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短編 アカツキ荘のおしごと!
短編 アカツキ荘のおしごと!《第十七話》
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セギラン家の別荘から立ち去り、颯爽とレムリアに到着。昼食中だったアカツキ荘の集まりに合流する。
普段と違う色味なせいか、エリック達から訝しげな目で見られた為、制服の色を元に戻して。
伊達メガネ、帽子という不審者スタイルな変装を解いてから。アヴァニエの連中が調子に乗って漏らした情報を、蓄音された魔力結晶から流す。
セギラン家の人間たるクルガと悪徳クランの繋がりに、悪質な犯罪行為を何とも思わない思考の吐露。
身勝手ながらもロクでもない作戦の数々を遂行してきた彼らに対し、アカツキ荘、シュメルさんとシエラさんの表情が険しくなる。
「──とまあ、こんな感じだったね。他にも盗み聞きしたけど、別荘で働く使用人はニルヴァーナで雇われただけで深い関係じゃないっぽい。アヴァニエに対してもクルガが雇った凄腕の用心棒……という扱いなんだって」
「話を聞く限り日中は別荘で待機し、本格的な活動は夜間におこなっているようね。アヴァニエをいつ釈放したかは分からないけど……知ったところで意味は無いわ」
「そうですね。正規の手段で身柄を預かった以上、その部分を罪に問える理由がありません。ですが反省の色も見せず、立て続けに問題を起こそうというのならクルガ共々害悪でしかありませんよ」
稚拙極まりない行為と、実行に移す躊躇いの無さに大人組は大層ご立腹。何やら黒いオーラが噴き出しているようにも見える。
裏腹に、学生組は妙に静かだ。お腹いっぱいで眠いのかな……と、残してくれたお弁当のタマゴサンドを頬張りつつ、エリック達の方へ視線を向ける。
「別荘を焼き討ちして、奇襲……」
「闇夜に身を隠して、背後から……」
「お家ごと壊す……」
「エリック。あの三人が呟いてる内容、物騒過ぎるから止めて」
「嫌だよ、俺だっておっかねぇっての」
直接的な手段に出ようとしている三人から顔を逸らし、居心地が悪そうにエリックはぼやいた。
「何はともあれ、アヴァニエは今夜レムリアを強襲して破壊の限りを尽くさんとするのでしょう? 対策を立てておきたいわね」
「狙いがわかってる分、レムリアで待機、アヴァニエが侵入してきたら大義名分を掲げてタコ殴り……でもいいんですけど。実力者であることに変わりはないし、逃がしたら元も子も無い。クルガが何をしでかすかも分かりません」
「難しいですね。事前に自警団へ事情を伝えれば、団員を派遣して包囲を作れるとは思いますが……」
「あんまり派手に人を動かしたくないんですよね。アヴァニエ側も警戒してるみたいですし、察知されたら動きが変わる恐れも……エルノールさんに相談してみますか」
変わらずアヴァニエに対する殺意が高いカグヤ達を、エリックが宥める様を眺めつつ。
デバイスの通話相手にエルノールさんを指定。耳に宛がえば、コールがするかしないかの速度で応答があった。
『なんだクロ坊、また厄介事か?』
「開口一番に面倒事を持ちかけるやべー奴みたいに言わないでください。まあ、事実ですけど……時間あります?」
『ここでお前を放置する選択を取る奴なんざいねぇよ。だが、こっちだってクソ忙しいんだぞ?』
「ワイプアウターとかいう悪徳クランを一つ潰すのに尽力しましたけど、それ以外で何か問題が?」
『そこは感謝してるが、もっとやべぇのがうろついてんだよ。何年か前に鉱山送りにしたはずの奴らが釈放された挙句、ニルヴァーナで見かけたっつぅ話だ。正規の手段で身柄を引き取られたようだが、どうにも街が寝静まった頃合いで暴れ散らかしてるみてぇだ。何が目的かは知らんが、公共施設やら個人の物件に損壊を出してやがる』
「それ、アヴァニエっていう冒険者クランだったりしません? 男性五人組の実力派構成員で、蛇を掴んだ大鷲のエンブレムが特徴的」
『──なんでそこまで詳しい? 嫌な予感がするな……お前、なんか情報持ってんだろ?』
「持ってますよ。スピーカーモードにするんで、シュメルさんとも話しません?」
『アイツも絡んでんのかよ!?』
通話先で喚き立てるエルノールさんへ、持ち得た情報の全てを討ち明けた。
区画整備中のレムリアに迫る危機と事態の速さに彼は唸り、しばらくしてから。
『クロ坊が言った通り、レムリアでアカツキ荘が待機。アヴァニエの侵入が確認されたら捕縛に動き、何かしらの合図を目処に自警団で迅速にレムリアの外縁から包囲していく。そんな流れが妥当だろうな……アヴァニエの相手は任せたぞ』
「それだとクロトさん達が危険ではありませんか?」
「でも、彼女達はあんなにもやる気に満ち溢れているのよ? 加えて、いくらアヴァニエが強いといえど、修羅場をくぐり抜けてきたアカツキ荘の皆が後れを取るとは思えないわ」
「向こうからやってくるのが分かってるなら罠を仕掛け放題だし、即座に動ける自警団の人員がいればどうとでもなりますよ」
『せめて口が聞ける程度に抑えてくれよ……しかし、セギラン家のクルガねぇ』
呆れたような物言いから、エルノールさんは何か思案気味に呟く。
「何か知ってるんですか?」
『知ってるも何も、自警団と冒険者ギルドの確執を助長してる一派の一員だからな。治安報告会なんかじゃ嫌でも顔を合わせるし、悪評も耳にする。あまりにも粘着質でうっとおしいから、何とか黙らせる為に知らなくてもいい余計な情報まで仕入れちまったんだよ』
「余計な情報って何かしら?」
『お前らが初めて会った時の事件、ドラミル家の息子が違法薬物所持及び使用による罰則でお縄に掛けられたの、覚えてるか? あの後でちょいと調べてみたんだが──セギラン家とドラミル家との間には交流があり、密接な関係を築いていたらしい』
はて? それはおかしな話だ。
セギラン家はグランディアを。
ドラミル家は魔科の国を。
互いに異なる国家の領地を治める身分であり、交わることなんて無いはずなのに何故……? 疑問を察したのか、エルノールさんは言葉を紡ぐ。
『どうやらセギラン家が魔科の国へ旅行している最中、街道の土砂崩れに巻き込まれたようでな。命の危機にまで陥った窮地を救ったのがドラミル家の現当主だ。手厚い看護と保護を受けて以来、恩を返すべくクルガは親交を深めていったそうだ』
「へー。ねちっこい嫌がらせばかりする人って印象でしたけど、ちゃんと健全な思考能力も持ち合わせてるんですね」
『貴族どころか人として当然の行動だと思うがな。だが、そんな大恩をも持つ相手の倅がヘマをやらかして捕まり、挙句の果てに禁制品を所持していた事になった結果は……』
「お家の取り潰し、とまではいかなかったけど……賠償金で家計は火の車。出来の悪いお馬鹿さんのせいで悪い噂は後を絶たず、貴族としての体裁を保つ事すら厳しい状態になっちゃったわね」
『他人事みてぇに言ってるけどお前らは当事者だからな? クロ坊の事は公にしてねぇが』
「流れで事件解決に力を貸しただけなんで……」
「多額の賠償金が支払われたおかげで、レムリアの整備で多少の無茶が通るようになったのだからイイことじゃない」
「それは初耳なんですけど?」
貴族の血税を吸って発展する区画とか呪われそう……
「しかしクルガにそんな繋がりがあったなんて知りませんでした。ギルドでもあまり話す機会が無い相手でしたし…………私、気づいてしまったのですが。もしやドラミル家の復讐として、クルガは策を講じているのではないでしょうか?」
「うーん、動機としてはありえそうだなぁ。以前から報復の機会を窺っていたところに、レムリアの整備っていう大きな事業が動いた訳で……」
「表向きは冒険者ギルドの上役として、裏ではアヴァニエなどの悪徳クランを活用して妨害工作を、ということね。事の始まりはドラミル家お馬鹿さんの自業自得なのだけれど」
『失敗すりゃあシュメルの顔に泥を塗りつけ、レムリアの土地管理に問題があるとされるからな。そうなったら利権を奪い合う泥沼の戦いになるだろうよ』
「想像するだけでクソめんどくさそうですね」
シエラさんが気づいたように、クルガの思惑を少し理解できた気がする。でも、やることは変わらない。
アカツキ荘と麗しの花園、引いてはファタル商会及びシュメルさんの為にも。
「手札は全部切っておくか。本当はもっと落ち着いてから連絡しようと思ってたけど……早いか遅いかの違いでしかないからなぁ」
『なんだなんだ? またとんでもないこと仕出かすつもりじゃあないだろうな』
「クルガ、というよりは貴族としてのセギラン家に牽制できそうな人を知ってるので頼ります。ただ、事前に連絡した訳ではないので出てくれるかは定かじゃありませんが……」
「坊やの人脈には本当、驚かされてばかりね。エルノールとの通話は私のデバイスで切り返すわ。早速やってみて」
デバイスの通話を切り、代わりに自身の物を取り出したシュメルさんを横目に、再び通話一覧から目的の人物を選択。
一応、まだお昼時だから時間は取れると思うが……あっ、出てくれた。
「もしもし? 久しぶりだね、メリッサお嬢。今、時間を貰ってもいい?」
『いきなりデバイスが震え出して驚いたわ……ええ、大丈夫。何かあったの?』
『メリ……はっ!? ヴィヴラス辺境伯の愛娘じゃねぇか!?』
名前で感づいたエルノールさんの驚く声に、シュメルさん達が顔を見合わせた。
グランディアの際、ニルヴァーナの領地からも外れた“辺境”と呼ばれる土地。
その南方部分を治める辺境伯、シリウス・ド・ヴィヴラスが娘──齢十歳にして迷宮関連の事業に強い関心を持つメリッサは、快く応えてくれた。
◆◇◆◇◆
「……という感じで、現状の俺達が置かれている状況は分かってもらえたと思うけど、どう?」
『下級貴族セギラン家によるレムリアの妨害行為、ね。まだ政争に身を置いている立場ではないけれど、とてつもない野心家という噂を耳にしたことがあるわ。上昇志向は評価できるが、方向性がよろしくない……お父様はそうおっしゃっていたわ』
「うーん、ズタボロな認識を持たれていらっしゃる」
『それで? わざわざ私を通してお父様にセギラン家を牽制したい、ということ? 始めに言っておくけど難しいわよ』
「ん? そりゃまたどうして?」
『見返りが何も無いからよ。伝手があるからと言って、仮にも辺境守護を担う大貴族を顎で使うつもり? セギラン家は確かに目障りな存在だけど、際立った問題を起こしたという証拠が無い以上弾劾はできない。ヴィヴラス家に明確な不利益をもたらす可能性でもない限り、手の出しようがないのよ』
「そっかぁ……じゃあレムリアで採れた迷宮野菜、お嬢の所に流そうと思ったけどニルヴァーナで使っちゃうね。うん、地産地消だ」
『待ちなさい。……そうか、最初からそのつもりで私に連絡してきたのね!? 意地の悪いこと考えるじゃない!』
「分かってくれたみたいで助かるよ。想像よりもニルヴァーナの収穫率が高くてね、消費が追いつかないかもしれないからさ。迷宮料理のサンプルを作れるだけの量は確保しておきたいでしょ? しかも安全、確実に、安価なお値段で……これで取り引きになるかな?」
『セギラン家の行動を許せば私の、引いてはヴィヴラス家の損失になり、レムリアとの商談も消えてなくなる。しかもウィコレ商会とも関係が有るのなら、無駄にはできない……理解したわ。今夜にでもお父様へ伝えてみる』
「助かるよ。ありがとう、急なお願いなのに聞いてくれて」
『構わないわ。私と貴方の仲だもの、これくらいは喜んで骨を折りましょう。吉報をお待ちくださいな』
「ああ、頑張って」
『……凄まじいやり口を聞いちまった気がするぜ』
「これが一番手っ取り早いと思います。でも、シュメルさんに断りもなく勝手に話を進めちゃってすみません」
「いいのよ、坊やがやりたいようにやれば。波乱万丈な過程を経ても、最良の結果が後からついてくるものよ」
「言い得て妙というか、事実そうなってますからね……」
「何はともあれ、残った準備はアヴァニエを捕まえる為の罠を張り巡らせることだけだ。へっへっへ、迷宮で培ったトラップの知識を総動員してやるぜ……!」
『何度も言うようだが、口が聞ける程度に抑えてくれよ? 後処理が面倒だからな』
「分かってますよ。さーて、アカツキ荘から道具を持ってこないとね」
普段と違う色味なせいか、エリック達から訝しげな目で見られた為、制服の色を元に戻して。
伊達メガネ、帽子という不審者スタイルな変装を解いてから。アヴァニエの連中が調子に乗って漏らした情報を、蓄音された魔力結晶から流す。
セギラン家の人間たるクルガと悪徳クランの繋がりに、悪質な犯罪行為を何とも思わない思考の吐露。
身勝手ながらもロクでもない作戦の数々を遂行してきた彼らに対し、アカツキ荘、シュメルさんとシエラさんの表情が険しくなる。
「──とまあ、こんな感じだったね。他にも盗み聞きしたけど、別荘で働く使用人はニルヴァーナで雇われただけで深い関係じゃないっぽい。アヴァニエに対してもクルガが雇った凄腕の用心棒……という扱いなんだって」
「話を聞く限り日中は別荘で待機し、本格的な活動は夜間におこなっているようね。アヴァニエをいつ釈放したかは分からないけど……知ったところで意味は無いわ」
「そうですね。正規の手段で身柄を預かった以上、その部分を罪に問える理由がありません。ですが反省の色も見せず、立て続けに問題を起こそうというのならクルガ共々害悪でしかありませんよ」
稚拙極まりない行為と、実行に移す躊躇いの無さに大人組は大層ご立腹。何やら黒いオーラが噴き出しているようにも見える。
裏腹に、学生組は妙に静かだ。お腹いっぱいで眠いのかな……と、残してくれたお弁当のタマゴサンドを頬張りつつ、エリック達の方へ視線を向ける。
「別荘を焼き討ちして、奇襲……」
「闇夜に身を隠して、背後から……」
「お家ごと壊す……」
「エリック。あの三人が呟いてる内容、物騒過ぎるから止めて」
「嫌だよ、俺だっておっかねぇっての」
直接的な手段に出ようとしている三人から顔を逸らし、居心地が悪そうにエリックはぼやいた。
「何はともあれ、アヴァニエは今夜レムリアを強襲して破壊の限りを尽くさんとするのでしょう? 対策を立てておきたいわね」
「狙いがわかってる分、レムリアで待機、アヴァニエが侵入してきたら大義名分を掲げてタコ殴り……でもいいんですけど。実力者であることに変わりはないし、逃がしたら元も子も無い。クルガが何をしでかすかも分かりません」
「難しいですね。事前に自警団へ事情を伝えれば、団員を派遣して包囲を作れるとは思いますが……」
「あんまり派手に人を動かしたくないんですよね。アヴァニエ側も警戒してるみたいですし、察知されたら動きが変わる恐れも……エルノールさんに相談してみますか」
変わらずアヴァニエに対する殺意が高いカグヤ達を、エリックが宥める様を眺めつつ。
デバイスの通話相手にエルノールさんを指定。耳に宛がえば、コールがするかしないかの速度で応答があった。
『なんだクロ坊、また厄介事か?』
「開口一番に面倒事を持ちかけるやべー奴みたいに言わないでください。まあ、事実ですけど……時間あります?」
『ここでお前を放置する選択を取る奴なんざいねぇよ。だが、こっちだってクソ忙しいんだぞ?』
「ワイプアウターとかいう悪徳クランを一つ潰すのに尽力しましたけど、それ以外で何か問題が?」
『そこは感謝してるが、もっとやべぇのがうろついてんだよ。何年か前に鉱山送りにしたはずの奴らが釈放された挙句、ニルヴァーナで見かけたっつぅ話だ。正規の手段で身柄を引き取られたようだが、どうにも街が寝静まった頃合いで暴れ散らかしてるみてぇだ。何が目的かは知らんが、公共施設やら個人の物件に損壊を出してやがる』
「それ、アヴァニエっていう冒険者クランだったりしません? 男性五人組の実力派構成員で、蛇を掴んだ大鷲のエンブレムが特徴的」
『──なんでそこまで詳しい? 嫌な予感がするな……お前、なんか情報持ってんだろ?』
「持ってますよ。スピーカーモードにするんで、シュメルさんとも話しません?」
『アイツも絡んでんのかよ!?』
通話先で喚き立てるエルノールさんへ、持ち得た情報の全てを討ち明けた。
区画整備中のレムリアに迫る危機と事態の速さに彼は唸り、しばらくしてから。
『クロ坊が言った通り、レムリアでアカツキ荘が待機。アヴァニエの侵入が確認されたら捕縛に動き、何かしらの合図を目処に自警団で迅速にレムリアの外縁から包囲していく。そんな流れが妥当だろうな……アヴァニエの相手は任せたぞ』
「それだとクロトさん達が危険ではありませんか?」
「でも、彼女達はあんなにもやる気に満ち溢れているのよ? 加えて、いくらアヴァニエが強いといえど、修羅場をくぐり抜けてきたアカツキ荘の皆が後れを取るとは思えないわ」
「向こうからやってくるのが分かってるなら罠を仕掛け放題だし、即座に動ける自警団の人員がいればどうとでもなりますよ」
『せめて口が聞ける程度に抑えてくれよ……しかし、セギラン家のクルガねぇ』
呆れたような物言いから、エルノールさんは何か思案気味に呟く。
「何か知ってるんですか?」
『知ってるも何も、自警団と冒険者ギルドの確執を助長してる一派の一員だからな。治安報告会なんかじゃ嫌でも顔を合わせるし、悪評も耳にする。あまりにも粘着質でうっとおしいから、何とか黙らせる為に知らなくてもいい余計な情報まで仕入れちまったんだよ』
「余計な情報って何かしら?」
『お前らが初めて会った時の事件、ドラミル家の息子が違法薬物所持及び使用による罰則でお縄に掛けられたの、覚えてるか? あの後でちょいと調べてみたんだが──セギラン家とドラミル家との間には交流があり、密接な関係を築いていたらしい』
はて? それはおかしな話だ。
セギラン家はグランディアを。
ドラミル家は魔科の国を。
互いに異なる国家の領地を治める身分であり、交わることなんて無いはずなのに何故……? 疑問を察したのか、エルノールさんは言葉を紡ぐ。
『どうやらセギラン家が魔科の国へ旅行している最中、街道の土砂崩れに巻き込まれたようでな。命の危機にまで陥った窮地を救ったのがドラミル家の現当主だ。手厚い看護と保護を受けて以来、恩を返すべくクルガは親交を深めていったそうだ』
「へー。ねちっこい嫌がらせばかりする人って印象でしたけど、ちゃんと健全な思考能力も持ち合わせてるんですね」
『貴族どころか人として当然の行動だと思うがな。だが、そんな大恩をも持つ相手の倅がヘマをやらかして捕まり、挙句の果てに禁制品を所持していた事になった結果は……』
「お家の取り潰し、とまではいかなかったけど……賠償金で家計は火の車。出来の悪いお馬鹿さんのせいで悪い噂は後を絶たず、貴族としての体裁を保つ事すら厳しい状態になっちゃったわね」
『他人事みてぇに言ってるけどお前らは当事者だからな? クロ坊の事は公にしてねぇが』
「流れで事件解決に力を貸しただけなんで……」
「多額の賠償金が支払われたおかげで、レムリアの整備で多少の無茶が通るようになったのだからイイことじゃない」
「それは初耳なんですけど?」
貴族の血税を吸って発展する区画とか呪われそう……
「しかしクルガにそんな繋がりがあったなんて知りませんでした。ギルドでもあまり話す機会が無い相手でしたし…………私、気づいてしまったのですが。もしやドラミル家の復讐として、クルガは策を講じているのではないでしょうか?」
「うーん、動機としてはありえそうだなぁ。以前から報復の機会を窺っていたところに、レムリアの整備っていう大きな事業が動いた訳で……」
「表向きは冒険者ギルドの上役として、裏ではアヴァニエなどの悪徳クランを活用して妨害工作を、ということね。事の始まりはドラミル家お馬鹿さんの自業自得なのだけれど」
『失敗すりゃあシュメルの顔に泥を塗りつけ、レムリアの土地管理に問題があるとされるからな。そうなったら利権を奪い合う泥沼の戦いになるだろうよ』
「想像するだけでクソめんどくさそうですね」
シエラさんが気づいたように、クルガの思惑を少し理解できた気がする。でも、やることは変わらない。
アカツキ荘と麗しの花園、引いてはファタル商会及びシュメルさんの為にも。
「手札は全部切っておくか。本当はもっと落ち着いてから連絡しようと思ってたけど……早いか遅いかの違いでしかないからなぁ」
『なんだなんだ? またとんでもないこと仕出かすつもりじゃあないだろうな』
「クルガ、というよりは貴族としてのセギラン家に牽制できそうな人を知ってるので頼ります。ただ、事前に連絡した訳ではないので出てくれるかは定かじゃありませんが……」
「坊やの人脈には本当、驚かされてばかりね。エルノールとの通話は私のデバイスで切り返すわ。早速やってみて」
デバイスの通話を切り、代わりに自身の物を取り出したシュメルさんを横目に、再び通話一覧から目的の人物を選択。
一応、まだお昼時だから時間は取れると思うが……あっ、出てくれた。
「もしもし? 久しぶりだね、メリッサお嬢。今、時間を貰ってもいい?」
『いきなりデバイスが震え出して驚いたわ……ええ、大丈夫。何かあったの?』
『メリ……はっ!? ヴィヴラス辺境伯の愛娘じゃねぇか!?』
名前で感づいたエルノールさんの驚く声に、シュメルさん達が顔を見合わせた。
グランディアの際、ニルヴァーナの領地からも外れた“辺境”と呼ばれる土地。
その南方部分を治める辺境伯、シリウス・ド・ヴィヴラスが娘──齢十歳にして迷宮関連の事業に強い関心を持つメリッサは、快く応えてくれた。
◆◇◆◇◆
「……という感じで、現状の俺達が置かれている状況は分かってもらえたと思うけど、どう?」
『下級貴族セギラン家によるレムリアの妨害行為、ね。まだ政争に身を置いている立場ではないけれど、とてつもない野心家という噂を耳にしたことがあるわ。上昇志向は評価できるが、方向性がよろしくない……お父様はそうおっしゃっていたわ』
「うーん、ズタボロな認識を持たれていらっしゃる」
『それで? わざわざ私を通してお父様にセギラン家を牽制したい、ということ? 始めに言っておくけど難しいわよ』
「ん? そりゃまたどうして?」
『見返りが何も無いからよ。伝手があるからと言って、仮にも辺境守護を担う大貴族を顎で使うつもり? セギラン家は確かに目障りな存在だけど、際立った問題を起こしたという証拠が無い以上弾劾はできない。ヴィヴラス家に明確な不利益をもたらす可能性でもない限り、手の出しようがないのよ』
「そっかぁ……じゃあレムリアで採れた迷宮野菜、お嬢の所に流そうと思ったけどニルヴァーナで使っちゃうね。うん、地産地消だ」
『待ちなさい。……そうか、最初からそのつもりで私に連絡してきたのね!? 意地の悪いこと考えるじゃない!』
「分かってくれたみたいで助かるよ。想像よりもニルヴァーナの収穫率が高くてね、消費が追いつかないかもしれないからさ。迷宮料理のサンプルを作れるだけの量は確保しておきたいでしょ? しかも安全、確実に、安価なお値段で……これで取り引きになるかな?」
『セギラン家の行動を許せば私の、引いてはヴィヴラス家の損失になり、レムリアとの商談も消えてなくなる。しかもウィコレ商会とも関係が有るのなら、無駄にはできない……理解したわ。今夜にでもお父様へ伝えてみる』
「助かるよ。ありがとう、急なお願いなのに聞いてくれて」
『構わないわ。私と貴方の仲だもの、これくらいは喜んで骨を折りましょう。吉報をお待ちくださいな』
「ああ、頑張って」
『……凄まじいやり口を聞いちまった気がするぜ』
「これが一番手っ取り早いと思います。でも、シュメルさんに断りもなく勝手に話を進めちゃってすみません」
「いいのよ、坊やがやりたいようにやれば。波乱万丈な過程を経ても、最良の結果が後からついてくるものよ」
「言い得て妙というか、事実そうなってますからね……」
「何はともあれ、残った準備はアヴァニエを捕まえる為の罠を張り巡らせることだけだ。へっへっへ、迷宮で培ったトラップの知識を総動員してやるぜ……!」
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これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~
エース皇命
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学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。
そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。
「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」
なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。
これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。
※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
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