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第2章☆今世の過去編
7.変えられない未来
しおりを挟むside サフィア・ヴァーミリオン
「ハリス、基本は全て教えた。後はこの本を読んで。私のたった1人の弟子に渡すよ。」
学園生の頃から、ありとあらゆる魔法書を読み漁り、ずっと書き込んできた本だ。付箋も山ほど付けているし、自分で考えた魔法や魔法陣をメモしている紙も挟んでいる。
随分と分厚い。レオンには、ジェイスの本に書き込みをしている本を渡した。レオン向きの魔法を解りやすくメモしている。
「そして──君が、レイリアに教えて。あの子は、年齢の割に身体が小さいでしょう?15歳くらいになれば、君の教えについて来れると思うから。師匠からの無理なお願いなんだけど。隅々まで、読んで欲しい。サフィア・ヴァーミリオンが君を上級魔法師として認めるよ。」
ハリスは、その本を受け取り何かを言おうとしてやめた。
分かっているのだ。
これから起きる事について、私もジェイスも陛下も何も言わない事を。
杞憂に終わる事を、皆が望んでいる事を分かってくれている。
何故、私自身がレイリアに魔法を継承させないのか?
そこに答えがあるのだと、賢い君は気付いているはずだよね。
「──必ず、レイリアに継承します。安心してください、師匠。」
ハリスは、頭を下げて帰って行った。
「後、少しだね。何も、起きないで欲しい。夢ならいいのに。」
少しでも、家族と過ごす。
レオンにもレイリアにも、簡単な魔法を教える。
そして、私の最愛のジェイスの腕の中で眠る。
この温かさを、忘れない為に。
断片の未来視では、それがいつなのかは分からない。
足掻いた結果が、時間も事象もズレを生じさせるから。
私は、未来視をした事が起きるのは4~5年後だと予測していた。準備もだが、対策もして来たんだ。
何事もなくさらに月日が過ぎて、夢だったのだ。杞憂だったのかもしれない、そう思い始めた。
レイリアが7歳を越えた。
ジェイスと生きられる?
私が、レイリアに魔法を教えてあげれらる?
あんなの、未来視じゃなかったのかも知れない。だって、1週間とか1か月なんてものじゃない。
2年は、過ぎたよ。
だから4年の約束でハリスに無理矢理叩き込んだのだ。
何事も起きないならば、フォローして魔法の上達を確認する事も出来た。
杞憂に終わり、ジェイスと共に子供達とこの先が続けられるのだと思い始める。
レイリアが、また誕生日を迎える。
ジェイス…一緒に生きて行けそうだねって。
もう、大丈夫だよ。きっと。
今日、そう言うつもりだったんだ。
そして──
王宮で、事は起こったのだ。
「相変わらず、レイリアとセドリック殿下は仲良しだね。」
2人は、一緒に学び魔法も習っている。
2歳上のレオンとアルバート殿下も学園生になる前に家庭教師にみっちりとしごかれている。
休憩でソファに2人並んで座る。
セドリック殿下は、瞳の色のせいで悪い噂がつきまとう。
そうかと思えば、第2王子殿下が公爵位をもらった時の為か媚びる令嬢令息に纏わりつかれている。
その事を理解して段々と距離を置くようになっていった。
唯一の例外がレイリアだった。
あまり、笑わなくなった殿下を癒すのは、レイリアの役目のようだった。
私とノエル様は1人がけのソファにかけた。先に並んで座っていたレイリアと殿下の前にジュースが用意された。
私達にも午後のお茶が用意されて、休憩をしようとしたのだ。
先にセドリック殿下が、クッキーをレイリアの口に一つ押し付けた。
にっこり笑ったレイリアが可愛い口を開けて、パクリと食べた。
もぐもぐしながら、飲み込んだんだ。
レイリアが血を吐き、喉を抑える。
目の前で、ゆっくりとレイリアが倒れていく。
セドリック殿下がレイリアを抱きかかえようと、ソファから降りる。
もがき、口から血を流し、痙攣し始めた。
「毒だ!!レイリア!!」私は側に行こうとした。
「早く!陛下とジェイス様を呼んで!!」ノエル様が叫ぶ。
先にレイリアを抱きかかえたセドリック殿下から魔力暴走が始まった。
恐ろしいほどの魔力が溢れ出てくる。
──不味い。
魔力もだが、レイリアは何の毒を摂取したのかが分からない。
「セドリック殿下、抑えて!」
凄まじい。なんだ、この魔力の圧は。
このままでは、2人が危ない。
溢れ出た魔力が何層もの壁を作る。
警鐘が鳴る。このままでは、2人が死んでしまう──
ドアの近く、陛下もジェイスもいるのにこちら側に入れない。
この先は──
血だらけのレイリアと我を忘れたセドリック殿下。
ずっと未来視で見てきたものだ。
死ぬ運命は、私だ。
禁忌なんて、迷っている場合じゃない。
護身用のレイピアを出して胸にぐっと突き刺す。
「サフィア!!!やめろ!やめてくれ!!」
大丈夫だよ。2人を助けるだけだから。
自身の血を使い魔法陣を作る。
「セドリック殿下、魔法陣にレイリアを寝かせて。必ず助けるから。」
鮮血に染まった私を見て、理解をしたのか、魔力を抑えながら、レイリアをかかえて魔法陣の中央に入った。
血が足りない。もっと陣に流し込まなければ引き抜いていたレイピアをもう一度刺し、引き抜く。これで足りるか?
魔法陣が朱紅に光る。
殿下の魔力を吸い込んでさらに光を増す。
よし、次は、レイリアだ。
「殿下、レイリアを護ってくれてありがとう。毒は今から抜くから心配しないで。」
レイリアの口を唇で塞ぐ。
猛毒のアドリア草を混ぜたのか?
殿下が魔力で毒が心臓に回らないように頑張ってくれたのか。
だがこのままでは、助からない。
「全部、私に移すから、ね。」
痛かったね。レイリア。もう少し頑張って。魔力譲渡しながら、綺麗な血と入れ替えていく。
毒は全部、私の中へ。
だんだん、視界が狭くなって行く。
ゴフッ、ゴフッと血がこぼれていく。
殿下の魔力の暴走が止まった。壁がガラスを割るように粉砕されていく。
ジェイスも陛下もこちらに来たみたいだ。靴音が聞こえる。
ノエル様がセドリック様の側に来ている。会話から失った魔力を回復薬でゆっくりと安定させているみたいだ。
私は、レイリアを膝抱っこで抱えいた。
「サフィア!俺に毒を移せ!」
首を振る。
「血…使い過ぎちゃっ、」ゴフッ
また、血が口から出てしまう。
ごめん。レイリアにちょっと血がついちゃったね。
血の魔法陣はもう見えない。血溜まりになってしまって、輪郭も曖昧になった。
「もう、全部…全身に回ったよ。心臓に入るのをなんとか、止めてるけど、もう、無理…
この毒…は、アドリア草。
レイリアから───抜け…たと思う、熱が続くか、も…だか、ら、おねが、い。」
レイリアと殿下が王宮医の所へ連れて行かれた。
陛下が、この部屋に結界を張ってくれたみたい。
「俺を置いていくな。
一緒に、連れて行ってくれ。」
優しいこの人を置いていく。
「──ダメ。」
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もう、力は入らない。
「わたし、か、わり…まもって。」
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「──分かったよ。
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「──さい、こ、ん…し、ない?」
「お前だけしか、愛せるわけないだろう!」
「ジェイ…あいして、る。待って、る────さむぃ、よ。抱きしめて…かお、みぇ…ない。」
ジェイス、ジェイス…ごめん。寂しくさせて、ごめ、ん…
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