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19.嫉妬 side聖女

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   必ず欲しい本が見つかると噂の不思議な本屋があった。その本屋の名前は来瀬らいぜ古書店と言った。

 そんな嘘のような話を黒衣くろいひとみは信じていなかったのだ。ある時までは。

 退屈な日常に飽き飽きして、自分に何か特別な事が起きないだろうかと期待した。

 鏡を見れば、自身の顔は美人の類に入るのではないのか?芸能スカウトを良くされると噂される駅に降りてメインストリートを歩いてみた。

 何人かそれらしいスカウトをされた。でも、パッとしない二流、三流の芸能事務所だった。

「つまんない」
 高校でも、割とモテててはいたが相手は平凡な生徒ばかりだ。

「なんで、一流の事務所じゃないの?モテたって平凡な男ばっかり。イケメンって言われてる先輩は平凡な彼女を連れているし。本当嫌になる」

 きっと、一流のスカウトの人が今日は居なかっただけだ。先輩は平凡な子の方が好きなだけだ。

 みんな見る目がないのだ。きっと、私はタイミングが悪いだけなのだ。

「ちゃんと見てよ。そうすれば私の魅力が分かるはずなんだから」

 つまらない。つまらない。つまらない。

 きっと、別の世界に行けば私は認められるのだ。

「本当に異世界に行けたらいいのに」
 ラノベで良くある、トラ転を考える。

「ないわよね。本当に死んじゃったら、それこそ馬鹿みたいな人生になってしまうわ。経験者なんて……いる訳ないし」

 転生じゃなく、召喚だったらどうだろう?

 事故死なんて怖い。まして殺人事件に巻き込まれるのはもっと嫌だ。このつまらない人生を一生送るのも嫌だった。

 そんな時、不思議な本屋の話を耳にした。

「まぁ、嘘でもいいか。暇だしね。あの通りに古書店なんてあったかな?」

 そんな軽い気持ちで、来瀬らいぜ古書店を探しただけだった。

 そして、その扉を開けた。

「うわっ狭い。でもすごい本の量だわ」
 本当にあった。この近くは何度も何度も通っていたのに気が付かなかったのだ。

「──不思議」

 店主らしい高齢の人が椅子に座って本を読んでいた。

 気がついたようで、目が合うと優しく微笑まれて思わず会釈をした。

「本を見てもいいですか?」

「貴方に合う一冊が見つかるといいですね」
 何だろう。どきどきして落ち着かない。

「──はい」

 そして、店内をゆっくりと進んでみた。こんなに沢山積み重なってるのに、埃などは見えない。大切にされているのだと感心しながら、ゆっくりと進んだ。

 なんだろう気になる。あの本を見てみたい。手を伸ばしてその本を棚から取ると、更にどきどきしてしまう。

 ゆっくりと本を開く。
「異世界の物語?」
 ページを捲ると、キャラクター紹介が載っていた。

 綺麗な王国のイラスト。それが最初の感想だった。
 王国に危機が迫り、異世界から聖女を召喚する。簡単なあらすじを読んだ。王子、魔法師、神官、魔法騎士。ラノベのハードカバー本にも見えるけど最近の物ではないみたいだし作者も不明だ。

「外国でも、異世界召喚の話は人気なのかな?」
 さらに捲るとキャラクター紹介のページだった。

 美形のキャラクターの中。聖女がいた。

「えっ?これ……私に似てない?」
 セーラー服も同じデザインだ。

 どきどきしながら、その姿を指先でなぞる。

「この世界に行けたなら、特別に大切にされるのかな?こんな退屈な毎日から解放されたらいいのに」

 魔法陣の絵が少し揺らいだように見えた。

「本当に、必要な一冊が見つかるのなら、私をここに連れてって欲しい。聖女になって世界を救って、素敵な恋をしてみたい。願いを叶える神様っていたらいいのにな。あはは。私馬鹿みたいだな。特別な存在になりたいよ。こんな世界つまらない」

 そんなバカみたいな事をつぶやくと光に包まれた。
 そして、異世界に来れたのだ。それなのに、魔力が少ないと言う。訓練をしろ、巻き込まれた魔法騎士が優先だとか……なんでもっと特別にしてくれないのか悔しくて堪らない。

「こう言うのは、チートがあるのよ」
 努力なんて必要なんてない。ジェイド様があんなに注目されるのなら、彼のそばにいると目立てるのかも知れない。

 本当なら、王子と結婚をするのが良いけど。確固たる地位を得るなら、ジェイド様の記憶を取り戻すのが早いに決まっている。

 なのに、なんで聖女召喚をもう一度するのだろう?  焦るばかりで、上手くいかない。
 現れたのは聖女では無かった。だからイラストの通り聖女は、私で間違いないのだと思った。
 ただ男の人にしては、綺麗な人だった。
 悔しい。手柄を取られたくない。ただラッキーな事にジェイド様の記憶については、秘匿とされたのでモブには知らされず手が出せないはず。

 彼を排除したい。本当に邪魔な人。


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