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33.王都の古書店 ②

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 さっきまで単なる壁のように見えていた。そんな事あるのかな?  魔法みたいに急にクリアになった視界。 

 来瀬らいぜ古書店が頭をぎった。来瀬さんの所に、父さん達は俺を探しに来てくれたかな?  もう、忘れられたのかも知れない。ここに来る事を選んだのは俺だから。

 馬車が止まる。
 ジェイドにじっと見つめられた。

「外に出たら、敬語無しにします」
「二人の時はそれで良いって言ってるのにね」

「琥珀様を呼び捨てにするのは、どうしても躊躇ってしまうんです。神使様なので。名前だけは、様付けになるのは許して下さい。二人切りの時は、なるべく敬語を無くしますから。でも平民の多い場所で少しでも危険を減らす為に、今回だけハクと呼びますね」

「ちょっと、不謹慎かもだけど……嬉しいけど」

「っ……」

「ジェイド? どうしたの?」
 軽く咳払いした、ジェイドが手を握った。

「ハク?でいいよ。 変?」
「いいえ。大丈夫です」

 そして、馬車の外へに踏み出した。
 ドアというよりも重厚感がある。立派な入口の扉を開けてもらった。

 きっと魔法で開けてる。軽く引くだけで扉が開いた。

 古書の独特の紙の匂い。 点在する植木鉢から伸びる植物。アンティークぽい、テーブルに椅子。弓型出窓ボウウィンドから差し込む柔らかな光。天井の高さまである書棚。

 ───落ち着く。

「お探しものですか?」
 若い男性が、そばに来た。思わず息を飲む。来瀬さんによく似ている。日本の時より明るい茶色のくせ毛だ。

「──古書店のオーナーですか?」

「祖父の体調が悪いので。仮ですが、今だけオーナーをしています。知識は祖父に負けますが、店内の本の事なら、なんでも聞いて下さいね」

 柔らかい口調。あの時の来瀬さんの姿が重なった。

「この世界以外の事を書いた本は、ありますか? 日記の様なものでも、童話でも。空想でも構いません。それか聖女様の話、記録みたいな物あれば見たいです」

「異世界の話を、探されているのですね」

「はい」

 ジェイドよりは、背が低くて。でも兄のように優しかった。俺の話を笑わずに聞いてくれたのも、来瀬さんだった。

「──あの、名前を教えて下さい」

 あごに手を当てて、少し考えていたオーナーが不思議そうな顔をする。

「私の名前ですか?」
「──はい。知り合いに似ていて、親戚かと思ったので」

 それとなく、不自然にならないように答えた。ジェイドの視線は少し痛い。目立たないようにと言っていたから。あまり印象に残らないようにしないといけない。

 それでも、聞いてみたかった。

 どこかで、誰かに覚えていて欲しいと思うからかも知れない。

「ライゼ神のお名前から、ライをいただいたとか。ライと言います」

「ライさん」

「私も、お名前を聞いても?」

「──ハクです」
「では、ハク様こちらへ」

 案内されて、ついて行くと店内の片隅の書棚の前だった。もちろん、ジェイドもついてきていた。

「ここに……少しだけ、聖女様の童話と。聖女様のいた世界の物語でしょうか。それと記録だと聞いたのですが、実は一冊だけは読めないのです。とても変わった文字なので、辞書があるといいのですが……私には落書きに見えます」

 柔らかく笑う。やっぱり何処かで繋がっているのかもしれない。

「読めるか分かりませんが、見ても良いですか?」

「席について読まれても構いませんし、そこの窓のところに腰掛けてもいいですよ。では、ごゆっくりどうぞ」

 ライさんは俺とジェイドを残して、受付の方へ戻って行った。


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