自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【六ノ章】取り戻した日常

第一二九話 休日を越えて、期末試験へ

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 勉強会で丸一日を使い切った翌日。
 先にアカツキ荘を出たシルフィ先生と学園長の後で、無事に復活を果たし元気になったセリスを伴って学園へ。
 やはり納涼祭での大立ち回りが話題になっているのか、四方八方から視線を感じるが意にも介さず。

 男子・女子寮から出てきたキオ達と合流し、ユキは初等部の教室に。
 俺達は二年七組の教室に向かう傍ら、窓からグラウンドを眺める。
 納涼祭で準備されていた施設や出店は綺麗さっぱり跡形もなく片付けられていた。
 あれだけ賑やかな空間が広がっていたとは思えない、閑散とした空気。元通りになっただけだというのに、随分と物寂しく感じる。

「ツラいね。楽しい時間はすぐに過ぎて、すぐに学生としての責任が問われるんだから……」
「なに物憂げに黄昏れてんだ、さっさと行くぞ」

 感傷に浸ってたらエリックにえりを掴まれ連行された。嗚呼ああ、無情なり。

「おっ? 噂になってる連中が来っ、なんで引きずられてんだお前」
「おはよう、デール。これは気にしないでくれ」
「それより噂ってなんだい?」

 教室に入ってすぐデールからツッコミを受けて、流してくれるように手で制す。
 困惑して眉を寄せる彼の言葉に、首を傾げたセリスが問う。

「納涼祭の裏で暗躍していた悪党の計画を打ち砕いた、若き冒険者たち! しかもニルヴァーナ最高権力者に加えて自警団団長。“夜空の宝石”とも揶揄される歓楽街の長シュメルに認められてるのに、注目されないなんてありえねぇぜ」
「もしかしてアカツキ荘の皆が評判になってるっぽい?」
「らしいな。結果的にではあるがドレッドノートを討伐した後、全員で再開発区画から戻ってきた訳だし」
「その光景を見た人なら、そう思ってしまうのも無理はありませんね」
「しれっとルシアもアカツキ荘の一員に組み込まれてないかい? 力を貸してくれたのは確かだから、異論がある訳じゃあないが」

 デールの言う通り、ソワソワしながら遠巻きにこちらを見つめる同級生たちが目立つ。どうやら納涼祭の一件でプチ有名人と化しているらしい。
 傍目はためから見ても複雑な事情が絡んだ事件を終結させたから、当然と言えば当然。だが……起因が俺への復讐なせいで、マッチポンプ感が強い。
 そこはかとない罪悪感に慣れなくては。

「まっ、いわゆる時の人状態ってやつさ。少し時間が経てば治まるだろ。気になる事も聞きたい事も山ほどあるが、俺達にとって現状一番重要なのは……期末試験だからな」
「……なるほど」

 諦めが滲んだ暗い顔で項垂うなだれるデールの一言で、周りからため息が生まれた。
 気にはなるが質問攻めしてこないのは、期末試験の為に自分を追い込んでいて余裕が無いからだ。
 なにせ今年の納涼祭は彼らにとってリベンジマッチとでも言うべき目標であり、必ず成功させると意気込み、取り組んでいた。それ以外に時間を割いていなかったのだ。
 つまりはセリスと似たような状態になっている為、空いた時間を全力で勉強についやしている。

「あんな騒動があった後だから延期でもされると思ってたが、休日中に何の通告も無いとくれば、通常通りに期末試験が実施されると見て間違いない」
「そもそも今まで試験が延期になった事なんて一度も無いじゃん」
「性悪学園長の事だから、納涼祭で浮かれ切った俺達を補修漬けにしようと考えてんじゃね?」
「この調子だと実技試験も難題を吹っかけられそうね……憂鬱だわ」

 デールの発言に返答する、比較的余裕がありそうなドワーフ。
 濃い隈が付いた顔を上げてぼやく妖精族。
 不機嫌そうに耳を絞り、表情を歪ませる獣人族。
 各々が期末試験に向けて並々ならぬ感情を向けているようで、気づけばヒリついた空気が教室に流れていた。

「あと少しの猶予しかないんだ……赤点取らないようにしないとな。長期休暇を補修で潰されんのはさすがに嫌だぜ」
「俺らも他人事じゃねぇし、ホームルームが始まるまで自習しとくか」

 自分の席に戻っていくデールを見送り、エリックの提案に頷いてカバンから教科書を取り出し、席に座る。
 期末範囲の確認をしているとホームルームを告げる鐘が鳴り響く。少ししてからシルフィ先生が教室に入ってきて、教壇に立つ。

「皆さん、おはようございます。既にご存じの方もおられると思いますが、三日後に期末試験の筆記がおこなわれます」

 容赦ない現実を突きつける宣言。
 彼女の言葉が重くのしかかり、何人かの顔が曇る。

「凄まじい力の入れようでしたからね。納涼祭が終わって気が緩み、勉学に身が入らない方も多いかと。なので──僭越ながら、期末試験の範囲を簡易的にまとめた対策用紙をご用意しました」
『っ!?』
「あくまで中間から期末までの内容を大まかに寄せ集めただけの物ですが、参考にはなりますよ。皆さんの成績が落ちる事は、私も本意ではありませんから。……それでは出席番号の順番で受け取りに来てください」
『うおおおおおおっ!』

 地獄に垂らされた一本の糸。
 わらにもすがりたい気持ちでいっぱいなデール達にとっては一縷いちるの希望。
 歓喜に震えた雄叫びが反響し、対策用紙を掲げた先生の下へ生徒が殺到。列を成す様はまるで砂糖に群がる蟻のようだぁ……しばらくして俺の番になった為、中身を確認してみる。
 二、三枚程度ではあるが確かに要点を的確に記してある、勉強会で解いた物とは別の対策用紙だ。

 ……今更ながら、本来の業務に合わせてこれだけの問題を作りあげるのはかなりの激務だったのでは? にもかかわらず日頃の疲れを見せず、学園長みたいにわめき散らすこともない。
 教師としての本分を限りなくまっとうしているかがみのような存在だな。心の中で、先生へ改めて敬意を表してから席に戻る。
 最後の一人──確か七組内で唯一、中間で名前を記入し忘れて赤点になった──を慰めてから、先生は手を叩き注目を集めた。

「皆さんに行き渡りましたね? 期末試験さえ乗り切れば、残りは実技のみ。納涼祭での騒ぎがあり、冒険者ギルドの方で人員編成が行われる為、例年よりも難易度は下がるそうです。皆さんであれば容易に達成できるでしょうから、楽しい休みを迎える為にも頑張りましょうね!」
『はいっ!!』

 絶望の筆記試験に希望が見えた七組の士気が右肩上がりのまま。
 やる気に満ちた返事に先生が頷くと、ホームルーム終了の鐘が鳴った。










「最後に連絡事項ですが……先ほどギルドで人員編成があると言ったように、学園でとある教師が問題を起こしたため対処に見舞われている最中です。手隙の者がほとんどいないので、筆記試験まで全ての授業が自習になります。監督者もいません」
『えっ』
「ご不便だとは思いますが教室で自主学習に取り組んでいてください。時間を作っては様子を見に来ますので、不明な点があればその時に質問をお願いします」
『……あっ、はい』

 心底申し訳なさそうに頭を何度も下げて、ホームルームを切り上げて。先生はそそくさと教室を出ていき、室内に沈黙が降りる。
 ……きっと報道クラブ関連の問題だよな。ジャンを筆頭に黒い噂が絶えない組織だったみたいだし、叩けば叩くほど余罪が埃のように出てくるのだろう。
 その対処に教職員が駆り出され、試験までずっと自習にさせるほど忙しいとは……学園長が毎朝荒れてたのにも納得がいく。

「……まあ、自室で勉強してろって言われても集中できねぇだろうし。学園でひとまとめにしておいた方が楽だわな」
「むしろ数日だけとはいえ、勉強する範囲がせばまるから楽だね」
「だな。ありがたい機会をくれたことだし、大人しく勉学に励むとするか」

 エリックの言葉に頷いて、新たに渡された対策用紙の項目を確認し教科書を開く。

「わりぃ、アタシも混ぜてくれぇ~数学キツいよ~」
「一人でやるより効率が良いので、私も……」

 少し時間が経ってから、自身の苦手を克服しようとしたものの断念したセリス。
 その様を見かねて手伝いを申し出る為か、困ったように笑うカグヤと席を合わせて。いつものアカツキ荘メンバーで自習を行うことに。

「やれやれ、これじゃあ勉強会と何も変わらねぇぜ……別にいいけどよ」
「違う面子が欲しいなら、デールが羨ましげにこっちを見てるけど。混ぜる?」
「……わかんねぇ問題があったら聞きに来ればいいんじゃね。後の事は知らん」
「おいっ。暗に俺の頭が悪いみたいに言うんじゃねぇ!」
「中間の成績で赤点スレスレだったのはどこのどいつだっけなぁ? クロトやセリスにすら負けて赤っ恥かいてたのは誰だっけなぁ?」
「こんのヤロウ……見てろよ、期末の結果で度肝を抜いてやるぜ! それはそれとしてこの問題の対策を教えやがれ!」
「良い感じの啖呵切っといて情けなくないのかい?」
「自分の為になるなら敵を利用する精神は嫌いじゃないよ。カッコ悪いけど」
「クロトさん、あまり正直な事を口にしてはいけないかと……」

 何気に一番ドギツいフォローを入れるカグヤに叩きのめされても。
 へこたれず何度も質問に来るデールや他の同級生も交えて。
 窓から入り込む、初夏とは比べ物にならない本格的な熱を含む風を感じながら。
 俺達は筆記試験に向けた追い込みを仕掛けるのだった。
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