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60.チート side聖女

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 また、変なモノが出てきた。これをやっつけるのは、私じゃない。

 私は、戦士や騎士ではなく浄化や治癒を担当する聖女なんだから。
 怖い……ちゃんと護ってよね。
 大丈夫、きっとこう言う事がないとチートなんて起きないんだから。

 だって、あの人だって前回怪我をしたのだ。そんな風に考えてたら、エドワード殿下が襲われてしまった。

 嘘。

 治癒を私がしたらいいんじゃない?なのにジェイドの馬は、殿下のそばに行かない。何やってるのかしら? この触手みたいな奴のせいなのか助けに行けないみたい。
 早くどうにかしてよ。

「聖女様。皆を守って下さい。今から俺は殿下を治癒します。ジェイド!殿下を助けるから、皆を守って」
 あの人が声を張り上げて指図してきた。

 何よ。皆を守れって。

「琥珀……無理するな」
 ジェイドの声がした。後ろに居るから良く見えない。一体何をしてるの?

回復しろヒール
 ヒール? なんで、あんたが……そんな事出来るの?

 真っ青だった殿下を支えてる。淡く優しい光が二人を包んで、苦痛に歪む顔が少しづつ和らいで行った。
 片手で手網を掴んで、傷付いた腕の方はぶらんと下がっていた。その手が、手網を掴んだ。

 殿下が何か魔法を唱えると、裂かれた服の間から見える肩に傷は無かった。

 チートだ。
 やっぱり、危機的な事が起きたらチートが起きる。ジェイドに守ってもらうとか、そんなことしなきゃ良かったんだ。

「あっちに行けば……今頃」
 失敗した。私が殿下の所にいたら今頃きっと。覚醒したんだ。
「聖女様? 殿下は無事なので、触手魔獣ローパーを先に倒します」

「ねぇ、降ろして」
「は?」

「私が、祈りを捧げるから降ろして下さい」
「今ここで? 魔法もまともに使えませんよね? 」

「だから、降ろして。みんなを助けるのは、私の役目だから」

「知りませんよ?」
「早くして!」

 馬から降りて、皆の中央で祈りを捧げる。

 ───この世界の聖女は、私。

 私の聖なる魔力で、皆を守る。ほら、目覚めるのよ!

 なのに何も変わらない。おかしい。大体、神使とかいるのが間違ってるのよ。

 思わず、薄目であの人を見た。馬上で殿下の前に座っていた。手を組んで私の方を見ている。

 なんなの? 祈りを捧げているあの人の周りの空気が違う。流れ込むように、私を包む。

 これ……聖属性の魔力? 冬の朝の凛とした冷たい空気が私を包んでその後波紋のように広がっていく。

 どう考えても、私じゃない。魔力の中心にいるだけだ。
 広がる波紋が、怪我をしている人の傷を癒した。変な触手の化け物は霧散してしまう。
 あんなに手こずってたのに?
 何より上空の魔物がそれを嫌がりどこかへ居なくなったのだ。

 大歓声とともに、『聖女様が目覚めた』と誰かが言った。
 違う。魔法師長もミカエルもジェイドも、気付いている。

 殿下の表情は、私を哀れんでさえいるみたいだった。
 神使さえ居なかったら、私が聖女で間違いなかったはずだ。

 居なくなれば、いいのに。

 ───そう、帰せばいいんだ。

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