自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【六ノ章】取り戻した日常

第一二四話 白の魔剣

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「魔剣の意思に異能、特性、適合者はともかく多重適合者、残存する十二本、カラミティが所有する本数、真なる価値……? なにそれ、知らん……ボクが空いた時間で必死こいて調べた情報とかカスだわ……」
「そんな卑下しなくても」

 二杯目のお茶を飲み干し、話せば話すほど俯いていくノエルの肩を叩いて励ます。
 話を聞くに彼女が持つ白の魔剣の意思と共に、思い起こした断片的な記憶の内容から独自に調査を進めていたそうだ。
 だが、魔剣の意思が三人とアカツキ荘の仲間がいるこちらと違って、ノエルは二人しかいないことも関係して進捗はかんばしくなく。
 明かした情報の全てに目を見開き、驚愕の表情を浮かべ、ついには心が折れた。おいたわしや……

「というか何さ《パーソナル・スイッチ》と完全同調フルシンクロって。人格の交代と共存? そんなこと出来るの? 精神崩壊しない?」
「俺らも初めて話を聞いた時はこんな感じだったなぁ」
「クロトさんだから、と安易に流していましたが、これが正常な反応ですよね」
「今まさに実演してみせたらどうだい? その方が納得するだろ」
『そう言われると思い、既に交代済みだ』
「うわぁ!? クロト君の声が変わってる! えっと、レオさん……でいいんだよね?」
『好きなように呼んでもらって構わん。ゴートとリブラスも同様に、だ』
「複数の魔剣を抱えてるのにも驚いたけど、結構仲良くやってるんだね……」
「ノエルは違うの? 十本勝負の時、魔剣の意思に身体を動かしてもらって矢を防いでたくらいだし」
『えっ』

 瞬間的に身体の主導権を切り替えて。
 難しい話に飽きたユキへ、ソファーに置かれていたぬいぐるみを手渡しながら問えば、返ってきたのはエリック達の困惑。
 当のノエルは嘘でしょ、とでも言わんばかりに顔を覗き込んできた。

「気づいてたの!?」
「そりゃもちろん。明らかに自分の意思で動かしたように見えなかったからね……だからって、あの勝負にケチをつけたい訳じゃあないけど」
「でも、ズルだって思わなかったの?」
「メイン武器が魔剣な時点で可能性は考えてたさ。異能は使わなくても魔剣の意思に補助くらいはしてもらうだろうな、って。それに、俺もトリックマギアを持ち込んで好き勝手にやったし、どっちもどっちだよ」

 あの場に持ち込んだ全てを活用して到達した結果だ。悔いはない。

『──どうやら、そちらの適合者は私が想像しているより、立派な心意気をお持ちなようだ。このまま黙していては失礼に当たる……』

 十本勝負の激闘を思い返していると、聞き覚えの無い声が響いた。発信源はノエルからだ。

「実際に言葉を交わすのは今回が初めてだね。リブラスに続いて、女性の意思は二人目か」
『場を無闇に混乱させるものではないと、口を出さずにいましたが……礼を欠いた対応を取ってしまい、申し訳ありません』
「大丈夫、なんとも思ってないよ。ノエル、よければ紹介してくれない?」

 平然と会話を進める俺と、既にレオ達で慣れ切ったせいか興味深そうに見つめるエリック達。
 ノエルは注目を浴びて挙動不審になりながらも、咳払いを一つ落として。
 右手をテーブルに置き、光が灯ったかと思えば、淡く明滅を繰り返す片手剣が横たわった。

「それじゃ、改めて……ボクは白の魔剣の適合者で、こっちは」
『お初にお目にかかります。私はを携えし、白の魔剣の意思。ノエルより頂いた名をヴィルゴと申します──以後、お見知りおきを』

 ◆◇◆◇◆

「それじゃあ、ヴィルゴもレオやゴートと同じくらいの記憶しか持ってないんだ?」
「うん。だからあんまり当てにならなくて、手探りで頑張ってたんだけど……」
『既にお分かりの通り、ノエルは多忙の身で私の力不足もあり、上手く事は進まず手詰まりでした。故に、貴方達の申し出は正に渡りに船……非常に助かります』

 テーブルに置かれた白の魔剣、ヴィルゴとノエルは気まずそうに呟く。
 しばらく話してみたところ、ヴィルゴの口調や性格はちょっと丸くなったレオのような感じだった。
 ノエルが適合者となった日から度々たびたび会話を交わして、ほんの数日で現在のような間柄となったらしい。

 じゃあ魔剣の精神空間にも入ったの? と聞いたら何それ? と返された。
 レオにゴート、リブラスも言っていたが、やはり精神空間に殴り込んで対話をこころみるのは正気の沙汰ではないようだ。
 真面目そうなヴィルゴにすらドン引きされた。悲しい。

「こうなってくると、頼りになる情報源はリブラスだけになるのか。クロト、その辺はどうなってんだ?」
「今はレオ達でリブラスが覚えてる記憶から有益そうなモノをまとめてる。どういう形状の魔剣と対峙したことがあるか、その際にどんな異能が使われていたか、とかね。ただ、思い出すのに時間が掛かりそうだからこっちでも調査しておきたい」
「ですが、何を指標にすれば……」
「レオが言うには魔剣、というより適合者同士の争いは苛烈で甚大な被害を周囲にもたらしていた。となれば、時代別の資料や口伝の言い伝え、民謡のような形で残されているんじゃないかな」
「ははぁ、なるほど? 実際に目撃したかはともかく、警句やら伝承として今も語り継がれていると読んでる訳かい」
「それにヴィルゴの異能を聞いて思ったんだけど、レオやゴートと違って善良っぽいイメージの物は名称が変わってる可能性がある。例えば……聖剣、霊剣と呼ばれて国宝とか信仰の対象とされてる、みたいな」
「受け取り方次第じゃ、人の見る目も変わる、か。……すごいなぁ、そこまで頭が回らなかったよ」

 ノエルは顎に手を当て、神妙そうに頷く。
 再生の異能がどれ程までの力を持っているかは分からないが、ありえる話ではあるのだ。
 それにアーティファクト扱いされていたレオはともかく、ゴートとリブラスははどこかから盗まれた物である可能性が高い。
 影響力のある魔剣を紛失したとなれば、大々的に捜索の報せを出していてもおかしくない。そういった資料が見つかれば、アタリはつく。

「俺達がこれからやらなくちゃいけないのは、魔剣の情報を収集し推理して、カラミティよりも早く回収すること。真なる価値とやらを発揮させない為にも、全力で取り組もう」
『了解!』

 はからずしも音頭取りとなってしまったが、普通に受け入れられているようだ。いいのか、それで。

『……なるほど。貴方に魔剣が集まる理由が、少し分かった気がします』

 納得がいったと言わんばかりに呟いたヴィルゴを見下ろす。

『時代のうねりに流され、どこへ向かうかも分からない旅人へ手を差し伸べるように。困難に抗い、苦悩に応え、共に歩み、道標みちしるべを示す明星の輝き……魔剣の意思が惹かれた理由は、そこにあるのでしょう』
「ヴィルゴって意外とポエマーだよね」
『茶化さないでください、ノエル。本心です』
「あっ、ごめんなさい……」
「しっかり上下関係が刻まれてる……」

 委縮したノエルに生暖かい目線を送っていると、ヴィルゴはふわりと浮かび、俺の眼前で制止する。

『あくまで私の適合者はノエル。そこに違いは無く、離れるつもりはありません。ですが、今後の状況次第では私の力が必要となる事態が訪れるでしょう。万全を期す為に、私とも繋がりを持っておくべきかと』
「ふむ、一理ある。検証したいこともあるし……一度、精神空間に入っておこうか。ノエル、やってもいい?」
「もちろん! というか、ボクもどうやるのか気になるし」
「そんな面白いものではないけどね」

 興味津々なノエルの承認を得て、ヴィルゴの柄を握り締める。
 すぐに意識を持っていかれるようなことはなかった為、静かに目を閉じて集中。
 リビングの照明すら通さず、音も無く暗転した視界。
 徐々に背中から落ちていく精神体が、常識と異常の境界線を越える。
 再び目を開けば、世界が白く色づいていく。空と地平まで続く、黒く縁取ふちどりされた幾何学模様。
 魔剣特有の空間に辿り着いたと確信し、地面に着地して辺りを見渡せば、刀身を浮かばせたヴィルゴが現れた。

『──本当に、平気なのですね』
「何度も経験してるからな。信じてなかったのか?」
『正直なところ、懐疑的な思いはありました。精神とは本性をさらけ出す自身の写し鏡であり、剥き出しの心臓そのもので脆弱です。一度ひとたび壊れてしまえば修復にとても長い時間を有する。故に人は自己を揺さぶられた際に自身を否定し、忌避し、偽り、仮面で隠そうとする』

 しかし。

『貴方にはそれが無い。常人が抱く恐怖心すら、貴方からは感じない。根底にあるのは理不尽に対する、攻撃的で燃えるような怒りだけ。……なのに貴方は感情を制御し、極めて冷静なままでいる。ノエルには無い、強靭で強固な凄まじい精神力……あなどっていた訳ではありませんが、これ程とは』
「買い被り過ぎだ。俺はただの凡人だよ」
『適合者が皆、貴方のように芯を持つ者ばかりではないのです。……認識を改めましょう。貴方は確かに、魔剣の持ち主として最適な人物であると』
「そいつは光栄だ。で、顔見せはこんなものでいいか? さっきからレオ達がこの空間に乗り込んできそうでやかましいんだ」
『ええ、戻りましょう。現実に』

 ヴィルゴがそう言うと、視界の端が段々と黒ずんでいく。
 精神の身体が浮かび上がり、現実世界の肉体へ。世界が色を失い、音を取り戻し、重力の重みを感じる。
 時間で言えば数分の出来事だったのだが、目を開けば、心配そうに顔を覗き込んでいたノエルと視線が合った。
 慌てて仰け反った彼女が椅子ごと転げ落ち、介抱してからヴィルゴを返す。
 恥ずかしそうに頭を掻くノエルに対し、エリック達の苦笑がこぼれる中、つい考えてしまう。

 ──いま思えば、俺は試されていたのではないか、と。
 協力関係となるアカツキ荘のメンバーが、信頼に足る存在であるかどうか。
 レオ達ですら特異と称する俺が、本当に適合者としてまともなのか。
 精神空間で交わした少ない問答。口先だけでなく行動で事実を示す。
 最後の一押しがあったからこそ、ヴィルゴの信頼を勝ち取れたように思える。
 手元を離れた今でも、白の魔剣との繋がりを感じ取れていることが、その証明なんだ。

「現実的で真面目、か。……ノエルにヴィルゴはぴったりかもね」
「んえ? クロト君なんか言った?」
「なんでもない。とりあえず、明日から図書館に行って過去の文献を漁ってみようかなって」
「おお、いいんじゃない? そろそろ期末試験だし、勉強がてら探してみたらいいかも。ボクもそういうのに詳しい人を知ってるから、そっちを当たってみるよ」
「分かった、それじゃよろし──待って。今なんつった?」

 俺の耳がおかしくなった訳じゃあないよな? 聞き捨てならない言葉が聞こえたんだけど。

「え? 期末試験? いつ?」
「んもー、なに言ってんの。納涼祭が終わって一週間後に試験があるのは例年と変わらないよ? 中間はヤマ勘が当たったり、他学年の授業補佐をしてなんとか赤点をまぬがれたけど……ボクは期末まで徹夜で知識を詰め込むつもりでいるよ」
「あと何日猶予ゆうよある?」
「今日をハブいたら、あと五日だね」

 なんともないように、ノエルは地獄のタイムリミットを告げる。

「……皆は知ってたの?」
「まあ、俺とカグヤは普通に知ってる」
「普段から予習と復習は欠かさなかったので、問題はありません」
「…………セリスは?」
「いま知った。納涼祭に全力を注いでたから、何も勉強しとらん……アタシ、詰んだ?」

 青ざめた表情で、不安を紛らわす為にか。ユキを抱っこしながらセリスは涙目を浮かべた。
 魔剣に関する方針を定めて、一難去ってまた一難。
 今度は学生としての現実が、俺達に牙を剥いていたと知るのだった。
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