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第4章☆前世の2人編

14.絶望と後悔と禁忌③

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side セディ

血に染まる、純白の服。

恐ろしく、美しく残酷な光景を目の当たりにする。


解毒薬を教えて欲しいと頼んでも聞き入れてくれない。

「──嫌。
歳下なんて、大嫌い。
後追いする弱虫も嫌い。
浮気する奴も、嫌い。」

歳下はどうしようもない。
浮気…違う。すぐに追い出したんだ。
付けさせておいて何を言っているんだ。
情けなくて自分が許せない。
護ってやれなくてごめん。

真紅に染まっていく。魔力を送っても拒絶される。


「生まれ変わっても、君には会いたくない

信じられないから。

私は、1人で生きるんだ。
それでも、隠れて生きるなんて、嫌。

今度は日の下で、堂々と生きていきたい。

出来なかった、事を、沢山するんだ。
短くても、精一杯生きて…いきて、」


イリア様に信じてもらいたかったのに。

全てを台無しにしたのは、自分だ。

腹の底から魔力が噴き出しそうになっていく。

どうしたらいい?

段々と声が弱くなる。

このまま失うのか?

嫌だ。嫌だ。嫌だ。


カツカツとくつ音が聞こえる。

「残念ですね。不死薬アムリタが有れば、領土拡大の戦争に役に立つと思ったのですよ。魔女が不死では無いのなら、薬は嘘のようですね。」

イリア様をいったん床に寝かせる。

宰相を蹴り倒し、首輪をはめてやった。

すぐにイリア様の所に戻り抱きかかえる。

「ま、なんの真似だ!」

「お似合いですよ。宰相殿。これからは、俺の命令通りに動け。」

「まずは、ここにいる者全て地下牢へ入れろ。例外はない。そこの売女もだ。」

「何を…」

「今すぐ、全員殺しても構わないが?お前からか?」

花瓶に目を向ける。
薔薇の華に魔法を乗せると、一気に蔦のように伸び始めた。
蔦が意志を持ったかのように、魔法師や貴族に絡みつく。

「騎士団も、だな。」

誰も信じられない。

「ここにいない騎士団員と魔法師をすぐに呼べ。そいつらの方がマシだろう。」

「何を、王国を豊かにする為に魔女ごとき使い殺しても構わないだろう!」

「下衆が」

隷属の首輪に魔力を送れば、簡単に転がり苦しむ。

「お前が、イリア様にしようとした事だ。苦しいか?何が息子の為だ。お前の欲の為だけに、動いただけだろうが!」

バタバタと廊下から足音がする。
下位貴族の者ばかりか…だが。
だからこそ、下に見られ嫌な思いをして来た筈だ。

「一体なにが…」
普段この部屋などに来れないだろう下位の騎士達は、薔薇の蔦に捕らえられた上位貴族や魔法師に驚いている。

「ここに居る者達を地下牢へ。
言われようが、俺の言葉が優先だ。」
王の命令だと、察するとすぐ様行動を起こした。



「我が妃になるべき人を殺そうとした罪だ。絶対に逃すな。」

まだ、死んでない。
助けるから。

「魔法師に声をかけろ。すぐに治癒師もだ。」





ベッドに運び治療を始めたが、毒が何なのかは分からず手の施しようがないと結論付けられた。

腕にはめられていた魔道具も外したが、俺の魔力を受けいれることは無かった。

時折、血を吐く。
白磁の肌は、今は青白い死者のようだ。

王宮の魔法師も治癒師もこの部屋から引き上げた。


「どうして、薬を飲んだのですか?」


閉じられていた瞳が俺の声に反応した。

「イリア様!」


目は虚で俺とは視線が合わない。
だが、声の方を気にしているようだ。

「ゆ、め…かな?
も、しんだ?」

「死んでない!死なせない!!
何の毒か教えて下さい。時間が時間がないんだ!!」

「くるしくないんだ。いた…みはないよ。いたみのかわりに、のろいが…ある。うまれかわっても、いのちが…みじかいんだ。」

手が彷徨い俺を探している。
その手を握ると、フワッと笑みを見せた。

「わたしが…しんでもおいかけて、こないで。」

「嫌だ。俺を1人にしないで。」

「いったでしょ?
とし、した…きらい。」


「なら、同い年に生まれ変わる!そこからやり直ししましょう?」

「やっと、じゆうだよ。
かおをかくさない。どうどうと…いきるの。たいせつなものとか、いらないよ。」

「護るから。イリア様だけだ。他には何も要らないんだ。追いかけて逃がさない。」


「すぐ、しぬもの。あえたとしても、のろわれてるから。」

「その呪いを解くには、どうしたら良いか教えて下さい。」


「セディ、もう、わすれて。
だいすきだったよ。ぜんぶわすれなさい。」

綺麗に微笑んだイリア様の手から力が完全に抜ける。

涙を流した跡が頬にある。瞳が少し開いたままだ。
震える手で、瞼を下ろす。

俺は、泣き叫ぶしか出来なかった。
抱きしめたまま、吼え続ける。
このまま狂ってしまえたら。
届かない謝罪を言い続けて、今がいつなのか分からない。


「ごめん。ごめんなさい。俺が戦争を避けたかったから。貴方なら、合流したら…2人ならって。魔力封じに隷属の首輪に。散々…心を傷付けてごめん。
裏切るような事になってごめん。

イリア様だけだ。側にいさせて欲しい。」


この血が呪われているのなら、飲めばいいのか?



イリア様に口付けを落とす。


「こんな国、要らない。」




突然、床に魔法陣が現れた。

「なんだ?」


魔法陣の中に、銀色の髪の男がいた。

40代ぐらいだろうか?

「銀色の魔女、か?」

なら、ならば…

「助けてくれ!イリア様を!!」

「無理だ。」
あっさりとその男は、言い切った。

「──な、」

「死んだ者は、助からない。この毒を飲んだ者もだ。」

この毒?


「この、血を飲めば…同じ所に行けますか?」


「無理だな。全部、イリアが背負って逝くだけだ。」


「死んでも?来世でも?」
なら、みんな消えてしまえばいい。イリア様をこんな風にしたやつらも道連れにしてやる。



「落ち着け。魔力を暴走させるな。イリアの身体をこれ以上傷を付けないでくれ。私にとっても大切な子だ。」

「どうしたら、」
せめて、呪いを解いてあげたい。


「一つだけ、追いかける方法がある。時間はかかるが…試すかい?」

「教えて下さい。」


「この国を立て直したら、イリアと過ごした森においで。」

「そんな、すぐに死なせて下さい。」

「──今、追いかけても拒まれるよ。それに薬を作るのに時間がかかるんだ。無闇に死んでも魂の行き先が違ったらどうする?」

「それは…」

「それに、イリアの輪廻は呪いのせいで短命なる。その体験を何度かさせるべきじゃないか?少しずつ解けていくこともあるよ。」


これしか俺に縋るものはない。





「──分かりました。」

頷くしか無かった。

必ず、貴方の側にいくから。
この国を再生させるよ。
待ってて欲しい。














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