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2.古書店
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両親が、何か言ってるのを無視したままそれを振り切って、俺はスニーカーを履いた。
ごめん。俺、本当に結が大事なんだ。
その想いだけで、振り返ることなく飛び出して行く。
鍵だけは、両親と自分達との繋がりみたいでキーホルダーから離さなかった。
もしも、皆が忘れた結に会えるとしたら。こちらには、帰って来れないかも知れない。覚悟しても鍵まで失くしたら、本当に会えなくなりそうで怖かったんだ。
この世界から、消えたなら忘れられる可能性がある。父さん、母さん。ごめんね。
謝りながらエレベーターに乗り込んだ。
まだ、開店してるはずだから、人を避けながらダッシュして目的の来瀬古書店をひたすら目指して行く。
普段、簡単に行き過ぎるのに、今日はその存在感が大きい。不思議だからこそ、きっとここで結の足取りが分かるはずだ。
不安と焦燥、駄目かもしれない諦めの中、古書店の扉を開けた。
カランと静かな店内にドアベルが響いた。
年配のおじいさん……雰囲気は老紳士のような人が、腰かけていた。その人に見惚れていると、反対側の奥の方から足音が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
こちらは、大学生なのか好青年と言う言葉がぴったりの背の高い、柔らかな声で出迎えてくれる人が立っていた。自分より二つくらい年上に見える。
「──あの」
何から話せばいいのか、どうしたらいいのか分からない。
存在させ、あやふやになった弟を思い浮かべながら、俺はスマホを握りしめた。
一緒に写した写真も何一つ残ってないからだ。
「何か訳があるのかな? 教えてくれるかな? 俺じゃ言い難いなら、じいちゃん……睨まないでよ。オーナーに話してみる?」
何故そんな風に言ってくれるのか、理由が分かった。気が付かないうちに自分の頬に涙が伝っていたからだ。ハンカチを渡されて、小さくありがとうございますと言った。
大学生に見える人から、頭をポンポンとされて慰めて貰う感じになった。コホンとオーナーの咳が聞こえる。
この本屋のオーナーなら、結がいなくなった事分かるかも知れない。何故かそんな気持ちになった。
「いえ、あの。お二人に聞いて貰いたい事があります。おかしな事を言うかもですが……」
席に座ると、大学生のような人は、扉を開けてお店をクローズにしたようだった。扉横の窓のシャッターを閉めて戻って来たからだ。
珈琲の香りが店内に漂い、やわらかな香りに落ち着きを取り戻した。そしてオーナーが優しく微笑んだ。
「美味しいでしょう?この豆、特別なんだよ」
本当に美味しそうに、オーナーが飲んでいる。
「淹れ方が上手いって言ってよ。オーナー。あ、来瀬が苗字だよ」
少し落ち着いて来て涙は止まった。急かすことなく、優しい時間を貰ったことで重かった口を開いた。
「来瀬さん──俺、弟がいるんです。時砂結って言います。俺は琥珀です。でも、何故か誰も結を覚えていない。みんな忘れて行くんです。両親さえも存在を否定しました」
信じて貰えないかも知れない。それでも手掛かりは此処しかないのだ。珈琲カップを握り締めて、伏せていた目を少し上げるまでに勇気と時間がいった。
「──ここに来たはずなんです」
二人は、顔を見合わせる。写真を見せてって言われたらどうしよう。写真一つないのに。胸に痛みが走った。その時オーナーが思いがけない一言を言った。
「琥珀くん。その子は背の高い、うちの孫より大きい子かい?確かあの辺の本を見てた気がしたが……」
「ああ。物凄く格好いい……美形って言った方がいいのかな? 来たね」
思わず、立ち上がると椅子が後ろに倒れバンと音が響いた。
「その、その後はどうしたんですか?」
その言葉に二人は、黙りこんだ。
ごめん。俺、本当に結が大事なんだ。
その想いだけで、振り返ることなく飛び出して行く。
鍵だけは、両親と自分達との繋がりみたいでキーホルダーから離さなかった。
もしも、皆が忘れた結に会えるとしたら。こちらには、帰って来れないかも知れない。覚悟しても鍵まで失くしたら、本当に会えなくなりそうで怖かったんだ。
この世界から、消えたなら忘れられる可能性がある。父さん、母さん。ごめんね。
謝りながらエレベーターに乗り込んだ。
まだ、開店してるはずだから、人を避けながらダッシュして目的の来瀬古書店をひたすら目指して行く。
普段、簡単に行き過ぎるのに、今日はその存在感が大きい。不思議だからこそ、きっとここで結の足取りが分かるはずだ。
不安と焦燥、駄目かもしれない諦めの中、古書店の扉を開けた。
カランと静かな店内にドアベルが響いた。
年配のおじいさん……雰囲気は老紳士のような人が、腰かけていた。その人に見惚れていると、反対側の奥の方から足音が聞こえた。
「いらっしゃいませ」
こちらは、大学生なのか好青年と言う言葉がぴったりの背の高い、柔らかな声で出迎えてくれる人が立っていた。自分より二つくらい年上に見える。
「──あの」
何から話せばいいのか、どうしたらいいのか分からない。
存在させ、あやふやになった弟を思い浮かべながら、俺はスマホを握りしめた。
一緒に写した写真も何一つ残ってないからだ。
「何か訳があるのかな? 教えてくれるかな? 俺じゃ言い難いなら、じいちゃん……睨まないでよ。オーナーに話してみる?」
何故そんな風に言ってくれるのか、理由が分かった。気が付かないうちに自分の頬に涙が伝っていたからだ。ハンカチを渡されて、小さくありがとうございますと言った。
大学生に見える人から、頭をポンポンとされて慰めて貰う感じになった。コホンとオーナーの咳が聞こえる。
この本屋のオーナーなら、結がいなくなった事分かるかも知れない。何故かそんな気持ちになった。
「いえ、あの。お二人に聞いて貰いたい事があります。おかしな事を言うかもですが……」
席に座ると、大学生のような人は、扉を開けてお店をクローズにしたようだった。扉横の窓のシャッターを閉めて戻って来たからだ。
珈琲の香りが店内に漂い、やわらかな香りに落ち着きを取り戻した。そしてオーナーが優しく微笑んだ。
「美味しいでしょう?この豆、特別なんだよ」
本当に美味しそうに、オーナーが飲んでいる。
「淹れ方が上手いって言ってよ。オーナー。あ、来瀬が苗字だよ」
少し落ち着いて来て涙は止まった。急かすことなく、優しい時間を貰ったことで重かった口を開いた。
「来瀬さん──俺、弟がいるんです。時砂結って言います。俺は琥珀です。でも、何故か誰も結を覚えていない。みんな忘れて行くんです。両親さえも存在を否定しました」
信じて貰えないかも知れない。それでも手掛かりは此処しかないのだ。珈琲カップを握り締めて、伏せていた目を少し上げるまでに勇気と時間がいった。
「──ここに来たはずなんです」
二人は、顔を見合わせる。写真を見せてって言われたらどうしよう。写真一つないのに。胸に痛みが走った。その時オーナーが思いがけない一言を言った。
「琥珀くん。その子は背の高い、うちの孫より大きい子かい?確かあの辺の本を見てた気がしたが……」
「ああ。物凄く格好いい……美形って言った方がいいのかな? 来たね」
思わず、立ち上がると椅子が後ろに倒れバンと音が響いた。
「その、その後はどうしたんですか?」
その言葉に二人は、黙りこんだ。
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