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14.異世界?
しおりを挟む真っ黒のシンプルな膝丈のワンピースは、袖口だけ白で折り返しになっている。編上げのロングブーツ。黒髪は背中の中程までサラサラのストレートだ。
なんだっけ?ゴスロリっぽい服装は、ハロウィンの仮装みたいに見えた。
「半年前の召喚の儀は、ジェイド様を取り戻す為に必要でした。取り戻した後に更にもう一度召喚する意味がわかりません。それに儀式は、危険みたいな事言ってましたよね?」
涙をいっぱいに溜めてふるふると震え始める。
「それは、ミカエルが説明したはずです」
二人で話合いをして欲しい。抱え込まれているので逃げられない。
もう俺は、それ所じゃなくなっていた。トイレって何処だ。気持ち悪さが増してた。震える身体に気がついた王子様によってさらに、強くホールドされてしまった。そうじゃないって思って手を動かした。
「離してください」
その言葉で、言い合いをしていた二人がこちらを見た。
「大丈夫ですか? 顔色が悪い。新しくこちらに来た聖女様かと思っていました。ですが神使様のようですね。あまりにも美しくて男性とは、思いませんでした。召喚の際に酔ってしまったみたいですね」
先程の聖女を見る目と違い、甘く優しいものに感じる。
最初に抱き締められた形になったせいか、胸がない事に気がついたようだ。ちゃんと男として認識されたみたいだ。
「やはり、辛そうだ」
そう言って、横抱きにされるとか、女じゃないって言いたくなった。それにそんなことされたら、戻してしまいそうだ。増える唾液を必死に飲み込んだ。
「──大丈夫です。降ろして下さい」
さらに近づいて来た聖女が、声を荒らげた。
「本当に神使なんですか?巻き込まれたモブかも知れません」
「モブ? それはどういう意味ですか?」
エドワード殿下が、反応する。
「モブは、何の才能もない一般人のことです。最初に召喚された聖女は私です。まして聖女を召喚するはずが、神使がくるなどありえません。この前みたいな、行方不明のジェイド様を探したのは分かります。なのに、聖女召喚をもう一度なんて納得してません。それに今度は神使だとか……そんな話あるわけない」
聖女がエドワード殿下の手を無理やり引っ張ったため、俺はその勢いを受け振り回される形になった。
そしてそのまま……胃の中の物を全部吐き出したのだ。
目の前の聖女に全部ぶちまけた。
「おぇぇぇぇぇぇええ……」
「いやぁぁぁぁぁぁぁ」
そのまま意識を飛ばしたのは、仕方がない。
次に目を覚ました時、天蓋付きのベッドの上だった。なんて豪華な部屋……ぼんやりとしながらも、誰かの視線を感じた。
「気が付きましたか?少し待ってて下さい。誰か、殿下への伝言を。神使様が目覚めました」
まだ、夢なのだろうか? そんなふうにしか思えない。来瀬古書店で、光……に包まれたのは確かだった。徐々に靄のかかった頭の中が冴え始めた。
「ここって、どこですか!」
思わず、勢いよく起き上がると一気に目眩に襲われて身体がぐらついた。その瞬間に銀に輝く髪が揺れて支えられる。アメジスト色の双眸に、その顔面偏差値に圧倒されてしまう。
本当に異世界? あの本の世界に来たのかと驚くばかりだ。読んでる時は、自分の姿は認識されていなかった。空から覗いているような感覚だったのに。
ノック音と同時にドアが開きバタバタと部屋に人が入って来た。
「神使様は、大丈夫か?」
エドワード殿下だ。彼の腕の中からぶちまけたはずだ。気まずい。
「神使って名前じゃないです。それに、色々すみませんでした」
聖女なら既にいるし、なんで召喚の儀式で呼び出された形になったのか分からない。
自分から結を探しに来たつもりだったのに。
「神託があったのです──召喚の儀式で、貴方様は現れたのですよ。女性なら聖女。男性なら神使です」
嘘だ。ジェイドが会ったかもしれない、本物を探す為に計画した事だ。それに巻き込まれるとか。
「神託……そんなはずはありません。自分から望んで来ました。来瀬……さんが」
室内がざわつき始める。
「──ライゼ神の神の使いなのですね。やはり、神使様と呼ばせて下さい」
アメジスト色の瞳は一見冷たそうに見えるのに、甘く溶けた視線に変わる。
神使とか勘弁してほしい。
だけど、ジェイドには会って確認したい。
「もう一人召喚した人の事、教えて下さい」
その一言で、今度は静まり返った。
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