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第5章

6.思い出の場所

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温かいのは、抱きしめられているから?

良い匂いがする。これ、花の匂い?
ここは、2人で過ごした森で…私達が暮らした隠れ家なの?

この大樹…まだあるんだ。
根元に転移してきたんだ。剥き出しの根っこの間に隠されるように2人座っている。
見覚えのある庭。
背中から抱きしめられて、殿下の足の間に座っているのでセドリック殿下の顔は見えない。


サーチされたら、外交問題になるんじゃなかったっけ?




「──セドリック殿下。あの、起きてますか?ここ、ライムエード王国ですよね?不味いです。隣国内に転移してるみたい。」

戦争おおごとになるのは、まずい。背中から抱きしめられているので、振り向く事も出来ない。


「大丈夫です。ここには、結界石があります。ここに転移出来るのは、俺たちだけですよ。あの時から、ずっと護ってきた場所です。」

「まさか本当に…セディの記憶があるの?」

「──はい。」


顔が見えないから、不安になる。
どんな顔をして聞いているの?


「なんで、そんな。忘れてって言った。」

「──全部嘘でしょう?
イリア様は、すぐ俺を突き放そうとするから。」


「歳下とか…」

「今は、同じ歳ですが。」

「う、浮気する奴なんか!」


「してません。魅了と誤認識の魔道具でさせられただけです。あの女が媚薬まで使ったから、大変でしたが…俺の好きな人の匂いとは全然違ったから。追い出しました。」

「だって、キスしてた。」

「あのビッチが、そう見える角度にわざと擦りよったんでしょう。」

「嘘だ。そんなの言い訳だよ。」


「俺は、イリア様だけだ。いいえ違いますね…レイリアとしての今までも、貴方の全てが好きなんだよ。なんで、叔父上と婚約しようとするのか…分からなくて混乱したけど。思い当たる節があって…それを確認したい。」

抱きしめてくる手に力が少し加わり密着してくる。
その温もりに甘えてしまいたくなる。


「それは…」


「あの日の事とか全部、思い出しました。」


「全部って?」


「イリア様が、毒を飲んで俺の前から消えた日。
だからかな…俺が食べさせたお菓子で、レイリアが血を吐いた時に魔力が暴走した。あの時コントロール出来ていれば…サフィア様は死なずに済んだのかも知れない。」

「母様は、未来を知っていた。変えられなかったんだ。色々足掻いてくれてたみたいだよ。違う過程を通っても死ぬ未来結末は、同じになったんだ。私を助けなければ、変えられた未来だよ。」

片方しか助けられないのなら、呪われている方が死ねばよかったんだ。

「あのサフィア様が、レイリアを助けないとか…ありえない。」

「──それでも、母様を死なせたくなかった。」


「俺だって、1人で勝手に毒を飲んで欲しくなかった。」

隷属の首輪を嵌められてしまったから。それしか、選べなかったんだよ。


「隷属させられたから──どうしても嫌だったから、ごめんなさい。
あの時、私を見送ってくれたのならありがとう。最後はあまり覚えてないんだ。」


「散々嫌いだとか忘れろとか言ってましたよ。」

「そうかも。」

「──もう1人の銀色の魔女が現れたんです。」


「彼の人が?」


「貴方の肉体を焼くように。どんなに、貴方が受けた呪いの説明をしても…きっと身体を欲しがる者が現れるからと。」

「私の身体を護ってくれたんだ。」

そっか、良かった。セディだけが触れてくれた身体を守れたんだ。


「誰にも汚されたくなかった。燃やして灰にしました。唯一これを作ってもらったんです。」

「ネックレス?」

「貴方の銀糸の髪の毛をクリスタルに入れてます。これしか残らなかったんだ。」


「そんなの、捨てたらいいのに。毒の影響があるかも知れないのに。
あの後、この国をどうにか出来たって事だよね?あの子とは婚姻しなかったのなら、誰かと出会えた?」

こんな、聞き方しか出来ない。
誰かと幸せになれたのかな。


「1人でした。
誰とも、婚姻なんかしなかったよ。」

「だって、この国…ライムエードなんでしょう?君が王になった国だよ?今も続いているのは、継承した子供がいたわけでしょう?」

「散々、言われたけど。イリアが俺の王妃だって言ってたから。周りが諦めたよ。優秀な遠縁の子を養子にした。彼が、俺の遺志を継いでくれたよ。」


「じゃあ…寿命を全うしたの?」


「いいえ──あれから15年程、王国を変革するべく動いたんです。
そして、銀色の魔女に会いに行った。」


「何があったの?何をしたの?」


「運命に逢いにいく為に、魔女に薬をもらって…この世界にきた。同じ歳かそれより上にして欲しいってこっそり頼んでたんだ…絶対に逃すつもりないんで。」

「一緒にはいられない。」

「そんなの、とっくに知っている。銀色の魔女が教えてくれたから。」

「なら、私を選んじゃ駄目だ。先にいなくなるんだ。」

「どうして叔父上ならいいの?好きだとかじゃないですよね?本当の事言ってください。」


向きを変えられて、向かい合う。
視線を逸らせない。
もう、騙せない。


「──師弟関係だけじゃ婚約とかの打診が来るから。お互いに1人でいたいから…偽の婚約と伴侶になればいいかなって。どうせ、生きられないなら、魔法の勉強出来る環境にいたかった。それに呪いの解呪も考えている…から。」


「やっぱり。呪いのせいなんですね? 
もう、諦めるのやめませんか?みな協力してくれる。レイリアが生きる事を望んでいるんだ。俺が1番側にいて助けたい。だいたい叔父上にまかせたくない。」

ちょっと拗ねてるのが、可愛くみえる。


「側にいられる時間がどの位か分からないのに?銀色の魔女もいないのに?」

後どのくらいか分からない。
もしかしたら、未来視を望めば…自分の時間が分かるだろうか?


「──探します。だから、ここに呼ばれたんです。」


どんどん視界が滲んできた。
私が好きだったセディの青い瞳。

手を伸ばし、頬に触れる。

「きっと後悔するよ…」

もう、これで最後にするから…もう生まれ変わらなくていい。
あと少しだけ時間をもらって終わりにしたらいいのだ。

そうすれば、私を見送った後に君は…自由になれるはずだから。

風が吹き始めた。
青の花弁が──ここまで届き始める。 

ふらりと立ち上がった。




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