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プロローグ
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「琥珀兄さん、お帰りなさい」
学ラン姿のままの弟に声をかけられた。
「──ただいま、結。なんで名前呼び? 珍しい」
いつもは兄さんって声をかけられるのに、不思議に思う。思わず首をかしげてしまった。弟の結が、なぜか赤面して顔を背けた。
「え? どうしたの?」
赤面させるようなえろい話は、してないはずだ。変な奴だなと思いつつ、俺はリュックをソファに優しく置いた。
大学生になって、通学の荷物は減った。それでもPC関係やバッテリーに専門書だ。もう少し身軽かと思っていたのに……。
昨今の中高校生よりはマシかな? 同じくソファの上にある、結のリュックと膨れ上がったサブバッグを見てため息をついた。
「結は身体が大きいから、荷物が多くても平気そうでいいよね。俺も背が欲しい。同じ兄弟とは思えない。あ~悔し過ぎる」
冷蔵庫から、牛乳を取り出した結がグラスを用意して笑った。
「だったら、牛乳飲めば? ちょっとは大きくなったんじゃない? ま、兄さんは、可愛いからそのまんまでいいんだけどね。琥珀って名前も似合ってて、たま~に呼びたくなるだけだよ」
グラスに牛乳を注ぎ、一気に飲んでしまった。そしてまた笑う結を、ひと睨みした。
「仕方ないだろ? お腹壊すんだから。それに可愛いとか言うな。そんな事を言うなら、勉強見てやんないからな? 受験生」
慌てて麦茶を入れたグラスを持って来た結が、頭を下げる。
「琥珀先生、今日もご指導よろしくお願いします」
「まかせろ。俺と同じ大学に入れてやるよ」
ドンと胸を叩いて見せれば、目を細めて笑う。美形のモデルみたいな結は、とにかくモテていた。いや、今でも学校にファンクラブはあるのかも知れない。
結が中学二年生になった頃から、笑顔を見せなくなった。表情が暗くなっていく結が心配になり、理由をようやく聞き出したのだ。
「女の子が、揉めるんだ」
「クラスの子?」
「僕と話すのは、ずるいとか。私の方が特別とか? 喧嘩したりしてる。意味が分からないよ。時々物が無くなるし……僕が何か言った訳でもないのに」
この頃から、身長がぐんと伸びたのだ。どんどん格好良くなる結を見て、待ち伏せする子も現れた。ストーカーみたいだった。両親も学校に相談に行ったのだ。あれは気持ち悪いを通り過ぎて、恐怖でしかない。犯罪の一歩手前まできていたのだ。
そんな事があって、結は女の子とますます距離を置くことになる。
結が普通にしたことでも、相手は特別扱いだと勘違いをしてしまう。
「モテるのって、いい事ばかりじゃないね」
「もう、女の子と関わりたくない……」
学校が苦痛の結を楽しませようと、二人で良く出かけたんだ。兄弟だから、気楽に何でも出来た。可愛い弟が自分より大きくなったのは、大誤算だったけど。高校最後の年なっても、彼女を作る事はなかった。ずっと結といたから、俺自身も彼女は出来なかったけど。
結が苦手な女の子と、付き合うとか考えられなかったんだ。
俺は体格やビジュアルでは負けるが、頭脳面で兄の威厳を守っていた。難関大学に現役合格し、今は結の家庭教師も引き受けている。
これからも、兄弟だから気を使わせずに一緒にいられると思っていたんだ。
格好良いのに、めちゃくちゃ優しい結が可愛くてしょうがない。だから今後も変な女には、弟はやれない。騙されないように見守ってやりたかったんだ。
そんなある日。
「不思議な古書店を見つけた」
そう言って間もなく、結が消えるとか思う訳がない。
そして、結の存在自体がなかったことになるなんて。一体何が起きているのか、俺は両親でさえ信じられなくなっていた。
皆が忘れていく結を、俺は必死で探したんだ。
学ラン姿のままの弟に声をかけられた。
「──ただいま、結。なんで名前呼び? 珍しい」
いつもは兄さんって声をかけられるのに、不思議に思う。思わず首をかしげてしまった。弟の結が、なぜか赤面して顔を背けた。
「え? どうしたの?」
赤面させるようなえろい話は、してないはずだ。変な奴だなと思いつつ、俺はリュックをソファに優しく置いた。
大学生になって、通学の荷物は減った。それでもPC関係やバッテリーに専門書だ。もう少し身軽かと思っていたのに……。
昨今の中高校生よりはマシかな? 同じくソファの上にある、結のリュックと膨れ上がったサブバッグを見てため息をついた。
「結は身体が大きいから、荷物が多くても平気そうでいいよね。俺も背が欲しい。同じ兄弟とは思えない。あ~悔し過ぎる」
冷蔵庫から、牛乳を取り出した結がグラスを用意して笑った。
「だったら、牛乳飲めば? ちょっとは大きくなったんじゃない? ま、兄さんは、可愛いからそのまんまでいいんだけどね。琥珀って名前も似合ってて、たま~に呼びたくなるだけだよ」
グラスに牛乳を注ぎ、一気に飲んでしまった。そしてまた笑う結を、ひと睨みした。
「仕方ないだろ? お腹壊すんだから。それに可愛いとか言うな。そんな事を言うなら、勉強見てやんないからな? 受験生」
慌てて麦茶を入れたグラスを持って来た結が、頭を下げる。
「琥珀先生、今日もご指導よろしくお願いします」
「まかせろ。俺と同じ大学に入れてやるよ」
ドンと胸を叩いて見せれば、目を細めて笑う。美形のモデルみたいな結は、とにかくモテていた。いや、今でも学校にファンクラブはあるのかも知れない。
結が中学二年生になった頃から、笑顔を見せなくなった。表情が暗くなっていく結が心配になり、理由をようやく聞き出したのだ。
「女の子が、揉めるんだ」
「クラスの子?」
「僕と話すのは、ずるいとか。私の方が特別とか? 喧嘩したりしてる。意味が分からないよ。時々物が無くなるし……僕が何か言った訳でもないのに」
この頃から、身長がぐんと伸びたのだ。どんどん格好良くなる結を見て、待ち伏せする子も現れた。ストーカーみたいだった。両親も学校に相談に行ったのだ。あれは気持ち悪いを通り過ぎて、恐怖でしかない。犯罪の一歩手前まできていたのだ。
そんな事があって、結は女の子とますます距離を置くことになる。
結が普通にしたことでも、相手は特別扱いだと勘違いをしてしまう。
「モテるのって、いい事ばかりじゃないね」
「もう、女の子と関わりたくない……」
学校が苦痛の結を楽しませようと、二人で良く出かけたんだ。兄弟だから、気楽に何でも出来た。可愛い弟が自分より大きくなったのは、大誤算だったけど。高校最後の年なっても、彼女を作る事はなかった。ずっと結といたから、俺自身も彼女は出来なかったけど。
結が苦手な女の子と、付き合うとか考えられなかったんだ。
俺は体格やビジュアルでは負けるが、頭脳面で兄の威厳を守っていた。難関大学に現役合格し、今は結の家庭教師も引き受けている。
これからも、兄弟だから気を使わせずに一緒にいられると思っていたんだ。
格好良いのに、めちゃくちゃ優しい結が可愛くてしょうがない。だから今後も変な女には、弟はやれない。騙されないように見守ってやりたかったんだ。
そんなある日。
「不思議な古書店を見つけた」
そう言って間もなく、結が消えるとか思う訳がない。
そして、結の存在自体がなかったことになるなんて。一体何が起きているのか、俺は両親でさえ信じられなくなっていた。
皆が忘れていく結を、俺は必死で探したんだ。
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