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20.ジェイド

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 気がつけば、ベッドの上にいた。毎回意識を失い、あろうことかお姫様抱っこなどされてしまう。この部屋にも慣れてきた。天蓋付きのベッドのカーテンに手を伸ばす。

「お姫様抱っことか……男として、嫌すぎる」
 まだ少し頭が痛い。喉の乾きに水が欲しくて目が覚めた。一体どのくらい時間が経ったのだろう。そう思いつつカーテンを指で掴んだ。

 少し開けたカーテンの隙間から光が入ってきた。眩しすぎるのでもしかして、翌日の昼間になっているのだろうか?と不安になった。

 バイトもせず、大学にも行かず、洗濯も家事のような事もしていない。勉強も研究も……出来ない。覚悟して追いかけて来たのだ。もう戻れないかも知れない日常への未練に首を横に振った。

 結が、忘れ去られるのは嫌だ。取り戻したい。今はそれだけでいい。

 そしてもう少しだけ横に引っ張ろうとした時、自分より大きな手が外側からカーテンを掴んだ。

「え?誰?」

「私ですよ。神使様」
 カーテンが半分開くと銀糸の髪が艶やかに輝いた。
 エドワード王子に比べて線が細い印象のミカエル様も自分より身長が高いのだ。思ったより手が大きくて男らしい。自分より体格がいいのだから当たり前だ。ほんの少しだけ悔しいと思ってしまうのは仕方がないと思う。

 それにしても……寝ている時に部屋に入って待たれるのは、琥珀としては落ち着かない。それが護衛だとしてもだ。

「ミカエル様。神使呼びは止めて欲しいのですが……」

 穏やかに笑う彼がはっきりと言った。

「嫌です」
 この人を説得するのは難しい。そう思いながら一応理由を確認する。

「神使なんて大袈裟なので、とても嫌なんです。どうしても駄目ですか?」

「私は神官長補佐ですからね。私が神使様を気安く名で呼べば神使様が軽く見られ兼ねません。殿下やジェイド様なら、名を呼んでくれると思いますよ」

 ジェイドと言った。そこだけは聞き逃さない。

「あの。ミカエル様。ジェイド……様には、今日は会えるでしょうか?」

 少し不思議そうな顔をした、ミカエル様の口元が緩んだ。

「──覚えてないのですね。昨日、神使様を治療室に運んだのはジェイド様です。しばらく神使様から離れなくて、本当に大変でした」

 水晶に手を置いた後に、エドワード殿下に支えられたはずだ。それから、支えが無くなって横抱きにされたんだ。

「嘘。まさか、横抱きにしたのは……エドワード様ではなくて、ジェイド様だったんですか?」

 あの時、目の前が暗くなって視野が狭まくなってきた。意識が途切れる前に顔を薄ら見た様な気もする。

 結──は、俺の事が分からない?ジェイド様と結は別人だったとしたら……

「神使様?」

 ここまで来て、別人とか言わないよね?来瀬らいぜさんが、行っておいでって言ってくれたんだ。大丈夫だ。

「顔色が、どこか具合でも?神使様!」

 弱気になるな。俺が結を間違えたりする訳がないんだ。近くにいるのに会えないからこんなに不安になるだけだ。

「ミカエル様。すみません。大丈夫です」

「そんな、顔をして大丈夫な訳が無いでしょう」
 ミカエル様が、背中を優しくさすってくれる。

「少し水を下さい」
 直ぐに用意されたグラスを受け取り、水をゆっくりと流しこんだ。

「神使様もうすぐ……」

 ノックの音が聞こえると、すぐにミカエル様が許可をした。
 次から次へと、人が来る。しばらく一人にして欲しいのに。

「失礼──琥珀様?一体どう……っておい落ち着けジェイド!」

 ジェイド?

 顔を向けると、深い青色の髪が視界に入って来た。

 弟の色ではないけれど……心配そうな表情は、結そのものだ。
 ベッドの脇まで来て立ち止まる。自分を見つめたまま視線を逸らさない。思わずベッドに座ったままの状態で手を伸ばすと、更に近づいたジェイドに抱きしめられた。

 結。結。結───
 背中に手を回してシャツを掴む。他にも人がいるから泣きたくない。とにかく涙をこらえて歯を食いしばった。二人だけにして欲しい。それだけが願いだった。

「──使。大丈夫ですか?」

 使──その一言に絶望してしまう。

「──
 声に出して名前を呼んだ時、ジェイドが抱きしめてくれていた腕をゆっくりと外した。
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