自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

文字の大きさ
上 下
228 / 249
【六ノ章】取り戻した日常

第一三五話 いざ、霊峰へ向けて《依頼編》

しおりを挟む
 退学を賭けた冒険者ランクの昇格を目指して、奮闘することとなるクロトとセリス。
 師となる者から新たな武器、編み出した魔法、スキルを手に入れて準備は万全。
 そしてフレンが選定してきた依頼の内容は、新進気鋭な商会の若手育成を目的とした護衛。その行き先は、過去にクロトが訪れた経験のある“霊峰”だった。
 歴戦のワイバーンと繰り広げた死闘を想起し、苦い表情を浮かべながらも。
 快く送り出してくれるアカツキ荘のメンバーに、不甲斐ない結果をもたらさない為にも。
 二人は気合いを入れて、初の護衛依頼に挑むのだった。

 ◆◇◆◇◆

 怒涛の展開を乗り越えた翌日、早朝、アカツキ荘の前で。
 護衛依頼に挑む俺とセリスはバックパックを背負い、エリック達──ユキはまだ眠っている──と最終確認をおこなっていた。

「今日から三泊四日の旅になるぞ。忘れ物は無いか?」
「「大丈夫!」」
「お弁当はしっかり持ちましたね。ハンカチは?」
「「あります!」」
「あちらからの申し出とはいえ学生としての礼儀は欠かさず、失礼が無いようにしてくださいね?」
「「可能な限りは!」」
「そこはちゃんと保証してほしいんだけど……」

 一晩経って“命の前借り”による興奮作用が抜け切ったのか。
 加えて《ウィッチクラフト》がもたらした効能も切れたのだろう。疲労を踏み倒し続けた反動によって、十分な睡眠を取ったにも関わらず憔悴しょうすいしている学園長がぼやく。

「まあ、学園長の顔に泥を塗るようなマネはしないよ。アタシだってその辺はわきまえてる」
「向こうの商会に突発的な問題が起きたとしても、それは俺達が関与したことじゃないから素知らぬ顔で流せばいいんでしょ? 分かってるって」
「出来る限り依頼主の意向を聞いてから行動を起こして? 依頼を完遂しないといけないんだからね?」

 学園長という立場として、護衛依頼を斡旋した側としても一抹いちまつの不安を抱いているようだ。

「仮に何かあったとしても、道中や仕入れ先でトラブルが起きたら武力行使もいとわないよ」
「バレないようにやれるか……? 俺が指示すればいけるか」
「ダメだこの二人、思考が無法者に寄り過ぎてる」
「ただでさえ郊外に慣れていないお二人ですからね」
「ニルヴァーナ内だけで色々と完結している環境が仇となりましたか……」
「マジで先方の意見を聞いてから動けよ? お前らだけじゃなくてアカツキ荘の心証も悪化するかもしれねぇんだぞ」

 再三に渡り注意を促すエリック達の言葉をしっかりと聞き入れて、様々な思惑の混じった視線に見送られてギルドへ歩き出す。
 学園の敷地と居住区を跨ぐ門を抜けて、青空市場の活気と人波で溢れる大通りメインストリートに出る。

 朝であるのに本格的な夏の始まりを感じる日差しが、ルーン文字で刻んだ“温度調節”を貫いているのが肌で実感できた。
 同時に納涼祭の一件で顔が割れたこともあってか、ささやくような声が至る所から響いてくる。それは興味か、好奇心か、はたまた悪意か……どちらにせよ、気に掛けることではない。

 やがて見慣れた冒険者ギルドの建物が見えてきた。中に入れば、依頼の貼られた掲示板に群がる冒険者と忙しく動き回る職員の姿があった。
 だが、俺の姿に気づいた何人かが気取られないように、平静を装って視線を向けてきている。動向が気になっているか? 本当に有名人となってしまったみたいだな。

 それらを尻目に受付カウンターへ向かい、学園長から渡された依頼書を差し出す。
 既に事前通達されていたのか円滑に手続きは進められ、指定した場所へ向かうように指示を受けた。変わらず向けられる視線を、ギルドの扉を閉めることで遮り再び大通りメインストリートへ。

 東西南北に延びる通りの先には巨大な門と、飛行型魔物モンスターの侵入を拒む魔力障壁を補填する物理的な外壁。
 行商に出る商人や出稼ぎにきた村人、何台もの馬車が並ぶ中で一人、若い男性がこちらに手を振り駆け寄ってくる。

「ぱっとしない顔にゴテゴテした魔装具が付いた剣、槍を持った少女……写真と相違は無いから間違いない。今回の護衛依頼を受注した学生冒険者だね?」
「あれ、いま見知らぬ人にけなされた?」
「良い感じに的を得てる印象を抱かれてるってことじゃないか?」

 自覚してる分、ダメージも大きいな……

「いや、すまない。商会の先輩方がそう言っているのを盗み聞いてしまって、つい口に……失礼なことを」
「いえ、お気になさらず。自分はクロト、こちらはセリスです。貴方が護衛依頼で隊商を任された方ですか?」
「ああ。私はウィコレ商会所属の商人、ロベルトだ。仕入れ先となる“霊峰”までよろしく頼むよ」
「「よろしくお願いします!」」

 謝罪を手で制して自己紹介を交わし、ロベルトさんが用意した馬車に移動。
 隊商といっても内訳としては、人が十数人は乗れそうなほど大型の屋根付き荷台に見合う大柄の馬が二頭。そこにロベルトさんと俺達のごく小規模なもの。
 一般的とは言いがたく、若手を育成する為という名目上に相応しい、最低限な要素のみで仕入れを任せられているようだ。

 馬車の積載物や進行ルートの確認をしつつ歓談していると、俺達の番がやってきた。門番とやり取りを交わし終えたロベルトさんは、良い商いを! と投げかけられた言葉に手を振って返す。
 御者として手綱を握る彼は馬に指示を出し、馬車は動き出した。

 ガタガタと揺れる振動を全身に感じながら、外壁周辺に広がる牧場地帯を横切り、街道を進んでいく。
 少し離れた位置で、魔素混じりの黒煙を上げながら疾走する魔導列車が走っている。
 旅立ちを応援するかの如く汽笛を鳴らす魔導革命の産物を眺めながら、俺達は“霊峰”に向けてニルヴァーナを後にした。

 ◆◇◆◇◆

「ところでお前さん、確か乗り物酔いが酷いっつー話じゃなかったかい? 何か対策はあるのか?」
「ふふん、舐めてもらっちゃあ困るね。俺がいつまでも自分の弱点を克服しないままでいるとでも? ちゃーんと考えてきてるんだなぁ、これが」
「へぇ、どんなの?」
「名付けて“安定認識薬”! これさえあればどれだけ揺れの酷い乗り物に乗っていようが酔わず、吐かず、平常で居られるはずさ!」
「すごい薬を作っているんだな、君は。鍛冶や錬金術に精通しているとは聞いていたが……」
「師匠の教えが良かったんですよ。とにかく、長年苦しめられていた乗り物酔いに終止符が打てる……それじゃ、一気飲みでいきます!」
「馬車移動中、アタシだけで周囲を警戒する必要が無くなるからありがたいねぇ」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

処理中です...