189 / 249
【五ノ章】納涼祭
短編 護国に捧ぐ金色の風《本編 第四話》
しおりを挟む
冒険者ギルドを後にして大通りを進む。
いくら毎日がお祭り騒ぎな様相を見せていても浮き沈みはあり、今日は午前に比べて開かれている露店の数が少ないように感じた。
季節的な関係もあるのだろう。夏に近づき、午後になってから肌を蝕む不快な熱気も刺すような日差しも強くなったように思える。
対策も無しに、こんな環境で商売なんてやってられない。すれ違う人々の顔もどこかやつれているように見える。
違法武具の件もあり、つぶさに目を光らせようとも思ったが……まだ目安となるモノが不確定な現状では無駄でしかない。
露店市の特性上、同じ時間・場所で販売しているのは稀だ。知名度を広める為に広範囲で活動し、旗や立て看板などで人目を集めるのが基本的な立ち回りになる。
没個性にならない為に、他の店を出し抜く為に、売り上げを伸ばす為に。日々戦略を練って商魂逞しく生活しているのだ。
だからこそ、青空市場が持つ一期一会の魅力に取りつかれた者がいる。
値打ち物があるのではないか、掘り出し物と出会えるのではないか、どこから仕入れてきた物なのか。
ありとあらゆる貿易の中継地点でありながら、国家として確かな土台を持つニルヴァーナの特色を色濃く反映しているのだ。興味や関心を惹かれるのは仕方のないこと。
そして、俺は知っている。
毎日のように散財しては特産品やら置き物を抱えて寮に帰り、もう置く場所が無いと相手から怒られ、泣く泣く同級生たちに分け与える悲しき者を。
趣味でコレクションしている品を勝手に売り捌かれることに比べたらマシだろうが、身を切るような思いをしているのは間違いない男を。
「という訳で、無駄遣いのおかげで青空市場に精通してるデールに聞きたい話があるんだけど」
「一言余計だわっ! 別にいいだろうが俺の稼いだ金で買ってんだから!」
「迷惑になってんだから、物を置く場所が無いほど買い込む癖は直しなよ」
二年七組の教室。五時限目の授業を終えて各々のグループが歓談している最中。
頼りになる伝手である同級生、犬人族のデールは耳や尻尾を逆立てて抗議してきた。
「クロト、どれだけ口を酸っぱくして言ったところで無駄だぞ。長い付き合いのクラスメイトですら説得は無理だって諦めてるからな」
「エリック……まあ、そうでなきゃ今日に至るまでそんな噂は広まらないもんね」
教科書をカバンに仕舞いながら、肩を竦めるエリックの言葉に頷く。
今日は一時間目の授業を受けてから自警団のパトロールに参加し、午後から彼と合流する予定だった。少しの遅れはあったが、問題はない。
カグヤとセリスは別の授業で教室にいないけど、放課後に夕食の買い出しを手伝ってもらう手筈だ。……そういえば、二人もよく青空市場を利用しているから何か気づくことがあるかもしれない。後で聞いてみよう。
「ぜってぇ意味わからん骨董品やら訳分からん壺とか絵画とか買うようになって破滅するぞ」
「傾倒しすぎて財政破綻……貧相になる食事……粗末な服……荒れに荒れて窃盗……」
「なんだよ、お前ら二人してマジで失礼だな! つぅか俺、芸術品には興味ねぇぞ。あくまで国外の特産品とか名物、国や地域の特徴がある物に目が無いだけだ!」
「それはそれで凄い趣味だと思う」
デールは心外だとでも言わんばかりに、腕を組んでそっぽを向く。日頃から言われ慣れているからこその態度だった。
彼自身、歴史や地理の授業が好きなことが関係してか、他国の風情や歴史的文化遺産を見てみたい、と旅行計画の相談を持ち掛けてくることがあった。
だが、安易に他国へ足を運ぶことは難しい。長期的な休みが必要なのもそうだし、金銭的な意味でも厳しいだろう。
いくら魔導列車によって国外への移動が楽になったとしても、日帰り弾丸旅行なんて学生冒険者の懐事情でどうにかなるものではない。
そもそも魔導列車のチケットは高いのだ。安全保障と確かな信頼で成り立っているとはいえ、場所にもよるが行きだけで五~八万メルとかザラである。ポーション一本よりたけぇよ。
現地で宿泊する宿代に食費、土産物……考えれば考えるほど出費が膨らむ。考えるだけでも頭が痛い。
そんな事情も相まって、国外の品を手に入れる為の散財趣味なのだろう。……非常に申し訳ないがエリックの言う通り、遠くない将来に破滅する錯覚を見てしまうな。
「でも、きちんと自分で働いて稼いでるんだから偉いよねぇ」
「なに親みてぇなこと言ってんだよ、気味悪いな。……ってか、聞きたい事があるって言ってたろ? 何が知りたいんだ?」
「ああ、そうそう。実は──」
つい脱線してしまったが、本題に入ろう。
エルノールさんからの直接的な依頼であることはぼかし、自警団内で話題に上がっている違法武具が、装身具として青空市場で売られている可能性があると伝える。同時に、違法武具を使用した際の問題点と実際に診た症例も。
最近、冒険者ギルドに立ち寄ることはあっても迷宮を巡る機会が無かった。でも、エリックやデールなら迷宮での依頼を熟しているし、迷宮内で見かけた冒険者の情報を知っているかもしれない。
曖昧だが、希望的観測を込めて問い掛けてみたのだが……。
「いやぁ……さっぱり見当がつかん! 悪いな!」
「はー使えねぇー」
「おまっ、なんてこと言いやがる!?」
「どうどう。落ち着け落ち着け」
拳を振り上げたデールをエリックが羽交い絞めにして止めた。
「第一なぁ! いくら青空市場だからって大通り一本だけで何店舗あると思ってんだ! 二〇〇以上はあるんだぞ!? 大通り四本で八〇〇はあるし、しかも日替わりで場所が変わる上に装身具を取り扱ってる店なんて覚えてる訳ねぇだろぉ!!」
「うーん、改めて言われると正論だ、反論のしようがない。……デールならありえる、と思ったんだけど」
「頼りにしてくれんのは嬉しいが、詳しいからってなんでもかんでも知ってる訳じゃあねぇからな!」
「俺もデールの言い分は納得できるぜ。一つ一つの露店を調べるにも数が多いし時間が掛かる。装身具だけの露店に候補を絞っても、一日で探るには限界があるぞ……」
「むむっ……」
「それに分かってると思うが、自警団の捜査網が優秀でも限度はある。より確実に、手がかりを得るなら青空市場を直接見て回って調べるしかないが、人海戦術は相手に気づかれやすい。察して逃げられたら元も子もないぜ」
「あとはなんだ、違法武具の後遺症だっけ? んなもん素人目から見て判断がつくと思うか? 医者とかヒーラーとか専門職でもなければ、魔力回路の異常励起なんて“ああ、そんなもんか”程度で済まされるのがオチだ。安静にしてれば時間は掛かるが治まるしな」
「むむむっ……」
畳みかけてくる、ぐうの音も出ない問い掛けの答えに言葉が詰まった。
容易く手がかりを得られるとは思っていなかったが、こうも問題点を指摘されると自分の浅はかさを見抜かれてるようで顔が熱くなる。
「でも──新人冒険者にだけ接触を図っているってのは、良い着眼点だと思うぞ」
「……? なんで?」
「冒険者に成り立ての連中は不安なんだよ、自分の力が。本当にこれでいいのか、このままでいいのか、何かやれることがあるんじゃないかって焦りを抱えるんだ」
「ただでさえクラスの特性で筋力が弱まったり魔力の扱いが不得意になったり……今まで出来たことが出来なくなる恐怖ってのは根強いもんだぜ?」
「だからギルドは低ランク冒険者のソロ活動を推奨しない。単純に、自身への過信と慢心で死亡率が跳ね上がるからな。自分の得意なこと、苦手なことを理解した上で、仲間と補いながら攻略を進めるのが基本だ」
エリックとデール。それぞれ冒険者として先輩であり、経験則から語られる内情に導かれるように。
まだ分からないことだらけだが、一つだけ。本当の狙いに思い至る。
「──個人の劣等感や心の弱みに付け込んで、違法武具を装身具という形で提供している?」
「その辺りが妥当だろうな。逆に、熟練者はそんなもんに頼らなくても自分の戦い方を熟知してる。積み重ねを崩される装備なんて邪魔でしかないし、見向きもしねぇ」
「おまけに武器とか防具に比べれば、装身具は手ごろな値段で入手できる。鉄剣やら鉄の防具一式なんかは大体十五万から二十万ぐらいで、メンテナンス代なんかも含めれば費用はもっと掛かるが……」
「装身具は手入れなんかしなくたって効果が発揮されるし、物によっては壊れることなんて滅多にない。その上で三万から五万とか、簡単な依頼を一つ達成すれば十分手が届く範囲の値段だ。手軽な強化手段としてはうってつけなんだよ」
「なるほど。例え違法武具だとしても、絶対に法外な値段を吹っかけるとは限らないか。……あの新人冒険者が高いって言ったのも、金銭的に余裕が無いからそう思っただけ」
でも、だとしたら。
「金を稼ぐのが目的で販売してる訳じゃないのか? まさかとは思うが、善意で……?」
「魔力暴走を誘発させて破裂させるような危険物をばら撒いてる時点で、やべー奴に変わりはねぇだろ」
「そこは間違いなく問題だな。発見したら即摘発だろ、常識的に考えて」
「確かに。……ふーむ、なんだかんだ言って思惑が透けてきた気がするな。一歩ずつ、真相に近づいてる感覚があるぞぉ」
「自警団の仕事は大変そうだな。俺もやったことはあるけど、お前みたいにそこまで踏み込んだものは任せられなかったぞ」
「俺の優秀さに気づいたのかもしれない」
「クロト、寝言は寝てから言うもんだぜ」
「真顔でなんてこと言うんだ」
頭は大丈夫か、とでも言いたげなエリックにツッコむ。
……そんな長話をしていたら、いつの間にか放課後を知らせる鐘の音が響いた。デールは今日も今日とて青空市場に行くぜ! と意気揚々に教室を飛び出して。
俺とエリックも、アカツキ荘との女性陣と買い出しの約束がある為、集合場所に向かうことに。
兎にも角にも知りたい情報こそ手に入らなかったが、デールのおかげで分かることはあった。
コンプレックスを抱えた新人冒険者に手ごろな価格で、装身具という形で違法武具を提供している。この一点に関しては間違いないだろう。
犯人に直接繋がるような証拠ではないが、心理的な面から調査の助けとなることに違いない。
念の為に、それとなく違法武具関連の話題をカグヤとセリスに聞いてみたが、あまり気にしたことはないと言う。
これまでの捜査で犯人側の秘匿性が尋常でないのは証明済みだし、分からないのも無理はない。
『しかし断片的な情報のみで、事件調査一日目にしてはかなり良い進捗じゃあないか?』
『うむ。この調子で調べていけば、近い内に犯人へ辿り着けるだろう。今夜にでも、自警団の長と情報共有を行うのも良いかもしれんな』
『違法武具に関する新情報を把握しててもおかしくないし、夕食後に通話を掛けてみるか。……ところで、このキャベツはどっちが重いと思う?』
『……ほんの少しの誤差でしかないと思うが、左だな』
『じゃあこっちを買おう』
始めに八百屋で野菜を選別し、これからの相談を交わしながら。
店をいくつか回り、食材を買い込んだ俺達はアカツキ荘への家路に着いたのだった。
いくら毎日がお祭り騒ぎな様相を見せていても浮き沈みはあり、今日は午前に比べて開かれている露店の数が少ないように感じた。
季節的な関係もあるのだろう。夏に近づき、午後になってから肌を蝕む不快な熱気も刺すような日差しも強くなったように思える。
対策も無しに、こんな環境で商売なんてやってられない。すれ違う人々の顔もどこかやつれているように見える。
違法武具の件もあり、つぶさに目を光らせようとも思ったが……まだ目安となるモノが不確定な現状では無駄でしかない。
露店市の特性上、同じ時間・場所で販売しているのは稀だ。知名度を広める為に広範囲で活動し、旗や立て看板などで人目を集めるのが基本的な立ち回りになる。
没個性にならない為に、他の店を出し抜く為に、売り上げを伸ばす為に。日々戦略を練って商魂逞しく生活しているのだ。
だからこそ、青空市場が持つ一期一会の魅力に取りつかれた者がいる。
値打ち物があるのではないか、掘り出し物と出会えるのではないか、どこから仕入れてきた物なのか。
ありとあらゆる貿易の中継地点でありながら、国家として確かな土台を持つニルヴァーナの特色を色濃く反映しているのだ。興味や関心を惹かれるのは仕方のないこと。
そして、俺は知っている。
毎日のように散財しては特産品やら置き物を抱えて寮に帰り、もう置く場所が無いと相手から怒られ、泣く泣く同級生たちに分け与える悲しき者を。
趣味でコレクションしている品を勝手に売り捌かれることに比べたらマシだろうが、身を切るような思いをしているのは間違いない男を。
「という訳で、無駄遣いのおかげで青空市場に精通してるデールに聞きたい話があるんだけど」
「一言余計だわっ! 別にいいだろうが俺の稼いだ金で買ってんだから!」
「迷惑になってんだから、物を置く場所が無いほど買い込む癖は直しなよ」
二年七組の教室。五時限目の授業を終えて各々のグループが歓談している最中。
頼りになる伝手である同級生、犬人族のデールは耳や尻尾を逆立てて抗議してきた。
「クロト、どれだけ口を酸っぱくして言ったところで無駄だぞ。長い付き合いのクラスメイトですら説得は無理だって諦めてるからな」
「エリック……まあ、そうでなきゃ今日に至るまでそんな噂は広まらないもんね」
教科書をカバンに仕舞いながら、肩を竦めるエリックの言葉に頷く。
今日は一時間目の授業を受けてから自警団のパトロールに参加し、午後から彼と合流する予定だった。少しの遅れはあったが、問題はない。
カグヤとセリスは別の授業で教室にいないけど、放課後に夕食の買い出しを手伝ってもらう手筈だ。……そういえば、二人もよく青空市場を利用しているから何か気づくことがあるかもしれない。後で聞いてみよう。
「ぜってぇ意味わからん骨董品やら訳分からん壺とか絵画とか買うようになって破滅するぞ」
「傾倒しすぎて財政破綻……貧相になる食事……粗末な服……荒れに荒れて窃盗……」
「なんだよ、お前ら二人してマジで失礼だな! つぅか俺、芸術品には興味ねぇぞ。あくまで国外の特産品とか名物、国や地域の特徴がある物に目が無いだけだ!」
「それはそれで凄い趣味だと思う」
デールは心外だとでも言わんばかりに、腕を組んでそっぽを向く。日頃から言われ慣れているからこその態度だった。
彼自身、歴史や地理の授業が好きなことが関係してか、他国の風情や歴史的文化遺産を見てみたい、と旅行計画の相談を持ち掛けてくることがあった。
だが、安易に他国へ足を運ぶことは難しい。長期的な休みが必要なのもそうだし、金銭的な意味でも厳しいだろう。
いくら魔導列車によって国外への移動が楽になったとしても、日帰り弾丸旅行なんて学生冒険者の懐事情でどうにかなるものではない。
そもそも魔導列車のチケットは高いのだ。安全保障と確かな信頼で成り立っているとはいえ、場所にもよるが行きだけで五~八万メルとかザラである。ポーション一本よりたけぇよ。
現地で宿泊する宿代に食費、土産物……考えれば考えるほど出費が膨らむ。考えるだけでも頭が痛い。
そんな事情も相まって、国外の品を手に入れる為の散財趣味なのだろう。……非常に申し訳ないがエリックの言う通り、遠くない将来に破滅する錯覚を見てしまうな。
「でも、きちんと自分で働いて稼いでるんだから偉いよねぇ」
「なに親みてぇなこと言ってんだよ、気味悪いな。……ってか、聞きたい事があるって言ってたろ? 何が知りたいんだ?」
「ああ、そうそう。実は──」
つい脱線してしまったが、本題に入ろう。
エルノールさんからの直接的な依頼であることはぼかし、自警団内で話題に上がっている違法武具が、装身具として青空市場で売られている可能性があると伝える。同時に、違法武具を使用した際の問題点と実際に診た症例も。
最近、冒険者ギルドに立ち寄ることはあっても迷宮を巡る機会が無かった。でも、エリックやデールなら迷宮での依頼を熟しているし、迷宮内で見かけた冒険者の情報を知っているかもしれない。
曖昧だが、希望的観測を込めて問い掛けてみたのだが……。
「いやぁ……さっぱり見当がつかん! 悪いな!」
「はー使えねぇー」
「おまっ、なんてこと言いやがる!?」
「どうどう。落ち着け落ち着け」
拳を振り上げたデールをエリックが羽交い絞めにして止めた。
「第一なぁ! いくら青空市場だからって大通り一本だけで何店舗あると思ってんだ! 二〇〇以上はあるんだぞ!? 大通り四本で八〇〇はあるし、しかも日替わりで場所が変わる上に装身具を取り扱ってる店なんて覚えてる訳ねぇだろぉ!!」
「うーん、改めて言われると正論だ、反論のしようがない。……デールならありえる、と思ったんだけど」
「頼りにしてくれんのは嬉しいが、詳しいからってなんでもかんでも知ってる訳じゃあねぇからな!」
「俺もデールの言い分は納得できるぜ。一つ一つの露店を調べるにも数が多いし時間が掛かる。装身具だけの露店に候補を絞っても、一日で探るには限界があるぞ……」
「むむっ……」
「それに分かってると思うが、自警団の捜査網が優秀でも限度はある。より確実に、手がかりを得るなら青空市場を直接見て回って調べるしかないが、人海戦術は相手に気づかれやすい。察して逃げられたら元も子もないぜ」
「あとはなんだ、違法武具の後遺症だっけ? んなもん素人目から見て判断がつくと思うか? 医者とかヒーラーとか専門職でもなければ、魔力回路の異常励起なんて“ああ、そんなもんか”程度で済まされるのがオチだ。安静にしてれば時間は掛かるが治まるしな」
「むむむっ……」
畳みかけてくる、ぐうの音も出ない問い掛けの答えに言葉が詰まった。
容易く手がかりを得られるとは思っていなかったが、こうも問題点を指摘されると自分の浅はかさを見抜かれてるようで顔が熱くなる。
「でも──新人冒険者にだけ接触を図っているってのは、良い着眼点だと思うぞ」
「……? なんで?」
「冒険者に成り立ての連中は不安なんだよ、自分の力が。本当にこれでいいのか、このままでいいのか、何かやれることがあるんじゃないかって焦りを抱えるんだ」
「ただでさえクラスの特性で筋力が弱まったり魔力の扱いが不得意になったり……今まで出来たことが出来なくなる恐怖ってのは根強いもんだぜ?」
「だからギルドは低ランク冒険者のソロ活動を推奨しない。単純に、自身への過信と慢心で死亡率が跳ね上がるからな。自分の得意なこと、苦手なことを理解した上で、仲間と補いながら攻略を進めるのが基本だ」
エリックとデール。それぞれ冒険者として先輩であり、経験則から語られる内情に導かれるように。
まだ分からないことだらけだが、一つだけ。本当の狙いに思い至る。
「──個人の劣等感や心の弱みに付け込んで、違法武具を装身具という形で提供している?」
「その辺りが妥当だろうな。逆に、熟練者はそんなもんに頼らなくても自分の戦い方を熟知してる。積み重ねを崩される装備なんて邪魔でしかないし、見向きもしねぇ」
「おまけに武器とか防具に比べれば、装身具は手ごろな値段で入手できる。鉄剣やら鉄の防具一式なんかは大体十五万から二十万ぐらいで、メンテナンス代なんかも含めれば費用はもっと掛かるが……」
「装身具は手入れなんかしなくたって効果が発揮されるし、物によっては壊れることなんて滅多にない。その上で三万から五万とか、簡単な依頼を一つ達成すれば十分手が届く範囲の値段だ。手軽な強化手段としてはうってつけなんだよ」
「なるほど。例え違法武具だとしても、絶対に法外な値段を吹っかけるとは限らないか。……あの新人冒険者が高いって言ったのも、金銭的に余裕が無いからそう思っただけ」
でも、だとしたら。
「金を稼ぐのが目的で販売してる訳じゃないのか? まさかとは思うが、善意で……?」
「魔力暴走を誘発させて破裂させるような危険物をばら撒いてる時点で、やべー奴に変わりはねぇだろ」
「そこは間違いなく問題だな。発見したら即摘発だろ、常識的に考えて」
「確かに。……ふーむ、なんだかんだ言って思惑が透けてきた気がするな。一歩ずつ、真相に近づいてる感覚があるぞぉ」
「自警団の仕事は大変そうだな。俺もやったことはあるけど、お前みたいにそこまで踏み込んだものは任せられなかったぞ」
「俺の優秀さに気づいたのかもしれない」
「クロト、寝言は寝てから言うもんだぜ」
「真顔でなんてこと言うんだ」
頭は大丈夫か、とでも言いたげなエリックにツッコむ。
……そんな長話をしていたら、いつの間にか放課後を知らせる鐘の音が響いた。デールは今日も今日とて青空市場に行くぜ! と意気揚々に教室を飛び出して。
俺とエリックも、アカツキ荘との女性陣と買い出しの約束がある為、集合場所に向かうことに。
兎にも角にも知りたい情報こそ手に入らなかったが、デールのおかげで分かることはあった。
コンプレックスを抱えた新人冒険者に手ごろな価格で、装身具という形で違法武具を提供している。この一点に関しては間違いないだろう。
犯人に直接繋がるような証拠ではないが、心理的な面から調査の助けとなることに違いない。
念の為に、それとなく違法武具関連の話題をカグヤとセリスに聞いてみたが、あまり気にしたことはないと言う。
これまでの捜査で犯人側の秘匿性が尋常でないのは証明済みだし、分からないのも無理はない。
『しかし断片的な情報のみで、事件調査一日目にしてはかなり良い進捗じゃあないか?』
『うむ。この調子で調べていけば、近い内に犯人へ辿り着けるだろう。今夜にでも、自警団の長と情報共有を行うのも良いかもしれんな』
『違法武具に関する新情報を把握しててもおかしくないし、夕食後に通話を掛けてみるか。……ところで、このキャベツはどっちが重いと思う?』
『……ほんの少しの誤差でしかないと思うが、左だな』
『じゃあこっちを買おう』
始めに八百屋で野菜を選別し、これからの相談を交わしながら。
店をいくつか回り、食材を買い込んだ俺達はアカツキ荘への家路に着いたのだった。
10
お気に入りに追加
378
あなたにおすすめの小説

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる