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18.会いたい side ジェイド
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「──ユイ?」
華奢な指が、頬にふれて泣きそうな顔で誰かの名前を呼んだ。
気を失ったのか、腕に重みが伝わる。
その名は誰のものだろう?
俺の頬に触れ、愛おしそうな眼差しを向けられた。それは、俺を見ていたのだろうか?
「ユイ。いなくなったらダメだよ」
神使様の大切な人なのだろうか? 胸がこんなに苦しくなるのは、どうしてなんだろう。
エドワード殿下がこの人に触れているのが、許せなかった。その魔力に呼び寄せられるように惹かれていく。
二度目の聖女召喚の儀式は、お前の惹かれる者を辿ってくれと言われた。魔力の多いお前ならきっと辿れる。その意味が分からなかったが、魔法陣の示した世界に何かがある様に思え、自身の魔力で探索していったのだ。なぜか惹かれるその魔力に手を伸ばした。
結果以前は行方不明となり、今回は意識を失った。
召喚の儀式の魔力の吸い上げは、予想以上に身体に影響するようだ。
ようやく目が覚めた時、また聖女がやって来た。何度となく癒すと言われても触られたくもなかった。
それなのに、この人の魔力。存在だけは心を乱されてしまうのだ。殿下が護っているのが許せずに思わず奪い取ってしまった。
神使様───
触れていたい。その頬も、唇も。華奢な首筋に所有印を付けて、なんなら誓約を結んでしまいたいと。己の欲望が湧き上がってしまって、人目がなければ自制が効かなかったかも知れない。
本当に頭に血が上りすぎて、不敬な事をしてしまった。初めて会ったはずなのに、何故こんなに惹かれるのだろう。
俺の惹かれる者を辿ればいい。それが、今回召喚した神使様なら、会っていたのかもしれない。記憶のせいで分からない事だらけなのだ。
この世界の景色は、何となく郷愁を感じさせ感覚として懐かしさがある。魔力がある事も魔法の使い方も呪文を聞けば疑問もなく使えた。ここに居たことは、間違いないのだろう。エドワード殿下の顔も、ミカエル神官長補佐の顔も霞みがかっていても、知っているような気がする。どんな仲だったのかまでは、いまだに思い出せない。
そんな不安定な中、無性に本のある所に行きたい衝動に駆られるのだ。
魔法指南書と王国の歴史書、隣国との関係など調べて読む事に専念した。少しでも、自分の役目を果たす為に。大切な何かを思い出す為に。本を読んだ。
そのまま数分、神使様を抱きかかえていると、声をかけられた。
「ジェイド様!」
慌ててこの部屋に走って来たのは、聖女だった。聖女が、視界に入った瞬間から反発してしまう。どうしても感情が刺々しいものに変わっていくのだ。
聖女のベタベタしてくる感じも、それ以外の女と言う存在も、受け入れ切れない。鬱陶しいとしか言いようがない。
「慌てて行ってしまうので、追いかけてきました。ジェイド様が元気になったら、私の護衛魔法騎士に任命していいと神官長様も言ってくれたのですよ……」
一方的に話だした聖女が、我に返った。
「この人……倒れたのですか?」
エドワード殿下が、俺と聖女の間に立ち塞がる。
「ジェイドは、異世界転移の後遺症に悩まされていますから。その件については、保留にするように陛下に伝えています」
俺たちをかばうように、殿下は間に立ったまま話を続ける。
「それに神使様が気を失われてしまいましたので、会議は中止になりました。ジェイド、神使様を治癒室に連れて行ってくれ」
振り返った殿下から合図を送られた。早く連れて行け、そう言う事だ。
腕の中の神使様に対して、愛おしさが募るばかりだ。
神託により、聖女様の力を助けるべき存在を召喚。そう言う名目にしている。本物である可能性が高い神使様を特に守る必要がある。
(俺を呼んでくれたのは、神使様ですよね?)
きっと忘れた記憶の中で、神使様を身体で覚えているのだ。そうでなければ、この思いは何なのだ。
俺は、貴方の騎士になりたい。そばにいたい。ユイではなく、ジェイドと俺の名を呼んで欲しい。
華奢な指が、頬にふれて泣きそうな顔で誰かの名前を呼んだ。
気を失ったのか、腕に重みが伝わる。
その名は誰のものだろう?
俺の頬に触れ、愛おしそうな眼差しを向けられた。それは、俺を見ていたのだろうか?
「ユイ。いなくなったらダメだよ」
神使様の大切な人なのだろうか? 胸がこんなに苦しくなるのは、どうしてなんだろう。
エドワード殿下がこの人に触れているのが、許せなかった。その魔力に呼び寄せられるように惹かれていく。
二度目の聖女召喚の儀式は、お前の惹かれる者を辿ってくれと言われた。魔力の多いお前ならきっと辿れる。その意味が分からなかったが、魔法陣の示した世界に何かがある様に思え、自身の魔力で探索していったのだ。なぜか惹かれるその魔力に手を伸ばした。
結果以前は行方不明となり、今回は意識を失った。
召喚の儀式の魔力の吸い上げは、予想以上に身体に影響するようだ。
ようやく目が覚めた時、また聖女がやって来た。何度となく癒すと言われても触られたくもなかった。
それなのに、この人の魔力。存在だけは心を乱されてしまうのだ。殿下が護っているのが許せずに思わず奪い取ってしまった。
神使様───
触れていたい。その頬も、唇も。華奢な首筋に所有印を付けて、なんなら誓約を結んでしまいたいと。己の欲望が湧き上がってしまって、人目がなければ自制が効かなかったかも知れない。
本当に頭に血が上りすぎて、不敬な事をしてしまった。初めて会ったはずなのに、何故こんなに惹かれるのだろう。
俺の惹かれる者を辿ればいい。それが、今回召喚した神使様なら、会っていたのかもしれない。記憶のせいで分からない事だらけなのだ。
この世界の景色は、何となく郷愁を感じさせ感覚として懐かしさがある。魔力がある事も魔法の使い方も呪文を聞けば疑問もなく使えた。ここに居たことは、間違いないのだろう。エドワード殿下の顔も、ミカエル神官長補佐の顔も霞みがかっていても、知っているような気がする。どんな仲だったのかまでは、いまだに思い出せない。
そんな不安定な中、無性に本のある所に行きたい衝動に駆られるのだ。
魔法指南書と王国の歴史書、隣国との関係など調べて読む事に専念した。少しでも、自分の役目を果たす為に。大切な何かを思い出す為に。本を読んだ。
そのまま数分、神使様を抱きかかえていると、声をかけられた。
「ジェイド様!」
慌ててこの部屋に走って来たのは、聖女だった。聖女が、視界に入った瞬間から反発してしまう。どうしても感情が刺々しいものに変わっていくのだ。
聖女のベタベタしてくる感じも、それ以外の女と言う存在も、受け入れ切れない。鬱陶しいとしか言いようがない。
「慌てて行ってしまうので、追いかけてきました。ジェイド様が元気になったら、私の護衛魔法騎士に任命していいと神官長様も言ってくれたのですよ……」
一方的に話だした聖女が、我に返った。
「この人……倒れたのですか?」
エドワード殿下が、俺と聖女の間に立ち塞がる。
「ジェイドは、異世界転移の後遺症に悩まされていますから。その件については、保留にするように陛下に伝えています」
俺たちをかばうように、殿下は間に立ったまま話を続ける。
「それに神使様が気を失われてしまいましたので、会議は中止になりました。ジェイド、神使様を治癒室に連れて行ってくれ」
振り返った殿下から合図を送られた。早く連れて行け、そう言う事だ。
腕の中の神使様に対して、愛おしさが募るばかりだ。
神託により、聖女様の力を助けるべき存在を召喚。そう言う名目にしている。本物である可能性が高い神使様を特に守る必要がある。
(俺を呼んでくれたのは、神使様ですよね?)
きっと忘れた記憶の中で、神使様を身体で覚えているのだ。そうでなければ、この思いは何なのだ。
俺は、貴方の騎士になりたい。そばにいたい。ユイではなく、ジェイドと俺の名を呼んで欲しい。
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