41 / 81
40.森の浄化へ ③
しおりを挟む
朝から、叫びそうになった。それを我慢した俺を褒めて欲しい。
「琥珀様。おはようございます」
「お、おはよう……」
何時でも出発できる様に着替えた後、食事を済ませた。そして、目的地が現状どういう状況か聞かされた。
空気が淀みこのまま浄化をしなければ、森に魔物が住みつく可能性がある。今なら再生も望めると判断された。
「まだ、魔物の発生は報告されていません」
「だが……その報告を受けてから一月は経過している。魔物がいる可能性はゼロではない」
雲行きが怪しい。
「優先すべきは、神使様だ。俺の護衛は必要ない」
エドワード殿下の言葉に、ジェイドが待ったをかけた。
「殿下は、野営地で待っていてもらえませんか?」
「いや。聖女様の為にも、チートを確認する。ここで待つ気はない」
俺の為ではないと、言って付いて来るのか……。
「なら、俺が殿下を守ります」
皆が俺を守ると言うのなら、殿下を巻き込めばいい。
「その代わり、俺は逃げ足が早いんで付いて来て下さいね」
皆が笑った。何度も繰り返し起きる魔物の発生、そして浄化が必要となる世界。頼るしかない異世界の聖女の力。きっとたくさんの命が、失われているはずだ。皆死にたくないはずだから、絶対に生きる事が最優先だ。
十人ほどのメンバーで馬に乗り先へと進む。今までとは比べ物にならない、スピードだ。
空気が重くなっている。皆は気が付いてる?
おかしい……苦しいはずだ。
「ジェイド、止まって」
「琥珀様?」
「いいから!!早く皆を止めて!!」
「なら、横向きに座って俺に抱きついて下さい」
言われた通り抱きついた。手網を片手に纏め、空いた右手で雷ような光を前に飛ばした。それに反応して、皆一斉に速度を落していく。
「止まれ!」
ジェイドの声が響き、ようやく馬が足を止めた。
「琥珀様? ジェイド、一体何が?」
殿下に声をかけられる。顔色が悪いのに。なぜ気が付かないのだろう。
「ここの空気が、かなり澱んでいます。一度皆さんの周りの空気を浄化させて下さい」
「最初に殿下から、お願いします」
ジェイドの言葉に頷いた。
「騎乗したままで大丈夫です」
馬から降ろしてもらうと、殿下の所に移動して手を取る。水晶に触るイメージで、聖属性の魔力を流していく。
顔色が良くなっている。
「どうですか?」
「すごい……体が楽になってる」
「では、そちらの方」
そう言って皆が、体内に取り込んだものを浄化していく。また吸ってしまえば同じになってしまう。フードに浄化付与し、空気清浄機のようにした。
「移動中は特にフードをした方が楽になります。戦うような場合フードを下げても、口周り近くに布がありますので空気の清浄を保ってくれると思います」
それぞれに感謝されて頭を下げられた。またジェイドの馬の所へ行くと、引き上げられる。
「ジェイドにも浄化するね」
これで大丈夫かな?
えっ──何かの気配を感じる。
「琥珀様?」
「何か──来る」
大型の熊の魔物だ。ジェイドが魔法剣を握り締めたと同じくらいに、エドワード殿下が叫んだ。
「血牙の大熊か!!」
その声に反応して、魔物はエドワード殿下の方に狙いを付けた。尋常じゃない速さだ。
駄目だ、ジェイドの剣の魔法が血牙の大熊を狙えば、殿下まで影響を受けてしまう。
あいつは、血の匂いを好む。
ならジェイドの剣に、手を伸ばして刃に触れる。
「うっ……」
思ったより切れ味がいい。痛い。でもジェイドが、あいつを狙いやすくしないと駄目だ。
「な、何を……琥珀様!!」
馬から飛び降りた。腕を押えて走り出す。血の匂いを風魔法に乗せて、奴を誘き寄せる。一瞬でターンをして、俺に向かって来る。
ジェイドに、伝われ!!
魔法剣から閃光が走る。熊の核が貫かれた。一瞬で散霧して、卵位の紅い石が残った。
「やった……ジェイド。ありがと」
みな黙ってこっちを見てる。
ああ、そうか……浄化しなきゃいけないんだ。
血が止まらないから、急がないと。
祈ったらどうかな?
両手を胸の前に組んで、ただ祈る。
この地を浄化させて下さい。
『浄化』
胸から白銀の光陣が、波紋のように広がって行った。
清浄な空気が残った。
ジェイドが、走ってきたので……嬉しくなって手を伸ばすと抱きしめられる。
「浄化出来た……かな?」
「手当が先です!!」
ごめんね。もう、何も聞こえなかった。
「琥珀様。おはようございます」
「お、おはよう……」
何時でも出発できる様に着替えた後、食事を済ませた。そして、目的地が現状どういう状況か聞かされた。
空気が淀みこのまま浄化をしなければ、森に魔物が住みつく可能性がある。今なら再生も望めると判断された。
「まだ、魔物の発生は報告されていません」
「だが……その報告を受けてから一月は経過している。魔物がいる可能性はゼロではない」
雲行きが怪しい。
「優先すべきは、神使様だ。俺の護衛は必要ない」
エドワード殿下の言葉に、ジェイドが待ったをかけた。
「殿下は、野営地で待っていてもらえませんか?」
「いや。聖女様の為にも、チートを確認する。ここで待つ気はない」
俺の為ではないと、言って付いて来るのか……。
「なら、俺が殿下を守ります」
皆が俺を守ると言うのなら、殿下を巻き込めばいい。
「その代わり、俺は逃げ足が早いんで付いて来て下さいね」
皆が笑った。何度も繰り返し起きる魔物の発生、そして浄化が必要となる世界。頼るしかない異世界の聖女の力。きっとたくさんの命が、失われているはずだ。皆死にたくないはずだから、絶対に生きる事が最優先だ。
十人ほどのメンバーで馬に乗り先へと進む。今までとは比べ物にならない、スピードだ。
空気が重くなっている。皆は気が付いてる?
おかしい……苦しいはずだ。
「ジェイド、止まって」
「琥珀様?」
「いいから!!早く皆を止めて!!」
「なら、横向きに座って俺に抱きついて下さい」
言われた通り抱きついた。手網を片手に纏め、空いた右手で雷ような光を前に飛ばした。それに反応して、皆一斉に速度を落していく。
「止まれ!」
ジェイドの声が響き、ようやく馬が足を止めた。
「琥珀様? ジェイド、一体何が?」
殿下に声をかけられる。顔色が悪いのに。なぜ気が付かないのだろう。
「ここの空気が、かなり澱んでいます。一度皆さんの周りの空気を浄化させて下さい」
「最初に殿下から、お願いします」
ジェイドの言葉に頷いた。
「騎乗したままで大丈夫です」
馬から降ろしてもらうと、殿下の所に移動して手を取る。水晶に触るイメージで、聖属性の魔力を流していく。
顔色が良くなっている。
「どうですか?」
「すごい……体が楽になってる」
「では、そちらの方」
そう言って皆が、体内に取り込んだものを浄化していく。また吸ってしまえば同じになってしまう。フードに浄化付与し、空気清浄機のようにした。
「移動中は特にフードをした方が楽になります。戦うような場合フードを下げても、口周り近くに布がありますので空気の清浄を保ってくれると思います」
それぞれに感謝されて頭を下げられた。またジェイドの馬の所へ行くと、引き上げられる。
「ジェイドにも浄化するね」
これで大丈夫かな?
えっ──何かの気配を感じる。
「琥珀様?」
「何か──来る」
大型の熊の魔物だ。ジェイドが魔法剣を握り締めたと同じくらいに、エドワード殿下が叫んだ。
「血牙の大熊か!!」
その声に反応して、魔物はエドワード殿下の方に狙いを付けた。尋常じゃない速さだ。
駄目だ、ジェイドの剣の魔法が血牙の大熊を狙えば、殿下まで影響を受けてしまう。
あいつは、血の匂いを好む。
ならジェイドの剣に、手を伸ばして刃に触れる。
「うっ……」
思ったより切れ味がいい。痛い。でもジェイドが、あいつを狙いやすくしないと駄目だ。
「な、何を……琥珀様!!」
馬から飛び降りた。腕を押えて走り出す。血の匂いを風魔法に乗せて、奴を誘き寄せる。一瞬でターンをして、俺に向かって来る。
ジェイドに、伝われ!!
魔法剣から閃光が走る。熊の核が貫かれた。一瞬で散霧して、卵位の紅い石が残った。
「やった……ジェイド。ありがと」
みな黙ってこっちを見てる。
ああ、そうか……浄化しなきゃいけないんだ。
血が止まらないから、急がないと。
祈ったらどうかな?
両手を胸の前に組んで、ただ祈る。
この地を浄化させて下さい。
『浄化』
胸から白銀の光陣が、波紋のように広がって行った。
清浄な空気が残った。
ジェイドが、走ってきたので……嬉しくなって手を伸ばすと抱きしめられる。
「浄化出来た……かな?」
「手当が先です!!」
ごめんね。もう、何も聞こえなかった。
30
お気に入りに追加
833
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる