自称平凡少年の異世界学園生活

木島綾太

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【五ノ章】納涼祭

短編 クロトのメシ《プロローグ》

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 魔科の国グリモワール日輪の国アマテラス、グランディアと呼ばれる三大国家。
 半世紀前。魔導革命と呼ばれる技術の変移を経て、更に国力を成長させた国の延長線上。
 線が混じり合い、点となる場所に位置する──冒険者の育成を目的とした学園を中心とした国家、ニルヴァーナ。

 立地の安定性と確実性の高い貿易路を構築している事に起因する商会の支援も相まって成り立つニルヴァーナには、建国の条件として三大国家から交わされた盟約が存在している。
 国王に即した立場こそあれど王家という枠組みが無く、当然貴族というとうとく青き血筋も無い。
 各国の技術力と同様に、ニルヴァーナも飛躍的発展を遂げたものの、そういった文化は根強く確かなモノとして、時代の流れに沿って残っている。

 だが、何度も言うようだがニルヴァーナにそんな制度は無い。
 代わりに冒険者や自警団、大小を問わない商会の助力、かつてより定住の地を求め辿り着いた他種族たちが民となっている。それでも、この世界の国家としては不安定で脆弱なのだ。
 決して埋められない穴を塞ぐために。
 他の国家とも渡り合うために。
 そして何より表面上には出さないが、時が進み受け入れられたとしても、数多くの他種族で構成されたニルヴァーナの監視役は必須だという目論見もあった。トップがフレンであることも加味しての共通認識だ。

 故に、現在ニルヴァーナは三大国家によって派遣された貴族たちがいる。もちろん、各国家の王とフレンの了承を得た上で。
 示威表示の意味もある別荘こそニルヴァーナの高級居住区にはあるが、実際に住んでいる訳ではない。
 各国の領地で最も遠い、境目となる部分。つまりは本当の意味での辺境を統治する貴族たちは、日夜舞い込んでくる自領地の問題を解決し、まとめつつも月に一度ある定例報告会を交わす為にニルヴァーナへ来訪する。

 それは今日もグランディアに本部を置く、冒険者ギルド支部の一室で行われていた。
 昨今の経営状況などを議題に挙げて冷や汗を垂らしながら説明するギルド支部長。
 街の状態や、どういった問題が起きていたかを書き連ねた資料を学園長がテーブルに並べる。
 そんな二人の前に座る男性が、グランディア方面の辺境領地を任せられたの貴族。

 元々はニルヴァーナを拠点にしていた有数な実力を持つ冒険者であったが、とある依頼を機にグランディアへ向かった際、大貴族の愛娘を救った事でヘッドハンティングされ婿養子となった。
 優秀な人材収集に抜け目のない、グランディアらしいやり口の犠牲者という訳だ。ただ強制的にではなく、しっかりとロマンスを繰り広げた上で大貴族の娘からプロポーズされ、婚姻を結んだので家族仲はかなり良好。

 冒険者以前に平民ではあるが学園の授業で礼儀作法を学んで下地があった為、特に問題なく貴族の仲間入りを果たし、高貴なる者の義務ノブレスオブリージュをこなしている。
 領民の需要や悩みを理解しやすく親身になってくれる上、元冒険者として経験を活かして領内の魔物モンスター迷宮ダンジョン被害を抑制し、グランディアの繁栄に貢献しているのだ。






 そうして立場や身分は違えど十数年来の付き合いがある、彼らのお話に今回は焦点を当てていく──訳ではない。






 お話の中心となるのは彼らでなく、貴族となった男と娘の間に生まれた子ども。
 大貴族の娘に蝶よ花よと育てられ、父が語った冒険者時代の胸がおどる話に憧れて。
 社会見学の一環と称して定例報告会に赴く父に付き添い、初めてニルヴァーナに降り立った娘の名はメリッサ。

 子どもながらの未知への探求心。
 冒険者という存在への憧憬。
 それでいて、貴族という身分を理解した振る舞いを兼ね備えたハイブリッド少女である。

 妙な連中に絡まれないように、と。平民を装った彼女は連れ添う待女と護衛──同じく平民の格好に変装済み──と共に、冒険者ギルドが建つ大通りメインストリート闊歩かっぽする。
 青空市場という領地内とは打って変わった活気と並ぶ商品に目を光らせながら、貴族の淑女教育から解放された彼女は水を得た魚のように走り回った。

 予算案や物価推移で頭を悩ませる定例報告会が続く中、ニルヴァーナを散策している彼女は満足そうに息を吐く。
 ……けれど、何か足りない。父の語る話はとても面白く興味深い物であり、実際に魔物素材や迷宮から生まれた産物を間近で見る事が出来たのは代えがたい経験であった。
 故に、もう一歩。冒険者を支える上で重要な部分に踏み込みたい。






 それは一体何か? そう──料理だ。
 魔物食材、迷宮野菜……冒険者の活動を補助する上で重要となる食の部分。迷宮料理とも呼ばれる代物に、メリッサは並々ならぬ熱を持っていた。
 元より貴族である以上、高級食材などは食べ慣れている。待女と護衛に止められて食べ歩きも出来ていないが、これだけは譲れない。

 迷宮料理の大抵はゲテモノだと聞くが、それがなんだというのだ。憧れは止められない。
 既に父の了承は取ってある。これも良い経験になるはずだ、と。冒険者ギルドに併設された酒場であれば、難しい物でもない限り用意してくれると聞いた。
 さらに僥倖なことに、酒場の調理を担当する料理長は父の知人なのだとか。ならば早速お願いしようではないか。

「料理長! お金に糸目はつけません! 子どものわたくしでもお腹いっぱい食べられて、それでいて大人でも満足するような味の、心がワクワクして堪らなくなるような料理を頂きたいですわ! もちろん、迷宮産の食材を使って!」
「注文が曖昧でふわっとしてるぅ~!」

 普段、声を荒げることのない料理長の悲痛な叫びが冒険者ギルドを揺らした。
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