間に唇が重なる。
逃げようとすると更に追いかけられて、深く口内を探られていく。
「ん、んん……」
胸を押すと、やっと呼吸が出来た。
「治癒ありがとう」
ハクハク唇を動かしても、何も言えなくなった。
本当に最近は、積極的に来るから対応に困ってしまう。
「──見られたくないから」
手網を片手で持ち、空いた手で抱き寄せられる。
「ごめん。ちょっと牽制したかっただけ」
「誰に? そんな必要ないと思うけど? 聖女様は、多分見れないよね?」
「もう、しないから。琥珀は気にしなくていいよ。本当にごめん」
聖女様じゃなければ、誰に牽制したいのか? 意味が分からない。他にジェイドを狙ってそうな人は……どこかの貴族令嬢とか? ここに女性騎士はわずかしかいない。割と身分が高いのだろうか?
「琥珀……ごめん」
「もう、いいけど。なんか遊ばれてるみたいで嫌なんだ」
「うん。ごめん」
本当にワンコみたいだ。遠征から帰れるの、皆喜んでいる。だからジェイドも安堵感があって、少し浮かれているのかもしれない。
「本当に、緊急とかじゃないなら。人前は無しだから。約束して欲しい」
人前で溶けた顔見せるなって言うなら、本当勘弁して欲しい。恥ずかしいそれだけだ。
何となく、浄化が終わって皆気が抜けていたんだ。
だから、何の予測もしていなかった。
突然、馬が怯え始め隊列に影響が出た。
「警戒態勢に入れ!」
カーク様、魔法師長が何が起きているのか探索を始めるが引っ掛からないみたいだ。
俺にも全く分からなかった。ただ、怖いそんな感覚。
大きな魔法陣が馬車の下に浮かび上がる。何か……出てくる。大きな魔力の塊。ブワッと鳥肌が立った。
怖い。息が出来ない。
ジェイドが抱き締めてきて、その手にしがみつく。嫌だ。
闇色で巨大な手が馬車を握ると、亀裂が入った。エドワード殿下とカーク様、魔法師長が応戦しているがなんの効果もない。
行かないとと思うのに、この魔力に覚えがあり身体が拒絶してしまうのだ。
それでも聖女様、ミカエル様……を助けないといけない。
ジェイドは俺のそばから離れなかった。怖くて動けないのか、抱きしめられているから動けないのか。強大な魔力に圧倒されてしまう。
亀裂の入った馬車が二つに折れそうになった時、淡く白い光に包まれた聖女様の姿が現れた。ミカエル様は意識がないのか倒れたような状態で光に包まれている。
凛として立ち、手を魔法師長の方へかざすとミカエル様が、瞬時に移動した。
そして、両手を祈る形で合わせると眩く光を放った。
魔法陣も、大きな手の様な形の魔力も全て光と闇が混ざったように霧散した。
聖女様が、覚醒した。そう思わずにはいられなかった。
俺達は、その光景を目の当たりにしたのだ。
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