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第2章☆今世の過去編
9.師弟
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「──レイリア。大丈夫?
──レイ…」
あーーー。
「────ここ、は?」
「俺の、別邸の執務室だよ。使用人も最低限しかいないから、大丈夫。
ちょっと魘されて…っいうか…
泣かせてしまったね。」
大きめのソファに寝かされていた。
執務室らしく、書架には本や書類を綴じたものが、隙間なく詰め込まれている。
上品なカーテンはまだ完全には閉じられていない。
外は、少し陽が落ちて自分がどれだけ寝ていたのかと不安になる。
「あの、」
ハリス宰相閣下──師匠の側に以前会った護衛のユアンさんがいた。
もう1人ドアの近くに年配の家令っぽい人が立っていた。
「温かいお茶を頼む。それと、冷やしたタオルも。急がなくていいから。」
師匠がそう言うと家令は、部屋の外に下がって行った。
ただただ、許容範囲を軽く超えてしまって。
どうしたらいいのか───分からなくて、ジッと師匠を見つめてしまう。
ハンカチを渡されて、思わず受け取った。
決壊してしまったようで、止まることなく溢れ出る涙。
こんな、高貴な人の前でみっともない顔を晒している。
起きなければと思うのに、身体が重い。
この人は、魔法を母様から教わったんだ。
羨ましい。
「防音しておくね。」
「サフィア様の姿を見れたかい?」
「───はい。」
「そっか。じゃあ、王宮で何が起きたのか…過去視出来たね。」
「あれが、真実なら…母様が死んだのは…僕のせいです。」
「ちょっと、座ろうか?」
僕を起こし、隣に座って、肩を抱きよせられる。
「君のせいじゃない。
叔父上の…妻が仕組んだ事だ。レイリアのせいなんかじゃ無い。」
「──だとしても。」
「父上が退位して、兄上が若くして王になった事が…許せなかったんだろうね。
王になれない弟が、王になる事を夢みたんだ。」
「王の…おとうと…」
それは、ハリス師匠も同じじゃないか。
そして、次は…セドリック殿下がその立場になる。
だけど、この2人は違う。
そんなこと、しない。
する訳がない。
「──セドリックが、青い瞳と言うのも引き金になった。
陛下が、王妃に嵌められた愚かな王だと言いたかったんだろう。
セドリックを不貞の子だと、言い続けたんだよ。
才能ある兄上にその子供。
両翼である侯爵家は、王となった兄上の派閥についている。
才能、人徳、権力、何より王国民に愛されている。
そもそも、女神の恩恵があってこそなのに。
女が王妃になれば、女の良さを伝えられるとかさ。
女神も気が変わるかもとかさ。
あり得ない。」
未だに力の入らない身体を支えてもらいながら。
静かな部屋に、師匠の声だけが響く。
「──そんなに泣いたら。せっかくの美人が台無しだよ。まだ、泣くかもだけど。
一旦…腫れをとるね。」
え?
近づいてくる美形の顔。
そっと、目元に唇が当てられる。
反対側も、同じように。
驚いた顔をしていると思う。
ブサイクな泣き顔よりもっと変な顔じゃないかな?
プハッ。
軽く吹き出して、柔らかく笑う。
何がそんなに、可笑しいの?
何って…顔か。
「泣き止んだ。」
面白がり細められた瞳に、揶揄われたのだと理解する。
「──何するんですか。僕と変な誤解されたら、困るでしょう?」
「だからこそ、ソファだよ。
本当は、寝室に連れ込みたかったのに。
ユアンがレイリア様が可哀想だって煩いし。困ったよ。何もしないって言うのにね。」
チラリとユアンさんを見ると、真顔だ。
「何?発言して良いよ、ユアン。」
「寝室に連れ込んだなんて、噂になれば、すぐに婚約させられますよ?いや、その前にセドリック殿下が暴走しますから、健全な場所だけで指導して下さい。」
「─分かってるよ。
ああ…でも、誤解されるのいいな。
セドリックが、オロオロしそうだ。」
殿下がオロオロなんて…。
機嫌は悪くなりそうだけど。
「師匠が、1人なのは…前公爵様のせいですか?」
「どうだろう?」
陛下の信頼も厚く。
才能も十分。人気もある。
無駄な争いを嫌って、陛下の前で忠誠と契約魔法を交わしたとも聞いている。
悲劇が繰り返さない為だよね。
だから、1人を選んでいるのかな?
「──ヴァーミリオン家と噂になったら、」
セドリック殿下はアルバート殿下と争いになる?
ブラウン家とは、良好な関係だけど。
運命とか、そんなもので、縛りたくない。
「どうかした?」
例えば──
「師匠。婚姻する気ないんですよね?」
「ん?」
「だったら、師匠が1人で生きて行く予定なら。
婚約してもらえませんか?期間限定で。卒業後…白紙いえ破棄して下さい。
偽物になる方が良いので、僕は、誰とも婚姻したくないから。師匠と同じです。
傷物扱いなら、平民落ちになれば、この先ヴァーミリオン侯爵家にも王家にも迷惑かけないから。」
「──これは、また厄介な血筋だね。」
「堂々と泊まりがけで魔法の特訓も出来ます。師匠、お願いします。1人で生きて行けるように厳しく鍛えてください!」
面白そうな師匠と真っ青なユアンさんが対照的で、可笑しい。
「じゃ、今日は泊まりだと王宮にもレオンにも連絡しておこう。
回復薬を作ろう。教えることは山ほどあるからね。
とりあえず、お茶を飲もうか?」
静かに、家令が部屋に入って来た。
──レイ…」
あーーー。
「────ここ、は?」
「俺の、別邸の執務室だよ。使用人も最低限しかいないから、大丈夫。
ちょっと魘されて…っいうか…
泣かせてしまったね。」
大きめのソファに寝かされていた。
執務室らしく、書架には本や書類を綴じたものが、隙間なく詰め込まれている。
上品なカーテンはまだ完全には閉じられていない。
外は、少し陽が落ちて自分がどれだけ寝ていたのかと不安になる。
「あの、」
ハリス宰相閣下──師匠の側に以前会った護衛のユアンさんがいた。
もう1人ドアの近くに年配の家令っぽい人が立っていた。
「温かいお茶を頼む。それと、冷やしたタオルも。急がなくていいから。」
師匠がそう言うと家令は、部屋の外に下がって行った。
ただただ、許容範囲を軽く超えてしまって。
どうしたらいいのか───分からなくて、ジッと師匠を見つめてしまう。
ハンカチを渡されて、思わず受け取った。
決壊してしまったようで、止まることなく溢れ出る涙。
こんな、高貴な人の前でみっともない顔を晒している。
起きなければと思うのに、身体が重い。
この人は、魔法を母様から教わったんだ。
羨ましい。
「防音しておくね。」
「サフィア様の姿を見れたかい?」
「───はい。」
「そっか。じゃあ、王宮で何が起きたのか…過去視出来たね。」
「あれが、真実なら…母様が死んだのは…僕のせいです。」
「ちょっと、座ろうか?」
僕を起こし、隣に座って、肩を抱きよせられる。
「君のせいじゃない。
叔父上の…妻が仕組んだ事だ。レイリアのせいなんかじゃ無い。」
「──だとしても。」
「父上が退位して、兄上が若くして王になった事が…許せなかったんだろうね。
王になれない弟が、王になる事を夢みたんだ。」
「王の…おとうと…」
それは、ハリス師匠も同じじゃないか。
そして、次は…セドリック殿下がその立場になる。
だけど、この2人は違う。
そんなこと、しない。
する訳がない。
「──セドリックが、青い瞳と言うのも引き金になった。
陛下が、王妃に嵌められた愚かな王だと言いたかったんだろう。
セドリックを不貞の子だと、言い続けたんだよ。
才能ある兄上にその子供。
両翼である侯爵家は、王となった兄上の派閥についている。
才能、人徳、権力、何より王国民に愛されている。
そもそも、女神の恩恵があってこそなのに。
女が王妃になれば、女の良さを伝えられるとかさ。
女神も気が変わるかもとかさ。
あり得ない。」
未だに力の入らない身体を支えてもらいながら。
静かな部屋に、師匠の声だけが響く。
「──そんなに泣いたら。せっかくの美人が台無しだよ。まだ、泣くかもだけど。
一旦…腫れをとるね。」
え?
近づいてくる美形の顔。
そっと、目元に唇が当てられる。
反対側も、同じように。
驚いた顔をしていると思う。
ブサイクな泣き顔よりもっと変な顔じゃないかな?
プハッ。
軽く吹き出して、柔らかく笑う。
何がそんなに、可笑しいの?
何って…顔か。
「泣き止んだ。」
面白がり細められた瞳に、揶揄われたのだと理解する。
「──何するんですか。僕と変な誤解されたら、困るでしょう?」
「だからこそ、ソファだよ。
本当は、寝室に連れ込みたかったのに。
ユアンがレイリア様が可哀想だって煩いし。困ったよ。何もしないって言うのにね。」
チラリとユアンさんを見ると、真顔だ。
「何?発言して良いよ、ユアン。」
「寝室に連れ込んだなんて、噂になれば、すぐに婚約させられますよ?いや、その前にセドリック殿下が暴走しますから、健全な場所だけで指導して下さい。」
「─分かってるよ。
ああ…でも、誤解されるのいいな。
セドリックが、オロオロしそうだ。」
殿下がオロオロなんて…。
機嫌は悪くなりそうだけど。
「師匠が、1人なのは…前公爵様のせいですか?」
「どうだろう?」
陛下の信頼も厚く。
才能も十分。人気もある。
無駄な争いを嫌って、陛下の前で忠誠と契約魔法を交わしたとも聞いている。
悲劇が繰り返さない為だよね。
だから、1人を選んでいるのかな?
「──ヴァーミリオン家と噂になったら、」
セドリック殿下はアルバート殿下と争いになる?
ブラウン家とは、良好な関係だけど。
運命とか、そんなもので、縛りたくない。
「どうかした?」
例えば──
「師匠。婚姻する気ないんですよね?」
「ん?」
「だったら、師匠が1人で生きて行く予定なら。
婚約してもらえませんか?期間限定で。卒業後…白紙いえ破棄して下さい。
偽物になる方が良いので、僕は、誰とも婚姻したくないから。師匠と同じです。
傷物扱いなら、平民落ちになれば、この先ヴァーミリオン侯爵家にも王家にも迷惑かけないから。」
「──これは、また厄介な血筋だね。」
「堂々と泊まりがけで魔法の特訓も出来ます。師匠、お願いします。1人で生きて行けるように厳しく鍛えてください!」
面白そうな師匠と真っ青なユアンさんが対照的で、可笑しい。
「じゃ、今日は泊まりだと王宮にもレオンにも連絡しておこう。
回復薬を作ろう。教えることは山ほどあるからね。
とりあえず、お茶を飲もうか?」
静かに、家令が部屋に入って来た。
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